第24話 死中に活


 王宮広間の、秘密通路の入り口がふさがれている。

 シキリーヤ人たちがそこからの襲撃を警戒して、壁に土嚢どのうや重い調度を積み上げたようだった。

 着直した板金鎧をがちゃがちゃ鳴らし、アリーチェが意気揚々と進み出る。


「みんな、アリーチェが戻ってきたのであるぞ!」


 返事は弩の太矢。

 土嚢の防塁のすきまから飛んできて、アリーチェのひたいに命中。

 かぁんと金属音がして太矢がはねかえる。

 あとに続いていた豹隊一行がすばやく、アリーチェを盾にした縦列をつくる。


「何をする、私だといっているであろ! いま弩を射った兵はあとで名前を聞くからな!」


 アリーチェの恐怖で涙ぐんだ声がかぶとの内側から響く。


「し、し、死ぬところであった……」


「おまえの鎧を回収して着てなければそうなってたな。おい、聞こえたか、シキリーヤの兵よ? おまえらが射ったのはおまえらの王女だぞ」


 スッカルがシキリーヤ語の大声を出すと、ざわめきの気配が防塁の向こうから伝わってきた。





 王宮広間にはふたたびシキリーヤ諸侯が首を揃えている。

 前回と違うのは、最初から兵が詰めていることだ。

 広間のすみに立たされた豹隊には隙間なく槍が突きつけられている。ご丁寧に弩まで装填されて向けられていた。

 命令一下、いつでも鏖殺おうさつできる構え。


「期待にたがわぬ熱烈な歓迎だな。おいスッカル。あの小娘を信用して大丈夫なのか」


 アイバクがさっそく不満をもらす。


『シキリーヤ人とあらためて交渉する。こんどはおれたちの身の安全のために』


 それがスッカルの案。

 そのために、アリーチェに仲介を頼んだ。

 アリーチェの姿はさっきから見えない。


「あいつが俺たちを恨んでて、殺してといいだしたらどうする。もしくは小娘が裏切らなくてもだ、破れかぶれのシキリーヤ人どもが『王奴は皆殺しだ』って気分になってたら?」


 スッカルはあごの下をかく。

 さっきアリーチェが広間から出ていくとき、かれに投げた一瞥を思い返して。

 いたずら好きの子猫よろしく、エメラルドの瞳をきらめかせていた。

 ふふんと得意げに、逆転した立場を楽しむ笑顔。


“だいじょうぶだと思いてえな”


「あー、アイバク、野火においつめられたら川にとびこむしかない。川にわにがいませんようにと祈りながら泳ぐだけだ。おれたちはもう泳いでる、鰐が出るも出ないも唯一の神の思し召し次第だ。祈れ」


「回りくどくいいやがってこの野郎、要は『そうなったら死ぬけどもう遅いからあきらめろ』ってことじゃねえか!」


 ライムーンがふたりに「しずかにしろ」という。


「戻ってきたぞ」


 審判の時。

 それを告げるのは、王冠をかぶった男の入室だ。


 そしてその娘――栗色髪の、若緑色のドレスを着た小柄な少女。

 アリーチェ。

 だが奇妙なことに、肘かけ椅子に座った王女は眼を閉じている。ビロード張りの椅子は兵たちが抱えて運んでいた。


“なんだありゃ。あいつ寝てんのか?”


 先の交渉時よりさらに疲れた表情の王が、無気力な声をもごもご発する。


「あらためてミスル軍使よ、余はシキリーヤ王ヴァスコ三世だ」


「はい、陛下。王奴スッカルです」


 スッカルはうやうやしく礼を返す。

 とたん、シキリーヤの諸侯の席から罵声が飛んだ。


「こやつなにをぬけぬけと、先ほどあれだけ暴れておいていまさらとりつくろっても遅いわ!」


“うん、おれもそう思う”


 スッカルは微笑む。


「不幸な行き違いがありましたが、もともと使節として来ましたからね、本道に戻っただけです。よく考えたら上からあらたな命令を聞いた覚えはないですし」


 にこやかな鉄面皮。

 シキリーヤ王はスッカルに対し、しばし黙ったのち、


「汝らの処遇は別室ですでに評議した。ミスル軍の破約およびだましうち、くわえて汝ら自身の先の狼藉をかんがみ、『死で報いさせるのが妥当であろう』という声が圧倒的であった。余もそう考えた……」


 話の波間に鰐がひょっこり頭を出す。

 スッカルの肝が冷える。かれは覚悟する。

 また自分が肉の盾になって槍や太矢を突き刺されることを。そのあいだにライムーンに頭上を飛び越えて人質をとりなおす、最低でも武器を奪ってもらう必要がある。


「……が、わが娘アリーチェが強硬に反対した」


 さいわい、続いた言葉で鰐は波の下に沈む。

 スッカルはアリーチェをちらと見る。王女は肘かけ椅子に深く腰かけて眠っている。


“なぜ寝てるか知らんが生き延びたら礼をいってやるぜ、あとで”


