第2話 姫君
昨夜は、それは見事な
まるで千年に一度あるかないかというほどの美しさで、かの物語につづられた
そして――そんな月夜の晩に起きたある事件を巡り、一人の姫君の物語が静かに幕を開けるのでした。
☽✡☉✡☉✡☾ ☽✡☉✡☉✡☾ ☽✡☉✡☉✡☾
それは、かように麗しき月が
天より舞い降りたる車が、美しき姫を乗せて飛び立っていったという、一夜の夢がごとき話。
口さがない
こと、宮中にいたっては、真偽定かならぬ話が飛び交う始末。
つい先頃も、
「
「たしか不老不死の
「それを
「ほっほっほっほ」
などと公卿たちが冷ややかに談笑していたほどだ。
にしても、
「不老不死のぅ……」
すれ違う殿方らを尻目につぶやきたるは、やんごとなき一人の姫君。
薄紅色の
☯✮☯✮☯ ☯✮☯✮☯ ☯✮☯✮☯
形ある物はいずれ
☯✮☯✮☯ ☯✮☯✮☯ ☯✮☯✮☯
胸の内でそうつぶやきながら姫君が思案顔で廊下を歩いていると、
「あら、そこにおられましたか。
後ろから鈴のような可愛らしい声で呼び止められる。
振り返ると、紫の
この
「これは
「はい、
「わかりました。では、中宮さまのご機嫌うかがいに参るといたしましょう」
☽✡☉✡☉✡☾ ☽✡☉✡☉✡☾ ☽✡☉✡☉✡☾
「
「はい、こちらに」
板張りの床の上で
その
「お待ちしておりましたよ」
「はい
「ええ、とても」
「それは
そこで姫君、初めて垂れていた頭を上げ、口元を袖で隠しながらにっこりと笑みを浮かべる。
中宮さまも同じく口元を隠し、二人で軽やかに笑う。
そして、
「
「何か気になることでもございまするか?」
姫君が問うと、中宮さまは膝元に折りたたまれた扇を手に取られた。
「実は
「一月前と申しますと、まだ暑さの残る頃合いでござりますね」
「そうそう、わたくしも
「その隙を突かれた……と?」
そこで扇を開き、口に当てながらうなずく中宮さま。
「困った
「それは名案ですね」
そう言って、姫君と中宮さまは口元を隠して「ほほほ」と笑う。
「そういえば、『不老不死の霊薬』なるものを帝が燃やされたとか?」
ふと思い出したかのように、姫君が問いかける。
「ええ、
「さようでございましたか。帝が薬を燃やされたとされる山はおそらく歌にも読まれた『
「そこまで読み取るとは流石ですね」
ピタリと場所を言い当てた姫君の推理に感心する中宮さま。
おそらく『
「されど、あそこはその名のごとく『尽きることなき
「では、霊薬を焼いたのはそこではないと?」
「はい、わが見立てでは、おそらく……この近隣で最も天上に近い『
また、都を追われた
「やはりそなたを呼んで良かった」
そう
冷たい床板の上に置かれたそれを手に取り、はしに記された一際大きな一文字に目を止める。
「この
「こたびは
「なるほど、それで吉野参りの話を振ってお試しあそばれたわけですか」
そう
「頼まれてくれますか?」
「他ならぬ中宮さまのお願いであれば喜んで」
「では、大納言には
「はい、中宮さま」
☽✡☉✡☉✡☾ ☽✡☉✡☉✡☾ ☽✡☉✡☉✡☾
姫君はその日、余りにも煩わしい声で目を覚まされたという。
「たのもう、たのもう!」
門前で響くその声は力強く、しかし
はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~……
姫君、大きくため息ついて曰く、
「ぶしつけにもほどがあるとは
姫君は、
「
この『
「
一礼すると、
それの姿が見えなくなる頃合いで、姫君は扇で口元を隠しつつ、ぼそぼそと胸の内を零された。
「さても無礼な殿方には、しつけをほどこさねばならぬのぅ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます