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 「新聞部?」



  ほかに言うべきことがもっとあるはずなのに、動揺しまくりの俺の口から出てきたのは、ただ五十嵐くんが言ったことのオウム返しだった。



 「そう、新聞部。

 たしか家入くんは部活とか入ってないんだっけ、新聞部なんて地味な部活があること、知ってたりしないよね。


 毎月、職員室の前とか、校内のいくつかの掲示板に作成した新聞とか貼ってるんだけど、それから学校のホームページからも電子版が見れるよ」



 …まったく知らなかった、うちの学校に新聞部があったなんてこと。


 でも素直に知らなかったなんて言うのは失礼だから、またしても俺は曖昧な笑顔を浮かべることで誤魔化した。


 だけどとりあえずなんか相槌打たなくちゃと思って、でもまだ頭はうまく回らなくて、ものすごくバカみたいな返事をしてしまった。



 「へ、へぇー…新聞作るのって楽しい?」



 「元々、新聞部に入った目的みたいなものは、将来のことを考えてだったんだけどね、将来的には報道関係の仕事をしたいって思っててさ、その方面に強い大学に進学しようって考えてるんだ。

 だからって今、高校で新聞部やってることがその近道になるとは思わないけど、そういう活動をしていたってことが、ゆくゆく面接のときとかにさ、アピール対象になるんじゃないかって思って。


 だけどさ、それはそれとして、やっぱり新聞作るのって楽しいよ。

 いろんな人に会ってインタビュー取ったり、情報の裏付けのためにいろいろ調べたりさ、面白い記事を書こうって部員みんなで団結して、協力して、やっと人に見せても恥ずかしくない出来の新聞が完成したときとか…達成感あるよね。

 そういうのを積み重ねていくと、いい経験ができてるなって感じるよ」



 「へえぇー…そうなんだァァー…」



 い、五十嵐くん…めっちゃしっかりしてる…。


 きらきらと輝く瞳で、熱心にそう語る五十嵐くんを見て俺は…なんかものすごく引けを感じた…。

 やりたいことやって将来的に成長している最中の五十嵐くんに比べて、バカ探偵やってた俺ときたら…みじめだ…。



 「それでね、僕たちが作っている新聞記事の内訳に、いくつかのコーナーがあるんだけど、そのうちの人気コーナーのひとつが、『学校の七不思議、解明!』ってやつなんだけどね」



 なにかに打ちのめされた気持ちでいっぱいの俺は、ああ…ついにここから『血の涙を流す絵画』とやらの説明が始まるんだろうな…と、どこか傷ついた気持ちのままぼんやりと思った。



 「うちの学校の七不思議をね、毎月ひとつずつ取り上げていって、その正体を解明するっていうネタで、ついに今回、七不思議最後の怪談として取り上げたのが『血の涙を流す絵画』の謎だったんだ」



 ああ…ほら来たよ、『血の涙を流す絵画』…。

 こっから説明が始まるのかぁ、ハァ…怖い話ヤダ…。



 「人気コーナー第七回の最後を締めくくるオオトリだからね、僕たちも気合を入れて『血の涙を流す絵画』についての取材に入ったんだよ。


 でもね…その取材のときに、すごく奇妙な出来事があって…。


 あ、その話をする前に、一応確認させてもらいたいんだけど、これから話すことは…秘密にしてもらえるかな。

 誰にも話さないでほしいんだ、これから話にでてくる当事者にも、僕がこのことを家入くんに言ったってこと知られるとまずいんだよ。


 だから…ここだけの内密の話ってことで、…ごめんね、こんな言い方しちゃって、家入くんはそんなこと軽々しく他人にしゃべったりしないって確信は持ってるんだけどさ。

 そもそも探偵には、守秘義務ってものがあるもんね」



 ちょっと申し訳なさそうな顔をしながら、俺の顔色をうかがうようにしてお願いする五十嵐くんへ、にっこりと笑顔を浮かべながら俺ははっきりと答えた。



 「もちろん、勝手に誰かに話したりはしないよ。

 と も だ ち としての守秘義務があるからね」



 くどいくらいに『ともだち』を強調しながら俺がそう返事をしたら、五十嵐くんはホッとしたような安堵の表情を浮かべてから、また真剣な顔に戻り、そして話を続けていく。



 「ありがとう家入くん、じゃあ聞いてもらえるかな、あの日のこと…あのとき起こった不思議な出来事を」


 

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