 王が「感謝するがよい」という。


「わが娘の口添えと、先ほどの戦闘の成り行きにな。わが兵がひとりでもこの広間で死んでいたら、汝らの極刑はまぬがれなかったであろうよ」


 あんたらが死ななかったんじゃなく、おれが殺さないように注意してたんだけどな――そのつぶやきは胸中にとどめて、スッカルは頭を垂れる。


「陛下の御心の広さは大海のごとし。帝王の仁慈というものを目の当たりにして称える言葉がみつかりませぬ」


 ぺらぺらと美辞麗句。


「礼は早い。場合によっては、汝らの縛り首を免除するわけにはゆかぬ」


 ものうげにシキリーヤ王は首をふる。


「アリーチェがいうことには、汝らはわれわれに保護を求めているそうではないか」


「少々、ミスル軍の内部に個人的な敵がおりましてね」


「よくあることだ。しかしなぜわれわれシキリーヤ人が汝を守ってやらねばならぬ?」


「おれたちがあなたがた全員を救ってさしあげられるからですよ。これはお互いに利益がある話です」


 シキリーヤ人たちが怒りをこめてかれをにらみつけた。

 さっそくまたやじが飛ぶ。


「奴隷兵め、失笑する気にすらなれぬ。なにが救うだ。あの残酷な王奴軍、貴様の呪われた仲間たちを聖都から叩き出せるというのか? 貴様自身がそいつらから守ってくれといってきているのにか」


「あなたがたと組めばできますよ」


 スッカルはいなす。

 手を広げてかれは朗々としゃべる。


「力を貸していただけるなら約束しましょう、あなたがたを冒すグール腫を癒してさしあげることを。そして、このミスル軍の攻撃を回避させることを」


 説得に必要な才能はいくつかある。

 そのひとつは自信満々に、堂々としゃべることだ。

 その点においてスッカルには詐欺師の才能がある。

 かれはいつでもためらわない。言葉はつねによどみがない。

 シキリーヤ人たちが顔を見合わせる。


 しかしこの時点では、上座のシキリーヤ王はたいして感銘を受けた様子がない。


「正直なところをいおう」


「はい」


「与太話としか思えぬ。どちらか片方だけでも、一介の王奴の手には余る話だろう」


「与太かどうかは、王女殿下のグール腫がどうなったかを見ていただければ」


「見た。宮廷医師にも確認させた。まちがいなく王女のグール腫は完治している。ゆえにこの一点において、汝とふたたび話してみる価値はあると判断した」


 スッカルは肌で感じる。

 王の言葉で、周囲の雰囲気がはっきり変わったことを。

 快い変化だ。

 先ほどまで敵意に満ちていたシキリーヤ人たちの顔に、色濃い戸惑いがあらわれている。

 椅子が引かれ、シキリーヤ王が長方形の卓の上座につく。


「わが軍を冒すグール腫は、エヴレム・カンが放った呪いの病だ。

 魔法には魔法。スライマーン王が生みだした真なる魔法の薬、どこにあるかも不明であった伝説の〈霊薬〉でなくては癒やせぬ。

 汝らはその〈霊薬〉を持っている。相違ないな」


 スッカルはライムーンをちらりと見る。

 ライムーンは腹をくくった表情で前へ出た。胸に手を当て、シキリーヤ式で優雅に一礼し、


「シキリーヤの地の人の王よ。

 お初にお目にかかります。

 婢はファハド隊の十奴長。過ぎさりし滅びの日まで聖都をしろしめしたジン王バルクークの長女、ライムーンと申します」


 スッカルと同じく王奴学校で学んだ、完璧に近いシキリーヤ語。


「おお、これは」


 シキリーヤ王の目が見開かれる。


「炎の御使みつかい、ジン族か……ふたたびこの目で見るとは。汝のことは防壁から撤退した騎士に聞いておる。王奴にジン兵が混じっていたという話でな。そうか、滅びたジン王国の生き残りか。では、〈霊薬〉の話はほんとうなのか」


「……はい。スライマーン王が没してより二千年、婢の一族が霊薬を守っていました」


 硬く冷たい、感情を排したうべないの声。


「貴方たちのグール腫を、婢の・・霊薬は癒やしてさしあげることができます」


 どよめきが大広間のシキリーヤ人諸侯のあいだからわきおこった。

 伝説の存在であるジン族の言葉――それがおなじく伝説の〈霊薬〉、その存在への疑いを大きくぬぐい去ったに違いなかった。

 興奮した発言がシキリーヤ諸侯から相次ぐ。


「すぐにも霊薬がほしい」


「そうだ、すぐにだ。わが家臣には何人も末期のグール腫に冒された騎士がいる。『化け物に変わる前に殺してくれ』と懇願されて死を与えるのはもううんざりだ」


「うちが先だ、うちの病人は跡取り息子だ」


「そもそもどのくらいあるのだ? どういうものなのだ」


 奔騰といっていいその騒ぎを、ライムーンは冷ややかに見ている。

 突如、シキリーヤ王が苦々しげに発言した。


「皆、やめよ。いま癒やされても目下、たいした意味はない。なぜならわれらはまもなく全員が死ぬ」


 冷水をぶっかけられたかのごとく、広間の熱がたちまち引く。

 王は泣きそうに気弱な表情に戻り、


「そう、死ぬのだ。グール腫によって死ぬより前に、ミスル軍の刃にのどをかき切られてな。

 この聖都はもはや陥落したも同然だ。市壁はすでに突破され、王宮に呼び戻せた兵力はやっと二千名。主力である騎士のほとんどを集められたのは僥倖であったが、それとて五百人にすぎぬ。塔と内壁にまもられたこの王宮にこもって防衛に徹すれば時間はかせげようが、どれだけ粘っても二日ももつまい。ミスル軍の投石機が市内に入り、焼夷弾ヘラス火や石弾をここにふらせてくれば、もっと早く落城しよう。

