第5話 才女
千年もの長きに渡り蔵の中で静かに眠っていた書物は、今やわたくしの書斎の机上であられもない姿をさらけ出していた。
表紙という名の衣を
この
おっと、ここで一息。
わたくしは少し離れた棚の上に置いてある
灰色の脳細胞に
さて、そろそろ物語を進めましょうか。
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「ここが
姫君の問いかけに、「さようでござる」と答える若侍。
場所は移り、
供の者を五名ほど引き連れて今は使われていない屋敷の庭先まで案内する若侍。
そこで姫君の視界に映ったのは、ムラ一つなく切り揃えられた草木、透き通るような池の中を泳ぐ鯉、良く磨かれた
ただ、ある一角だけ、いびつな空間があった。
踏み荒らされた後の残る雑草の地面。
わずかに焦げ付いたまま放置された
所狭しと残る壁の傷。
そして——
「ふむ、瓦が欠けておるな」
「瓦?」
「塀の瓦よ」
そう言うと姫君は屋敷の塀の上、連なる青い屋根瓦を扇で指された。
「確かに欠けておりまするが、それが何か?」
「そなた、あの晩やりおうた相手の顔を覚えておるか?」
「いえ、夜目のせいか少しぼんやりしておりましたゆえ」
「で、あろうな……」
そう
「たしか
「はい」
「あの晩は、特に蒸せ狂うような暑さであったな」
「さようでござったな」
「その上、
と、姫君は閉じた扇の先で鉄籠を指す。
ちなみに
それから「あとは」と姫君、池を囲う
「ほどよい冷たさであるな」
「姫君、先ほどから何をされておられるのでござるか?」
「まじないの儀式である」
「儀式……今のがでござるか?」
「さよう、これで後は雨が降れば『結界』の完成よ」
「雨? 結界?」
いよいよ訳が分からなくなり、首をかしげる若侍。
「うむ、今宵は終いである。われは帰って術式を組むがゆえ、また
「はっ、承知仕りました」
うやうやしく頭を下げる若侍。
その傍らに寄ると、姫君は扇を広げながら小さく耳打ちした。
「
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