第87話 叙爵

 物々しい巨大な扉が開くと豪華絢爛な『謁見の間』だった。


「エドガー・テオドール卿、入場!!」

 パーシヴァルさんに事前に教わった通りに中央の赤い絨毯の上を半ばまで歩く。


 そして臣下の礼のポーズを決める。

 ここまでは大丈夫だ。


「‥‥‥余がマルディア六世である。おもてを上げよ」

 言う通りに陛下を真っ直ぐにみつめる。

 三十過ぎくらいのめちゃイケオジって感じだ、陛下。


「ほう、良い面構えだの。まぁ気持ちだけでも楽にせよ」

「ありがとうございます‥‥‥」


 お付きの人が陛下の隣に剣を持って立った。

 剣を陛下に差し出す。

「陛下‥‥‥こちらを。テオドール卿、陛下のお側に」

「はっ」

 陛下は剣を手に取った。俺の頭や肩に剣の腹を当てるあの儀式だな。


 陛下の足下に跪き頭を下げる。

 剣を何かしてるけど下向いてるからわかんない。多分例の儀式だろう。


「この度の功績を讃え、エドガー・テオドールを五爵に任ずる。今後とも王国の為、民の為に励むように‥‥‥」

「王国の為、民の為に精進致します」


 セリフちゃんと覚えてきて良かった。これで問題ないはず。


「姿勢を正し、皆に向かい宣言せよ」

 立ち上がり、振り返る。


「今後も王国の為に励みます!!」

 パラパラと拍手が降ってきた。あんまり人いないからな。


「陛下が退場致します」

 声が響くと皆が揃って臣下の礼をとる。俺もワンテンポ遅れて礼をとった。

 これで陛下が完全に退場されたら解散になる。


「テオドール卿、陛下が待機部屋でお待ちです。こちらにお越しください」


 さっきの部屋に呼ばれた。やはりスムーズには帰れないらしい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おお、来たか、エドガーよ」

 呼んだのそっちだろ、そりゃ来るだろよ。


「お待たせして申し訳ありません」

「はは、ここは謁見の間ではないから堅苦しいのはナシだ。そこに座れ」


 ふかふかのソファに座る。

「いや、この度は本当に助けられたぞ、エドガーよ。お主の衛生や治療に関する知識でどれだけの民の命が救われた事かわからん」

「もったいないお言葉です」


「で、おそらく何度も聞かれてはおるだろうが。そのような知識はどこで? この王都の医官ですら知らぬ知識だぞ?」


 あー、きたか。絶対言われると思った。

 一応陛下には言った方が良いか‥‥‥?

 それとも誤魔化すか‥‥‥?


 ‥‥‥正直に言おう。


「では。信じていただけるかわかりませんが‥‥‥」

 前世の記憶の件をかくかくしかじかと陛下に説明した。そして顔が険しくなる陛下。


「‥‥‥そのような世迷言、余が信じると思うのか?」


 世迷言でも嘘でもないのだけど‥‥‥やはりこんな事信じてもらえないよな。王に対して嘘をついたとして罰せられるのだろうか‥‥‥?

 

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