第13話 コイントス

 普段娯楽のない村ではこういうのを喜んで客が観にくる。ちょっとした人だかりになった。


「じゃあ始めるぞ」


 ピィーーン!

 親指でコインを上に弾く。回転して上がり、落ちてくる。右手の甲で受けて左手で押さえる。


 左手を上げてオープンする。

「‥‥‥表だな」

「次だ! さっさとやれ!!」


 二回目、同じようにコインを弾いて落ちて来たのを受けて見せる。

「‥‥‥また表だな。最後にもう一度行くぞ」

「待て!! そのコインを調べさせろ!!」


 当然のように怪しまれた。もちろんそうだろう。誰でもそうする。


「ほれ!」

 俺はマッシュにコインを投げてやる。受け取ったマッシュはコインをじっくりと調べている。


「何か不正なところがあったか?」

「わかんねぇ‥‥‥、だが次はこっちのコインを使え!」

 俺の渡したコインを置いて自分のポケットから別のコインを投げ返した。俺が受け取る。


「じゃあ最後の勝負だな、行くぞ」

「いや、待て! まだ怪しい!! セリス、お前がやれ。お前、コインをセリスに渡せ」

 マッシュが止めて提案する。ここまでやってケチを付けられても面倒だ。

「わかった」


 俺はセリスにコインを手渡す。

「! ‥‥‥最後の勝負だね。表ならエドガーの勝ち。裏ならアンタの勝ちだよ」

「わかってる!! さっさとやれ!!」


ピィーーン!!

 セリスの弾いたコインが回転しながら高く上がった。

 セリスが手の甲で受けて左手で押さえる。


「‥‥‥いざ、勝負!!」

「裏だ! 裏こい!!」


 セリスの左手が上がりオープンする。


「‥‥‥表だ! エドガーの勝ちだよ!!」

 セリスが宣言する。

 わっと周囲から歓声が上がる。



「くっ!! ‥‥‥いいだろう、今日のところはこれで手打ちだ。野郎ども引き上げるぞ!!」

 マッシュ一味は酒場から出て行った。


 一味が完全に出て行ったのを確認して人だかりも離れると俺とセリスが目を合わせる。

「ぷっ! あははは!!!! エドガー、アンタ結構ワルだねぇ!?」

「ハハハ、まぁな」


「どういう事ですか?」

 ティナはわかっていないようだ。マッシュにずっと銃を向けて警戒していたからな。弾いたコインすら見てなかったからな。


「こういう事さ」

 ティナにコインを投げ渡す。ティナが受け取りコインを見る。しばらく眺めて。


「あ!! ‥‥‥そういう事ですか!!」

 このコインはロキソに作ってもらった偽コイン。表は王の横顔、裏も王の横顔だ。


 マッシュにコインを投げ渡した時は普通のコインを渡した。手の中に偽コインを忍ばせて。

 マッシュから受け取ったコインは手の中ですり替えてセリスに偽コインを渡したという訳だ。


 セリスはすぐに気づいたようだったが、セリスの気付いた瞬間の反応にマッシュは気付かなかったようだ。そこが奴の敗因だ。

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