断章

某日

 明るい、暗い。


 綺麗、汚い。


 眩しい……わからない。そのあたりの知識は、深くない。醜い私に与えられたのは、人間と同じ姿と、役目のために必要な力だけだった。でも、それで十分。


 目を細めたくなるような眩しくて明るい青空の下、私の視線の先には人間たちが、何かに縛られることもなく咲き誇っていた。

 その酷く綺麗に生きる人間たちに、私は誰よりも強く同情する。


 なぜなら、ただ一つ私にあって、人間にないものが、「救い」だったから。

 明るくて、綺麗で眩しい世界には、救いが見当たらなかった。残酷で、目も当てられなかった。

 これもひとえに、あちら側の神々のせい。


 この世界には、二種類の神々がいる。


 一つは、明るくて綺麗で残酷な世界に存在し、人間を管理しているあちら側の神。


 もう一つは、私のように、人間をそんな残酷な世界から助け出そうと動いている、こちら側の神。


 私は人間には、こちら側に来てほしいと強く願った。暗くて汚くて、眩しいものなど一つもなくて。だけれど、救いのあるそんな世界が広がっているこちら側に憧れて欲しかった。


 いや、人間は我々の存在を知らないだけ。人間は、我々を必ず憧れる。

 だから、食らうのだ。私と同じようになってほしくて貪るのだ。


 私の周りにいた一人の人間が、花弁を落としながら縮み、萎れ、枯れていく。見慣れた姿に似ていて、私は少し満足する。

 この人間は、ようやく救われるのだ。



 ふと、私の視線の端に、一瞬奇妙な物が映る。私はそれに焦点を合わせる。それは、ひと際目立つように光を、匂いを、色を放つ人間だった。


「ああ……」


 きっとこの人間と出会うために私はここにきたのだ。そうに違いない。この人間は私と同様に、他の花たちを導ける。


 私は煌々と光るその人間に手を差し伸べた。


「ああ、早くあなたも」


 そんなに輝いてないで、こちらにおいで。






 暗転。

 汚染。

 光をゆっくりと失い、やがて「救い」を始める。

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