第11話 良い話だけど臓器は臓器なんだよなぁ
あるところに、病弱な少女がいました。
一年のほとんどを病室で過ごし、誕生日やクリスマス、正月までを看護師さんやお医者さんとともに過ごす、寂しい少女でした。
両親も愛情を注いでくれましたが、仕事の関係や病院の規則もあり、四六時中一緒にいることはできません。
……少女は言いようのないストレスを唯一わがままを言える食事にぶつけました。
「もう要らない」
「そんなの食べない」
「美味しくない」
彼女が看護師や管理栄養士を困らせていると、病院でもベテランのおじいちゃん先生がやってきました。
優しそうな笑みを浮かべたおじいちゃん先生ですが、わがまま放題な少女はけんもほろろに追い返してしまいます。
「……つまんない……」
俯き、呟いた彼女の目に不思議なものが映りました。
「ヤァ、ボク、肝臓クン」
部屋を区切るカーテンの端から、患者に説明するために使われる臓器模型が出ていたのです。
「……おじーちゃんせんせい……?」
「ちち、違う……じゃない! 違ウヨ! ボクハ肝臓クン! 肝臓ノ妖精サ!」
おじいちゃん先生っぽい声の肝臓クンは、膵臓チャンや腎臓クンとともにめくるめく大冒険を繰り広げました。最初は戸惑っていた少女ですが、妙にリアルな設定に引き込まれ、気が付けば病室に肝臓クンが来るのを待ち望んでいました。
誰にも解けないカンコーヘンの呪いを受けながらも聖剣コーガンザイと大魔法ホー・シャセンチ・リョーを手に入れ、悪性腫瘍軍と対峙した時は手に汗を握り。
見事に討伐してタイナイ帝国に平和が訪れた時は、思わず拍手をしてしまった程でした。
「ゆあチャンハ、
「いしょくどーげん……?」
「ボクハ一人ジャ戦エナイ……食事デボクヲ助ケテホシインダ」
大好きな肝臓クンにお願いされた少女は、その日の夕飯に出されたシジミの味噌汁を飲み切りました。
その日から、色んな臓器の妖精が少女に必要な栄養素を教えにきました。どんな働きがあって、何に含まれていて、それを食べると臓器はどういう風に身体を健康にしてくれるのか。
不思議なことに臓器の妖精がお願いに来ると、その晩にはメニューに食べなければならない物が出てきます。
少女は一生懸命食べました。
ほうれん草、人参、しじみ、ナス、イカ、レバー、レーズン……苦手だったものも、臓器のためならモリモリ食べられるようになりました。
「アタシ、運動シテホシイノ」
手首から腕までを司る前腕筋群にお願いされ、サボりがちだった散歩も頑張るようになりました。
入退院を何度か繰り返した少女の元に、いつの間にか妖精たちは姿を見せなくなりました。
また寂しい入院生活をすることになった少女ですが、もうへっちゃらでした。皆に教えてもらった栄養や運動を味方にして、どんなに具合が悪くても、憧れの肝臓クンのように立ち向かうと決めたからです。
やがて少女は成長し、健康に、自分の身体に、臓器に感謝を捧げ、愛情を注ぐようになりました。
「……今思うと、ぬいぐるみなんて持っていないおじいちゃん先生の、苦肉の策だったんだろうけどさ」
優愛は恥ずかしそうに笑った
「だから私も、おじいちゃん先生みたいに、誰かを救える素敵なお医者さんになりたいんだ」
「……予想以上にええ話やん」
「いや、むしろこんだけ良い話から生まれるのが内臓フェチってのがちょっと残念なんだが」
いやまぁアイドルだってある種のキャラクターを崇拝しているわけだし、昨今流行りのブイチューバ―もガチ恋勢がいることを考えれば全然おかしなことではないけどさ。
ちなみに俺はブイチューバーとか髪の毛一本ほどの興味もない。
あいつらだいたい上半身しかでてこないし。
「そういう大輔っちはどんな感じなん?」
「どんなって言われてもなぁ……ただそこにある美しさに理由がいると思うか?」
