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「ええと、あのときは…そうそう、テーブルの上に置かれたままだった家入くんのスマホがバイブでカタカタしてたんだけど、みんなしゃべってばっかりでまわりがうるさいから誰も気づいてなくて、僕があわてて手をのばして取ったんだ。
それで切れちゃわないように急いで出て、すぐにもしもしって言ったら、電話の相手に「あれー? 江蓮君じゃないなぁ?」って言われたんだよね。
僕が、「家入くんのお兄さんですか? 家入くん、いまトイレに行っているんです」って話したら、相手の人は笑って、「いやいやいや、オレが江蓮君のお兄さんってそんなわけないよ、おっそろしい!」ってなぜか爆笑されて…」
んがあぁぁ! また挨拶代わりに安定の余計な犬彦さんへのディスをぶっこんできて茜さんめぇぇっ!
「じゃあ違う人からの電話とっちゃったんだなって、ちょっとあせったんだけど、相手の人はすごく明るいカンジで、「じゃあ江蓮君にまた今度連絡し直すって伝えておいてくれるかな、別に急ぎの内容ってわけじゃないからさ」って。
ごめん、これ伝えるの忘れちゃってて」
「あ…ううん、気にしないで、本当にその人の用事ってどうでもいいことだと思うから…」
ちょっと申し訳なさそうな顔をしながらそう話す五十嵐くんへ、本当に茜さんの言うことなんて(心底)どうでもいいんですよ、というアピールを満開にしながら俺はやさしく返事をする。
(ちなみに、このときの茜さんからの俺への用事っていうのは、いつものごとく、結局また俺をやっかいな出来事に巻き込んでいくわけになるんだけど、今ここでは関係ないので除外する)
「それでその人はそのまま、「じゃあ江蓮君によろしく伝えといてねー」って言って電話を切ろうとしたんだけど、その前に「難事件を解決する名探偵ワトソンである江蓮君にとっての、唯一無二の相棒である超名探偵なホームズさんからってね!」って、めっちゃ楽しそうに笑いながら電話を切ったんだ」
んびゃああぁぁっ!! なっに最後にとんでもない爆弾発言残してくれてんだよぉぉぉっ!!
大人なんだから、知らない相手に対して中二病発言しないでくださいっ!!
「あ、あのさ、五十嵐くん、ホント、気にしないで、その人の言ったこと…。
ちょっとさ、おかしな人なんだよ、ウン、そうそう、ウケ狙いですぐ変なこと言う人なんだよ、だから…」
頭のなかはイライラとかムカつきとかで、ぐるぐるしていたものの、俺は努めて穏やかな笑顔を浮かべながら、茜さんの言うことなんかたいしたことじゃないんですよと五十嵐くんに信じてもらえるように、一生懸命言い訳をした。
探偵がどうしたこうしたなんて話を、ぜったいに学校の友達には知られたくない…!
ただでさえ探偵がなんとかとか推理がどうとかって話は、もう一瞬でも考えたくないのに、過去にそれっぽいことをしてたらしいなんてこと、ちらりともバレたくない!
うう、このときの俺の必死さ…どう言えば伝わるだろうか?
そう…例えるならあれだ、クラスメイトには絶対知られたくないと思っている、子供っぽくて恥ずかしい秘密の趣味がバレかけている、そんな状況なんだこれは!!
ジェントルマンな笑顔を浮かべながら(なんだそれ)優雅に(それでいて内心では必死に)言い訳を繰り返す俺の様子を、となりの席から五十嵐くんは黙ったままジッと聞いていてくれていた。
よし、このまま言い訳を押し切って、うまく誤魔化したうえで、うやむやに終わらせよう…!
「だってよく考えてみればわかるでしょ?
この俺が、探偵…だなんて、そんなわけないじゃん、そんなふうに見えないでしょ?」
よし、いけるぞっ!
五十嵐くんって普段からおとなしいタイプだし、このままぐいぐい押していったら逃げ切れるっ!
…と、俺はこのとき楽観的に(あとから考えれば)思っていた。
そして、それがまちがいだった…。
「ううん、そんなことないよ」
へらへらと誤魔化しを続ける俺の長々とした言葉を、五十嵐くんはいきなりきっぱりと否定した。
「えっ」
「僕はね、ホームズさんが家入くんのこと『難事件を解決する名探偵』って話したとき、なんかすごくしっくりきたんだ。
なるほど、それはそうかもしれないって。
言われてみるとそうかもしれない、いや、そうなんだろうって。
家入くんって、探偵っぽいよ、言われてみれば雰囲気がそれっぽい。
クラスでは家入くん、運動系の明るいタイプの人たちとつるむこと多いじゃん、けっこう中心になって騒いでることも多いよね。
けど家入くんって、それだけのバカっぽいタイプとはまた違う」
(あれっ?)
俺はこのあたりから、五十嵐くんがただおとなしいだけのやつじゃないことに、じわじわと気づき始めた。
「たぶん、人に合わせることが得意なんだと思う。
そういうメンバー以外にも、文系のやつらとか女子とか先生とも普通に上手くやってるし。
でも、ただ人に合わせるだけで、自分が無いタイプとも違う。
家入くんってムカつく先生とかに向かって、露骨に歯向かうときあるでしょ、そういうところは妙に不器用だよね」
えっ、えっ、なにこの話の流れ…なんか尻がむずむずするんですけど…。
恥ずかしさ(?)なんだろうか、そわそわしだす俺のことなど気にすることなく、そのまま五十嵐くんは続ける。
「でも、人を傷つけるようなタイプじゃない。
むしろ、それを恐れてるから、誰にでも合わせられるんだ。
人が傷つけられるのが嫌だから、ときに歯向かうんだ。
そして、そういう性格の人には、観察力が備わると思うんだよね。
みんなの中で楽しそうにワイワイしてても、ときどき家入くん、何か考え込むみたいにして、遠くのほうを見てるときとかあるよね、自覚ないかもしれないけど。
そういうのに気が付くとさ、わからないけど感覚として…家入くんにはきっと、みんなの知らない秘密があるだろうなって、前々から感じてたんだ。
で、そういういろんなことがさ、ホームズさんの言葉で、点と点がつながって一本の線になるみたいに、パッとつながったんだよ。
そうか…そうかもしれない、家入くんは探偵なのかもしれない、って」
犬彦さんばりのポーカーフェイスを装うつもりだったのに、もはや俺はポテトを食べることも忘れ、パクパクとまぬけな金魚みたいに口を開けながら、動揺しまくりの顔で、五十嵐くんをみつめることしかできなかった。
そんな大完敗な俺を見て、にっこりと五十嵐くんは微笑みながら、いかにも勝者といったカンジで、キメにこう言った。
「どう? 僕、人を見抜く力には自信があるんだ。
だって新聞部だからね」
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