うらのつかさの姫君

さる☆たま

第1話 竹取


 いまはむかし、たけとりのおきなといふものありけり――


 誰もが知るその物語は、この一文から始まる。

 だが、あまりにも有名なその物語に誰も知らない「ある秘密」が隠されてれていたとしたら?


 その可能性を検証し、そこから答えを導き出す。

 これは、そういうお話。



   ☽✡☉✡☉✡☾ ☽✡☉✡☉✡☾ ☽✡☉✡☉✡☾



「はぁはぁ……」


 それは、竹が青々と生い茂る暗い藪の中。

 その一角、小さく灯る光の中で「おぎゃあ、おぎゃあ」と泣く声一つ。


「……あ、赤子あかご……?」


 初老と思しきその男がくわを片手に見つめる先で、玉のように愛らしい容姿の女の子が鳴き声を上げていた。

 ぽたり、ぽたりと雫が落ちる。


 そして――男は赤子を抱いて左右を見渡すと、逃げるように足早に竹藪を駆け抜けていった。


 それからしばしの時を経て、宮中を騒がした怪事件が幕を開けた。

 貴公子たちはおろか、みかどさえもとりこにした竹取のおきなむすめ――


 名を『なよ竹のかぐや姫』といった——


 彼女にまつわる伝説はあまりにも有名である。

 言い寄る男たちに無理難題をふっかけては諦めさせ、帝の寵愛ちょうあいすらも受け入れず、袖にし続けてきた魔性の女。

 そして、月からの遣いが迎えに来ると、涙ながらに育ててくれた両親に別れを告げて、飛び立っていったという。



 けれど、これがどうでしょう?



 月明りが漏れる蔵の中、黒光りする漆の箱。

 その蓋を開けると、そこには『鬼桐草子おにきりそうし』と題された茶色い表紙の冊子さっしが大切に保管されていた。


 わたくしは、ゆっくりとそれを手に取って封を解いた。


 そこに記された、ある『姫君』の記録を——

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