第12話 提案
スライムの魔石粉を散布した事で大地の力は回復したようだ。ダメだった麦の背も伸びてきたと報告があったそうだ。
ただこのままではよろしくないので持続可能な農業を目指さねばならない。
「村長さん、ご提案があります。聴いてもらえますか?」
「もちろん! なんでしょうか?」
俺は農業革命と言われる『輪栽式農業』の話をした。従来の穀物生産(小麦)に加えて飼料作物として栽培牧草(この世界だとクローバーにそっくりなクロッブという草)や、根菜類に代表される中耕作物(カブなど)の栽培を行う農法だ。
特徴として休耕地で牧草と根菜を作り根菜の半分は家畜に、残りを村人が消費したり出荷したりだ。
農地は広く、水も豊富なこの村だから可能かと思われる。
さらに次の手も考えてあるのだがそれはまた先の話だ。いろいろと準備が足りないからな。
「素晴らしい! 是非来期からはそれでやってみましょう!」
村長から村人に説明してもらおう。
村長宅でお茶でなく水を飲んでいたらセリスが駆け込んで来た。
「エドガー!! 大変な事になってしまった! 来てくれ」
「どうした、セリス? とりあえず落ち着いて水を一杯飲め」
「あぁ、うん。ありがとう」
コップを受け取りゴクゴクと水を飲み干すセリス。
「ふぅ、美味い。で、話なんだが‥‥‥マッシュ達と抗争になりかけている」
おおう、それはまた大変だな。
「どういう経緯で?」
マッシュ達が自分達のナワバリとしてあの酒場周辺を脅し回っていた。マール、バッツ、トライの三人が出張って注意したところ襲われそうになったので返り討ちにしたそうだ。
そのうちの一人が大怪我をして高額な薬を使ったのでそれを賠償しろと今度は迫ってきたらしい。
「それって、ソイツらが悪いんじゃないのか?」
「いや、何をされたとかじゃなく大怪我をさせた事自体がマズイんだ。賠償金は金貨100枚と」
バカバカしい話だ、しかし。
「黒の夢の資金なら払えるだろう?」
「‥‥‥解散した時に全員に配ってしまったので残ってないんだ」
あー、それはそうか。
「『三人を奴隷商に売っても大した金にならない! セリス、お前も責任を取って奴隷になるなら勘弁してやる』って言ってきて‥‥‥」
「面倒だからソイツら全員叩き切ってしまえばいいんじゃないか?」
「いや、それはさすがに!! 五人ともなると騎士団に捕まってしまうだろう。今度こそ縛り首だ」
やらないだけで出来なくはないんだ。
「高額な薬ってのは?」
「確かハイポーションと言っていた」
ぷっ! と噴き出してしまった。
「‥‥‥失礼。わかった、俺も行くよ」
「本当か!? すまない、エドガー」
「そうだ、金貨10枚はあるか?」
「それくらいはギリギリある」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よう!! セリス、金貨100枚持って来たのか? それとも奴隷になるのか?」
マッシュ、身体が大きいが態度もデカい。戦えばセリスの方が遥かに強いみたいだが。
「‥‥‥すまない、マッシュ。ワタシの全財産はコレで全てだ」
セリスが袋をマッシュの取り巻きに渡す。
「マッシュの兄貴、金貨10枚しかないぜ?」
「全然足りねーじゃねーか? 奴隷になりに来たんだな?」
セリスは肩を震わせながらマッシュの前に立つと、膝をついて土下座した。
「本当に済まなかった。この通りだ」
「お前の土下座じゃ金貨90枚にはならないんだよ!!」
土下座しているセリスの背中を踏みつけた。
「ぐっ! すまないがこうする事しか出来ない」
マッシュはセリスをげしっ! げしっ!っと何度も踏みつけた。見ていて気持ちのいいものではない。
「‥‥‥もうその辺にしとけ」
見るに見かねて俺が呟く。
「なんだ、このクソガキが!? てめーはだれだ?」
「俺はエドガー、セリスの友人だ。その辺でもういいだろう?」
するとセリスを蹴るのをやめてこちらに向かってくる。
「それ以上エドガー様に近寄るな!!」
側に控えているティナが銃を構える。が、俺がそれを制す。マッシュはティナの気迫に警戒したのかそこで立ち止まった。
「エドガー! 思い出したぜ、てめーがセリスをあんな風にしやがったんだな!!」
「いや、俺は村の人の思いを伝えただけだぞ」
「クソガキが大人の話に割り込んできやがって‥‥‥てめーが残り90枚払ってくれてもいいんだぜ?」
「言うと思ったよ。じゃあ一つ勝負しないか?」
「てめーと俺でか? 喧嘩でもしようってのか? 何の自慢にもなりゃしねぇ」
「バカか、俺のこの細い腕とお前の丸太みたいな腕とじゃ勝負になるはずないだろ。コレだよ」
と、俺はコインを一枚取り出す。
「3回連続で表が出たら俺の勝ち。1回でも裏が出たらお前の勝ち、でどうだ?」
「はぁ? 何だ、その勝負は?」
「俺が勝ったらこの話はここで手打ちだ。俺が負けたら金貨200枚払ってやるよ、どうする? お前に有利過ぎて怖いか?」
「‥‥‥よし、いいだろう。やってやるよ!」
よし、乗ってきた。
「この店の客が証人だ。約束は守れよ」
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