2 血の涙を流す絵画の謎


 「今回の『血の涙を流す絵画』のネタをみつけてきたのは、千秋だったんだ。

 あいつはいろんな方面に知り合いがいるからさ、美術部員のツテを使って、『血の涙を流す絵画』の怪談を検証する機会を手に入れてくれた。


 家入くんは、千秋のこと知っている?」



 「えっと、もしかして3組の岡本千秋?

 知ってるよ、今日みたいにみんなで集まって遊んだときに何回か一緒になったことあるから、…あれ、でも岡本くんって新聞部だったっけ?

 岡本くんはサッカー部とかバスケ部とか、そういう系の部活に入っていたような気がしたけど」



 また意外な話が出てきた。


 さっきまでの五十嵐くんと同じで、俺は、岡本くんの人柄についても(別のクラスというのもあって)顔見知り程度の知識しかない。


 俺の知っている岡本くんという人は、とにかく明るいキャラで、典型的なムードメーカー、集団のなかに岡本くんがいると、とにかく周りを盛り上げてくれるから、みんなで行動するときには彼がいてくれるだけで全体のテンションがいつだって上がるので、助かるなって、そういうイメージ。


 勉強はあまり得意じゃないけど、運動系ならなんでもできる、そんなタイプ(そういうとこは、俺と似てるから親近感あるかな)だから岡本くんが、どちらかというとおとなしめで(…と、さっきまでは思っていた)優等生タイプの五十嵐くんと、どうやら仲がいいらしいことを知って(五十嵐くん、彼のことを千秋って呼び捨てにしてるし)ちょっとおどろいた。



 「千秋は、はじめサッカー部に入ってたんだけど、それをちょっと前に辞めて新聞部へ異動してきたんだ。

 それで今は部員たちと一緒に新聞記事を作成してる。


 でさ、本当ここだけの話なんだけど、これまでやってきた『七不思議特集』ね、実は…うちの学校に特別そういう怪談が昔からあったわけじゃないから、けっこう無理矢理に七個分の怖い話を、自分たちで作ってきた部分があるんだ。


 例えば『昼と夜で段数が変わる4階端の階段』とか、『まばたきをする歴代校長の写真』とか、ね。

 まずは始めに、①こんな怪談のうわさがあるらしい、と持ち上げて、②実際にぼくらが検証体験をする、そして③体験レポートを書き、④怪談の真偽について結論をまとめる、⑤結論は、だいたいにおいて現実的な見方で否定ぎみに終わらせる、⑥でも夢を残すために、ちょっぴり怪談テイストはとっておいて、信じるか信じないかはあなたしだい…で、完了。


 どう? 裏話をしちゃうと、なーんだって思われるかもしれないけど、写真と一緒に文章で読んでもらうとけっこう面白いんだよ、よかったら電子版で家入くんも読んでみて」



 「アハハハ…」



 実は作り話なんだよって言われても、怖いものは怖いんだよぉ…。

 よく怪談の検証体験なんかできるなぁ…俺だったらお金もらってもしたくないよ、そんな怖いうわさがあるところ、一歩たりとも近づきたくない、せいぜい犬彦さんが一緒にいるときだったら、そこを通り過ぎることくらいはできそうだけど…。

 攻撃力守備力ともにオール999999越え確実の犬彦さんがいてくれるなら、おばけも怖くない…と思う、たぶん…。



 「それで、最後の最後に七番目の怪談のネタが尽きちゃってね、困っていたら、千秋が『血の涙を流す絵画』の話を引っ張ってきてくれたんだよ、すごく助かった。


 そんなわけで僕たちはさっそく、『血の涙を流す絵画』の取材に入ったんだ。

 あ、そのときの話をする前に、肝心の『血の涙を流す絵画』っていうのがどんなものか説明するね」



 そこまで話すと五十嵐くんは、自分のコーラをごくごくと飲んだ。


 本当に五十嵐くんは、新聞部の活動が好きなんだな…。

 だって新聞部のことについて話しているときの五十嵐くんは、ものすごくいきいきしてるもんな、クラスにいるときで、こんな楽しそうに自分からいろいろ話している五十嵐くん、見たことないし。


 

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