第7話 朝の作戦会議

 唯が目を覚まして少し経ったころ、目玉焼きとベーコンを焼く香ばしい音と共に、トースターから香ばしい焼きたてのパンの匂いが、部屋に充満していた。


「焼きたてのパンは食欲そそられるよな」


「そうですね、レイナ様」


 レイナと唯はテーブルの前で、昨日の話をしながらルカの料理を待っていた。最初はルカを手伝おうとしていた唯だったが、レイナの命令で今は膝枕をしていた。


「勇気だけでなく、可愛い気もあるとは。私の神殿が出来たら、唯を天使長にしよう」

「あ、ありがとうございます」


 レイナは唯の太ももの上で頭をころころ転がして遊び始めていた。


「おい、いちゃつくなら他所でやってくれよ」

「何言ってんだ。神に触られるなんて、光栄なことだろ。すべすべして気持ち良いなー」


「障りが起きなければ良いけどな」


 無抵抗のまま太ももを遊ばれ続けている唯は、目を泳がせていた。


「えっと、それで……レイナ様はどうしてここに?」

 ルカは目玉焼きをパンの上に乗せていく。


「昨日泊めたんだ」

「と、泊めた……女性、いや神様だから、そういうことはありえない……よね?」


 ルカはフライ返しを持った手を横に振った。


「あー、ないない。だって、いったい何年現界してるんだって――――」



 途端、キッチンに向かってコップが飛んできた。ぶつかる、すんでのところでキャッチした。


「あぶねえ! 何するんだよ!」


「よくわからねえけど、今、私のこと馬鹿にしてただろ! 不敬だ!」


「馬鹿にはしてないって!」


 髪の毛を逆立て唸り声を上げるレイナ。しかし寝ころんだままのせいで迫力は感じない。


「ったく、行儀が悪すぎるよ、この女神」


「神に礼だの儀だのが通用するもんか、ニンゲンだけだ、そんなのがあるのは」


「ダメだよ、ルカ君。レイナ様も女性なんだから。神様でも人相手でも、今のは失礼だよ」

 味方を見つけたレイナはニヤッと笑うと、唯を寝ころびながら抱きしめた。


「全くその通りだ。よく言った唯。褒めてやろう」


 元々が犬の神だということもあるのだろう。唯に甘えている姿は威厳の欠片もなかった。


「今日はなんか調子狂うなあ……」



 ため息をついている間に、料理は完成し目玉焼きとベーコンを乗せたトーストを、テーブルに置いた。


「うまそーっ!」


 レイナは身体をぴょんと起こし、唯のとなりに姿勢よく座った。


「ほんと食欲が一番なんだな……」



 手を合わせ、トーストを大きくかじりついた。レイナはもぐもぐしながら口を開く。


「ひょろひょろ」

 手で待てと合図を出し、ごっくんと飲み込んだ。




「そろそろ、今日の話をしようじゃねえか」




 ルカがトーストをかじるのを見て、唯もゆっくり食べ始める。緊張していた顔がほころんでいた。


「なんだ、事件の調査、手伝ってくれるのか?」


「ああ、さっきは不敬があったような気もするが、一宿一飯の恩もある。そうだな、二日くらいは手を貸してやっても良い」


 レイナは自分の瞳を指さす。ルカが神だからこそ、返そうと思った恩だと言いたいのだろうか。


「ありがとうございます、レイナ様! この御恩は忘れません」


「気にすんな。それで、どこに行くつもりなんだ?」


「はい! どうしようか、ルカ君!」


「俺がやるんだね……本当は、今まで被害に遭った人に会って話を聴くのが一番だと思うんだけど、難しいんだよね」


 莉音を始めとした自殺未遂をした人たちは全員、未だ目を覚ましていない。


「だから、とりあえず学校に行こうと思う。警察や天使が調べているだろうけど、屋上に何か残っているかもしれないし」


 ルカはレイナを一瞥する。警察や天使と違って、今回は神がいる。実際、莉音を見つけたのは匂いを辿って学校まで来ていた、黒犬のレイナだ。


 ルカは二口目を食べる。トーストのカリッとした食感、目玉焼きの黄身の濃厚な味が口の中に広がる。


 そのころには、レイナと唯は綺麗に食べ終わっていた。



「そうと決まれば、善はダッシュで、早速行きましょう!」



 気の早いレイナと唯は、立ち上がった。

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