第86話 王都②

「すみません、パーシヴァルさん。ちょっとだけ時間をください。話を聞いてみますので」

「わかりました」


 パーシヴァルさんは俺とアドルフの関係を察知したのか待ってくれる事になった。


「で、アドルフ。何があったんだ?」

「このところストラゴス様が怪しげな者を屋敷に招いておりました。どうやらよくない事に手を染めているようでして‥‥‥」

 何をしてんだよ、親父殿‥‥‥。


「その件を諫めようとしましたところ先日クビになりました。そして食べる金も無くなりふらついてしまって‥‥‥」

 それで馬車の前に出てしまった、と。

 あの安月給じゃ貯金とかも無かったのだろうな。


「わかった、アドルフ。その件に関しては心に留めておく。これから王宮に行かなくちゃいけないんだ、すまんな」

「! そうでしたね、失礼しました!」

 頭を下げるアドルフ。


「これを‥‥‥。これで少し食い繋いでくれ」

 白金貨を一枚手に握らせる。


「!? こんなに‥‥‥!! エドガー様、ありがとうございます‥‥‥」

 

 馬車に乗り込み考える。実家で一体何があったのか‥‥‥。


「ティナ‥‥‥、済まないが謁見中にその辺の事を探ってくれないか?」

「‥‥‥わかりました。エドガー様の叙爵の場面に立ち会えないのは悔しいですが」

 ごめんよ、ティナ。

 よしよし、頭撫でてやるからな。


 馬車は再び動き出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「‥‥‥相変わらずでかい宮殿だなぁ」


 マルディア王宮‥‥‥マルディア一世が建国した翌年に着工し、10年の歳月を重ねて完成したマルディア王族の住まう宮殿。


 貴族でも下級なら足を踏み入れる事もない。

 入るの自体も二度目だ。日本の記憶が目覚めてからは初めて。


 先王は俺が9歳の年に崩御し、それからは現王マルディア6世が継承した。戴冠式の日は図書館が臨時休館となって入れなかったのでよく覚えている。


 王宮の周りには堀があり、橋を渡って王宮に入る。

 もちろん検問を受ける。ここから先は招かれた者、王宮の職員、三爵以上の貴族でないと入れない。

 俺は招かれた者になるので従者一名を連れて入る事が出来る。


 いつもならティナを連れて行くところだが、ティナはノナン族。どんな誹りを受けるかわからない、そして先程の実家の事についての調査をしてもらう為ここで別れた。

 従者としてパーシヴァルさんを連れて行く事になった。


「エドガー様、こんなに長時間お側にいられなくなるのは正直辛いですが‥‥‥」

 ティナは泣きそうになっている。よしよし。


「‥‥‥すぐに調べて参ります。宿も押さえておきますので」

「頼んだ」


 ティナはダッシュで街へと戻っていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 王宮内もまた広い。案内してくれる人がいないと間違いなく迷う自信がある。


「こちらの部屋でお待ちください」

 案内された待機室ですら広いし気品のある調度品などが満載だ。


 ソファなんかは座ると埋もれるくらい柔らかい。

「あー、もう動きたくないな‥‥‥」

「これからが本番ですぞ? しっかりなさいませ」

 パーシヴァルさんに注意された。

 わかってるよ、冗談だよ。


 しばらくするとさっきの方が呼びに来てくれた。


「さて‥‥‥、行くか!」

 ここまで来たら仕方ない、気持ちを切り替えて向かうとしよう。

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