狐太郎と狼牙
「うわぁん!」
子犬から男の子になった子は火がついたように泣き出した。音子は慌てて謝っている。狐太郎は男の子に怖い顔で言った。
「狼牙!女に引っかかれたくらいで泣くな!」
狐太郎の剣幕に、亜子は驚いたが、狐太郎は男の子の傷の具合を丁寧に確認していた。音子は猫またの半妖なので、驚くと猫の鋭い爪が出てしまうのだ。
男の子の顔にはしっかりと引っかき傷があり、血がにじんでいた。亜子と音子が心配していると、狐太郎はひとり言のようにつぶやいて言った。
「目は傷ついてないな、問題ない」
狐太郎は男の子の顔に手をそえると、彼の手が輝いた。男の子の顔の傷は一瞬にして治癒してしまった。
亜子は驚きの声をあげた。狐太郎は治癒能力を使えるのだ。治癒能力はとても難しい術だ。
亜子の驚きの表情を見て取ったのだろう。狐太郎は少し顔をしかめて答えた。
「狼牙は獣人のハーフなんだ。これくらいのケガなんてすぐ治る。俺は狼牙の治癒力を底上げしただけだ」
「そうであってもすごいよ」
狐太郎のけんそんに、亜子は勢いながら言った。音子はそんな亜子たちを困ったように見て口をはさんだ。
「ねぇ。狼牙、くん?に服を着せてあげて?」
子犬から男の子に変身する狼牙は、いくら亜子たちより年下といっても、丸裸では目のやり場に困る。狐太郎はうなずいて、イスの背もたれにかけていたパーカーを狼牙に着せてやる。
狼牙はヒクヒクと鼻をすすりながら狐太郎に抱きついた。狐太郎はため息をついて狼牙を抱き上げた。狼牙は狐太郎の首に抱きついてグズグズいっている。亜子は疑問に思って狐太郎に質問した。
「狼牙くんはだいぶ小さいみたいだけど、どうして学園に入学したの?」
狐太郎は顔をしかめて答えた。
「狼牙は俺よりもずっと年上だ。獣人は成長がすごくゆっくりなんだ」
亜子は驚いてしまった。狼牙はどう見ても小さな子供だ。しかし狼牙は亜子よりも年上なのだそうだ。
音子は狼牙の小さな丸い頭をしきり撫でて、ごめんねと繰り返している。狼牙は、すぐに真っ赤な目をして音子に笑いかけていた。どうやら機嫌がなおったようだ。
亜子はふと周りの視線に気がついた。他の生徒たちが息を殺して亜子たちに注意を向けていたからだ。
亜子たちと狐太郎たちがケンカにならなかったのを見て、皆ホッとしたのだろう。
ここにいるクラスメート全員は、強い妖力を持っている。いざケンカになればとんでもない被害が出るだろう。
亜子もつめていた息をフウッとはいた。
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