第18話 男子だけになると始まる話ってあるよな? 俺ぼっちだから知らんけど。

「だ、大輔、さ、……優愛、となな、何か、進展、あった?」

「……………………はい?」


 やけに蒸し暑いある日。俺と明は業務スーパーに来ていた。

 えっちらおっちら遠くまで自転車こいできたのは文化祭で販売するための激安ドリンクを買ってくるためだ。


 麦茶とお茶、スポドリにサイダーと適当に安いものを選んでいる俺に、唐突な質問が投げかけられた。

 女装姿の時は堂々としゃべれる癖して何で普段はこんなぼそぼそスタイルなんだよ……と思わなくもないが、言われたことばの意味を考えてるうちに追い打ちがきた。


「だっ、だから……大輔、と、優愛の、関係だよ」

「ぱーどぅん?」

「悪いのは、耳? そそ、それとも、頭?」


 普通に毒舌がぶっこまれるのはガチ恋リスナーのストレスのせいだろう。

 おまけにこの暑さともなれば明が壊れてしまうのも無理はない。


「しいて言うなら暑さとガチ恋勢が悪いな……」

「……きゅ、急に、どしたの? 暑さで、頭、やられた?」

「それは明だろ」


 各15本ずつと決めたが合計で120本ともなれば地獄のような重さだ。

 段ボールを貰ってくる予定だが、荷台に前かご、中身がスカスカのバックパックまでフル活用してもギリギリだろう。


「どうしたんだよ唐突に」

「いや、男子二人で、やることと言えば……れれれ、恋愛、相談、かなって」

「それどっちかってと女子だろ」

「じゃ、じゃあ、男子だと、何、を、やるの、さ」

「……猥談とか?」

「ぐ、具体的、に」

「具体的にってそりゃ……好みのタイプとかスタイル良い女子の話とか」

「大輔、の、好み……脚?」

「そうだな」

「優愛、の、脚……よく、見てる」

「それは……そうだな」

「ほ、ほら。話題、あって、る、じゃん」


 いや違うんだよ。俺が言ってるのはもっとこう……下世話で下品な感じなんだよ。あの脚むしゃぶりつきてぇよな、とか、できれば太ももで頭を挟んでもらいたい、みたいな。

 インモラルというか、本人を前にしたら絶対できないゲス発言が飛び交うモンだろ!?


「そ、そういうの、も、聞いたこと、ない、けど……どこ、情報?」

「アニメ漫画ゲームだよチクショウ!」

「だ、だよね……」


 結局はぼっち二人が会話で盛り上がろうというのが無理なのだ。

 脚に生き、脚に死ぬ。

 それが俺の人生なのだ。


「いやよく考えたらこれって最近話題のギフテッド(※1)って奴なんじゃないか……?」


 ギフテッドとは一点特化型でとんでもない実力を発揮するタイプの天才だ。

 どこかの海洋大教授(※2)は魚の帽子をトレードマークにタレント活動までしているが、俺的には魚介類特化のギフテッドだと思う。


 俺も脚特化の天才……いや、俺程度が脚を理解わかったつもりでいるのはおこがましいな。俺のような凡人は弛まぬ修練を積み重ねていくしかないのだ。


「やはり脚を学び、脚に教わるしかないのか」

「な、なんか、変な着地、して、ない?」


 何を言うか。真理に到達すべく己に問いかけただけだよ。

 レジで領収書を受け取るとアホみたいな本数のペットボトルをパッキングしていく。なるべく荷台に積みたいので段ボールに並べて、持ってきたガムテープで封をしていく。


「二箱が限界か」

「すごい、ね」


 二つ並べて落ちないように紐で固定。24本×2箱なので48本。明は二つは無理っぽいのでひと箱で24本。


「前かごに8本ずつ入れて残りはバックパックだな」

「お、重……!」


 バックパックは16本なので約8kgの計算だ。

 うん、肩に食い込むし超重たい。

 途中の坂道は押して歩く前提だが、それも苦行になりそうだ。


「よし、とりあえず行くか」


 ふらふらと重心が傾く自転車をえっちらおっちら漕ぎながら進む。といっても勢いがつくと危ないので歩くよりちょっと早いか、同じくらいの速度だ。


「そ、それ、で、優愛、どう、する?」

「どうするってお前。何で俺が選ぶ側なんだよ」


 自慢じゃないが生まれてこの方モテた試しなんかない。

 どう頑張っても選ばれる側もとい、だろう。


「女の、子に、告らせ、るのは、どどど、どうかと、思う、よ?」

「だから前提がおかしいって。何で優愛が俺のこと好きのが確定してんだよ」

「いいいいい、感じだと、思う、けど」

「あいつは今までぼっちだったから友達が出来てハシャいでるだけだろ。ついでに俺とお前もな」


 フェチズムが極まりすぎると理解者が少ないどころか、周囲からは冷たい視線を向けられる。それがないだけでも十分に居心地は良いし、楽しい。

 だから擬態部なんてので楽しく活動できるわけだ。


 ここで万が一にも俺が勘違いしたら、


「え……ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ」


 とか、


「そういう風には見れないから。ごめんね」


 とか言われる未来しか見えねぇよ。


「じゃ、あ、告られ、たら?」

「告られねぇよ」


 ちょっとしつこくなってきたので会話を打ち切るためにもペダルをこぐ脚に力を入れた。


「あっ、待っ、て!」

「うっせ」


 明をチギる前に坂道にたどり着いてしまったが、蒸し暑い中重い自転車を押す労力に負けて結局うやむやのままになった。

 なんだってんだよ。

 


※自転車の過積載を推奨する意図はありません。危ないので重いものは複数回に分けて運ぶか、台車借りるか免許持ってる人に自動車を出してもらいましょう。


※1ギフテッド

 いわゆる特別な才能を持った人。昔は頭いい人って区分だったけど近年ではテストとかじゃ計れないような才能とかも含まれるようになった。学校教育じゃカバーしきれませんわ……

 発明王「トーマス・エジソン」もギフテッドの例として引き合いに出されたりする。


※2海洋大教授

 タレントで教授ってすごいよなぁ……ぎょぎょっ!

 中学時代にカブトガニの人工孵化を成功させたり、高校時代にTVチャンピオンの魚ツウ選手権で五連覇して殿堂入りしたりと色々すごい。大人になってからは絶滅したと思われていたクニマスがまだ生きてることを発見したりすごい実績を持っている。

 2006年から客員准教授で2022年からは客員教授。

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