担任教師の雪奈

 亜子と音子は自室に届いた荷物の荷解きを軽くしてから、一年生の教室に向かった。


 これからオリエンテーションが行われるのだ。亜子たちが教師に入ると、すでに一年生全員が教室にいた。


 亜子と音子は空いている席に腰をかけると、教壇に立つ美しい女性が口を開いた。亜子を立ち上がらせてくれた優しげな女性だ。


「ではクラスの皆がそろったので始めます。私の名前は竹田雪奈といいます。私は雪女のあやかしです。これから三年間あなたたちの指導をします」


 担任の雪奈は、亜子たち生徒に自己紹介を求めた。生徒たちは席から立ち上がり、自身がどのあやかしの半妖なのかをのべた。


 クラスメメートの中には、河童の半妖や人魚の半妖がいた。だが外見は皆人間と違いはなかった。


 雪奈は全員の自己紹介が終わったのを見てから、一つうなずいて言った。


「これからあなたたちは中学の勉強をし、あなたたちの妖力の使い方を学んでもらいます」


 雪奈の説明では、もし亜子たち生徒が人間として暮らしていくには、自身の妖力をコントロールさせる事が不可欠だからだ。


 亜子たちは勉強と共に妖力を制御するすべを学ばなければいけない。雪奈はいったん休けいといって職員室に戻って行った。残された生徒たちはザワザワと話しを始めた。音子は亜子の耳に口を近づけて言った。


「ねぇねぇ亜子。狐太郎くんってカッコよくない?」


 音子は笑ってちょいと後ろを振り向いた。亜子もつられて後ろを振り向く。後ろの席には、先ほど自己紹介で、妖狐との半妖だと言っていた、神明狐太郎が座っていた。


 確かに音子の言う通り、狐太郎は顔立ちの整った少年だった。だが亜子は狐太郎よりも、狐太郎のひざの上に乗っている子犬が気になっていた。


 モフモフでとても可愛かった。この子犬は一体何なのだろうか。狐太郎の眷属か何かなのだろうか。そういえば、このクラスは全部で十人なはずなのに、席が一つ空いていた。確か雪奈先生は全員そろったと言っていたのに。


 音子は亜子に狐太郎に話しかけようと提案した。亜子は犬も好きなのでうなずいた。音子は可愛らしい笑顔を作って、狐太郎に言った。


「あの、狐太郎くん。ワンちゃん可愛いね?抱っこしてもいい?」


 狐太郎は無表情に軽くうなずくと、子犬を抱き上げて音子に渡した。音子は嬉しそうに子犬を抱き上げる。亜子もしきりに子犬の頭を撫でた。子犬はふわふわでとても温かかった。


 すると、突然子犬がムクムクと大きくなった。子犬は八歳くらいの裸の男の子になった。男の子は嬉しそうに言った。


「俺、可愛い?」

「キャアアッ!」


 音子は抱いていた子犬が男の子になったので、驚いて爪をたてて、男の子の顔をひっかいてしまった。

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