「うわっ、なんかキメ台詞くさぁ……!」
「いいセリフ風に纏めようとまとめようとして失敗してる感あるね……ボクが女子なら引くわ」
酷い言われようだ。
「私は分かるよ」
一番酷い奴に共感された。
「肝臓のツヤツヤ具合とか、脈打つ心臓の力強さとか、感動に理由を探すのは無粋だと思う!」
「ちなみにひかりは?」
「ウチ、小さい頃は怖いの好かんかったんやけど両親がホラーとか好きやねん」
小さかったひかりは無理やり見せられて泣き叫んでいたらしいが、そこでお気に入りの俳優、ジョルジュ・オーフェンにであったらしい。
「ホラーって分かりやすく人が死ぬやん?」
「おう。ジョルジュとか即座に死にそうだな」
「大当たりやで! ジョルジュはイキって散々フラグを立てた挙句開始22分14秒で死ぬんよ」
秒数まで把握してる辺りガチだよな。
「せやけど分っかりやすいフラグもあったし、死んだ後はゾンビになって蘇るんよ」
マッチョなハゲがゾンビになって襲い来る様は恐怖よりも笑いを誘ったという。
「他のゾンビがアーウー言いながら歩いとるのに、一人だけ走るしパワープレイで主人公追い詰めようとするんやで?」
「想像しただけで怖さが半減しそうだな」
「せや! ウチにとってはジョルジュもハゲもマッチョも守り神なんや! 怖いモンから守ってくれるで」
「だからカッコイイとこよりもちょっと情けないくらいのところが好きなんだね」
「せや。可愛え感じのハゲマッチョこそ至高やで」
最後に残った明だが、こちらは俺と同じく理由はない派だ。
なんとなく興味があるとか、可愛い服が好きとかその程度である。
「でもまぁ……ボクを見てドキドキする男子がいるって思うとゾクゾクするよね」
「悪魔かお前は」
「それは女装とは別のヘキっぽいなぁ」
「分かるよ。ドキドキしてる心臓が見えたらゾクゾクするよね」
全肯定するのは構わないけど多分その共感は間違ってるからな。
そりゃ動いてる心臓が目視できたら誰でも背筋が凍るだろうよ。
「明、いくらアプローチされても男をオトしたりとかするなよ?」
「しないよー……多分ね。一応、今は声の練習中なんだ」
ああうん。けっこう良い声してるもんな。
「
「もともと明の場合は擬態が必要というか、上手に自分を出す方法を学ぶみたいなイメージだもんな」
「お化粧も練習してるし、保湿もゴールデンウィークに向けて調整中だから」
「減量中のボクサーみたいなこと言うじゃん」
「ある意味一緒かもね。目標に向かって全力で努力したり、自己改造したりするから」
ちなみにゴスロリ系のドレスもネットの知り合いに教わりながら肩や腰回りをいじっているらしい。
より女子らしいシルエットに見せるためには細かい修正が必須なんだとか。
「明のせいで男の娘にしか興奮できない奴が入部してきたら責任取れよ」
「えっ……責任って……ボク、そんなつもりじゃ……!」
わざとらしく上目遣いになり目を潤ませる明。そこには気を付けようなんて気配はみじんも見られない。こいつ絶対いつかやらかすわ。
いやまぁ自己責任だから好きにすれば良いけどさ。
「あれ、そういえば新人の勧誘は?」
「クラスの前通ったけどおらんかった」
「放課後スタート直後とか昼ならともかく、けっこう時間経ってるからな。ちなみにどんな
「ロリコンやね」
「部活じゃなくて
うちの学校にゃそんなんしかいないのか!?
入試の面接で変なヘキが漏れてる奴は弾けよ……それをされたら俺とか優愛も落ちてた可能性あるけどさ。
そんなことを考えながら部室まで戻った。
ちなみに帰りの古今東西では「美脚なタレント」「靴下・ストッキングのブランド」だった。
……全部すっ飛ばして感想だけ言うと、罰ゲームが憂鬱だ。
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