第17話 文化祭
「文化祭は何かやるか?」
放課後。
明が欠けた部室でそんな問いが投げかけられた。
いつもの如く仁王立ちして唯一のアピールポイントである脚を強調しているのは吉見先生だ。
「阿志賀……何か言いたいことがあるなら受け付けるぞ?」
「今日も脚は素敵でブボッ」
「セクハラでぶっ飛ばすぞ」
「もうぶっ飛ばしてるじゃないですか!?」
「頭に拳骨落としただけで飛んでないぞ」
比喩じゃなくとばすつもりかよ!
格ゲーじゃねぇんだからそうそう人は飛ばねぇよ!
「もう一度聞くが、文化祭は何かやるか?」
「そういえばもうそんな時期なんですね」
うちの学校は7月後半、終業式のちょっと前に文化祭を開く。
テスト後のだるっとした授業がほぼすべて準備に変わるので皆テンションは高めだが、気温も高めなので個人的には9月開催にしてほしい。
まぁ二学期は二学期で合唱祭とか球技大会があるから無理だけど。
「文化祭ってことは出し物とかですよね?」
「出店系か、縁日系が多いイメージやね」
「去年のクラスはお化け屋敷だったなぁ。ひかりちゃんは?」
「ウチんトコは男女逆転ゾンビメイドカフェやったで」
「コンセプトが胃もたれしそうなんだけどナニソレ」
「男子がメイド服着て、女子は執事のかっこして、皆でゾンビのメイクしてん」
なかなかカオスな光景になりそうだが、文化祭はそういうもんだしまぁ気にするだけ無駄か。
明がいればエースとして輝いてた気もするが、ゾンビは微妙だし仕方ないか。
「オススメはメイド喫茶か売店だな」
「その心は?」
「内蔵に向花原に御留とキレイどころか三人いる。食費――もとい部費を稼ぐにはもってこいだろう」
ああうん。明がナチュラルにキレイどころにカウントされてるのがアレだけど、優愛の特訓に毎回ホルモン買ってきてるし、確かにお金はかかるもんな。
ちなみに俺はこの後、使用済みとか脱ぎたてとかになるからむしろお金はかからなくなるとのこと。
もらいすぎて苦しいまであるからいくらか払ってもいいくらいだと思っていたんだが、倫理担当の
吉見先生! なんのためにストッキング履いてるんですか!?
こういうときのためでしょう!?
「大輔っち、なんやヤバい顔しとるけど」
「絶対に良くないこと考えてますよね」
「肝臓に見惚れる優愛っちと同じものを感じる」
「エッ!? 私あんな顔しないよ!? むしろジョシュ・オーフェンを見るひかりちゃんじゃない!?」
「失礼な! 誰が女子として終わってる顔や!」
「ははは。同じ穴の
あの、全員そろって俺のことディスるのやめませんか……?
あ、やめませんか……。
別にいいし。俺が好きなのは物静かなタイプの脚だから。ぷりっとした太ももから鼠径部に挟まれて暮らしたいなぁ。
「――じゃあ、そういうことで」
「アッ、ハイ」
「聞いとらんかったやろ」
「絶対聞いてなかったよね」
うん。挟まれる太ももタイプについて思いを馳せてた。もう1ミリも聞いてなかったです。
吉見先生は言いたいことは伝えたとばかりに部室を後にするし、もう俺に指示をしる術はない……いやまぁ普通に優愛とかひかりに聞けば良いだけなんだけど。
「部費稼ぎとコスプレだって」
「エッ」
「四人やとシフトギリギリやんな?」
やることが特にない俺たちへのミッションは至極単純。
和風メイド……いわゆる女中さんみたいなスタイルの服装で校内を練り歩き、アイスとジュースを売ること、らしい。
近所の業務スーパーで一本48円のジュースやお茶を仕入れ、100円で販売する。
アイスも同じく業務スーパーので、仕入れは78円だが売値は200円とのこと。
ぼったくりにしか聞こえないが、お祭り価格だしそれくらいは良いだろう。
問題はそこではない。
「女中スタイルって、俺も……?」
「大輔くんは荷物持ちだよ」
「頼むで!」
保冷剤がたんまり入ったアイス用のボックスと、これまたキンキンに冷やした冷凍ペットボトルを入れた飲み物のボックス。
これを運ぶのが俺の役目らしい。
……俺ひとりの?
「いや無理だろ! 肩外れるぞ!?」
「さっき吉見先生が言ってたじゃん。台車あるらしいよ」
「せや。キツいのは階段の上り下りだけやで!」
「階段だけでも十分エグいだろ……」
ボヤいてみるが、すでに吉見先生は影も形もない。
明ならともかく、優愛やひかりに手伝わせるのもかっこ悪い。
……ちなみに買い出しも俺が担当である。曰く、売り子として役に立たないんだから労働力として貢献しろ、とのこと。
血も涙もねぇ!
「校内の巡回も兼ねてってことだし、頑張らないとね」
「……巡回?」
「本気でなんも聞いてへんやん」
吉見先生の案では、俺たちみたいな生命体が校内をウロウロしてて目立たないはずがない、とのことで。
がっつり和風のコスプレをするのも目立たせるためなんだとか。
……これ、俺らを撒き餌というか釣り針にして変な奴をフィッシュする作戦だよな?
教員は俺たちを中心に見張ってれば仕事が楽になるし、俺たち――例えばひかりが——好みのハゲを見つけて暴走しても止めやすいとか、そういうのも狙ってそう。
相変わらず俺たちを欠片も人間扱いしない吉見先生。ここまでくるとちょっと清々しい。
「トラブルホイホイ的な?」
「あはは、明っちにナンパ目的の男が群がったら面白いやん?」
「それ、明もなぜか嬉しそうなんだよなぁ」
恋愛対象は女性らしいけど、中馬に女の子って認識された時ちょっとヤバい顔してたもんな。
アイツがどこを目指しているのか分からねぇ。
近所の小中学生辺りがアレに引っかかって性癖歪まされなければいいけど……。
「でも実際、配信とかすごいよね」
「人気出過ぎてああなっとるもんねぇ」
「っていうかよく考えたら明の参加無理じゃね? 家の外での女装は完全に封印してるんだろ?」
「せやね。聞いてみよか」
メッセージを送ると、秒速で返信がきた。
ずっとスマホに張り付いてるのか……? いや、張り付いてるんだろうなぁ……俺だって一人だったらおそらくずっと脚画像眺めてるもん。
明:やる
明:それまでに事件が解決してれば問題ないし
明:解決してなくても何とかして参加したい
おおう。
鬼気迫る雰囲気が伝わってくる文面だ。
こりゃガチ恋勢の攻撃(?)でフラストレーションマシマシになってるな。こないだのことも何か思い詰めてたし、もともとため込みやすいタイプっぽいし。
大輔:とりあえずなんだけど
大輔:買い出し手伝ってほしい
女装しなければ立派な
二人で業務スーパーに突撃することが決まった。
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