 さあ、王奴スッカル。汝と組むかどうかはここにかかっているぞ。

 運命をどう逆転させてくれるのだ。この落城寸前の状態から、われらをどうやって救ってくれるのだ?」


 スッカルは返答する。


「あなたがたには盾がありますよ」


「……われわれに盾?」


「エヴレム・カンがくれたでしょう」


 シキリーヤ王の表情に理解が広がる。

 スッカルは腕を広げる。


「いくつもの軍や都市を滅ぼした兵器。いまの世界でもっとも恐怖される兵器。近寄ることさえ危険とみなされる兵器。

 すなわち、あなたがたをおかすグール腫だ。

 ミスル軍に、グール腫の恐怖を突きつけます。感染したくなければ兵を聖都の外に出せと。でなくば投石機でグール腫の患者を撃ち込むぞと。ほんとうにお味方の誰かを投げずともはったりはきかせられるでしょう」


 大広間が先にもまして静まりかえる。

 スッカルを見てシキリーヤ人たちがあぜんとしている。

 ジン族よりもさらに奇妙な存在を見る眼。

 目をしばたたき、シキリーヤ王がつぶやく。


「自国の軍を疫病で壊滅させる話をそうも平然と……ミスルの王奴は忠誠心にあついと聞いていたが、汝は王奴ではないのか?」


「王奴ですよ、まちがいなく。いっておきますが、本気でミスル軍を滅ぼしてほしいと頼んでいるわけではありませんよ。わが軍を裏切りたくはありません」


 心外そうにスッカルは答える。

 かれの本心だ。

 かれはただ、もっとも優先するものが、軍よりも自分と部下の命だというだけだ。

 スッカルは王に確認する。


「ミスル軍に霊薬を要求しましたね」


「……した。なにを世迷いごとをぬかす、と本気に取られなかったが」


「そのとき、あなたがたのグール腫のことは伝えましたか」


「いいや。霊薬をひそかに求めたとき、娘が難病を患ったことは伝えていたが、それもグール腫ではなくらい病だといってあった」


 シキリーヤ王は顔をしかめる。


「グール腫だと伝えれば……それで霊薬を渡してくれればよいが……そうでなければミスル軍は、問答無用ですべてを焼き尽くす戦い方をしたであろうから。われらは降伏すらも許されぬ羽目になっていた」


「そうなったでしょうね」スッカルは同意する。


 火はグール腫を癒やすことはできないが、清めることはできる。

 患者もろとも焼き払うことで。

 聖都のシキリーヤ人すべてが汚染されていると判断すれば、いっさいがっさい火に投げ込むことをミスル軍はためらわないだろう。

 とつぜんシキリーヤ王は不機嫌さをあらわにして口をひんまげる。


「……汝の案とはそれだけか?」


「お気に召しませぬところがありましたか」


「われわれの破滅を回避させられるようにはとうてい思えない。

 汝がいうように、グール腫をもってミスル軍を攻撃することをわれわれが考えなかったと思うなよ。実はすでに用意しているのだ。投石機と、それで飛んで・・・くれる勇敢なる志願者を。


 ……だが、それは最後の最後にするつもりだった。なぜか?


 まさに今しがた話したとおりだ。どのみちミスル軍はわれらを殺す。それどころかグール腫のことを知られれば、必死になって焼き尽くしに来るはずだ。われわれがグールになれば、近くのミスルを襲うであろうからな。

 王奴どもがグール腫感染をおそれるとしても、近寄らず殺す方法など奴らにはいくらでもある。われわれが王宮から出なければ投石機で、出れば遠間から矢で射殺しに来る。最後には火をかけてすべて焼くだろう。

 であれば、よくて刺し違える手段にしかならぬのだ」


 ふんと鼻から息を抜く王に、スッカルは首をふる。


「失礼ながらいつの話をしておられるのです、陛下?」


 あえて挑発的に。


「その状況は先刻とっくに変わりました。あなたがたの眼の前には〈霊薬〉がありますよ」


「ほう……」


 シキリーヤ王が、もぞもぞと椅子に座り直す。


「汝のいっているのは、霊薬を質に取ればよいということか?」


 王の言葉に、スッカルは感心する。


“この王さま、頭は鈍くねえな”


 グール腫が第一の盾。

 霊薬が第二の盾だ。


「ご賢察であります、陛下。ミスル軍にとっても霊薬はのどから手が出るほど欲しいものです。それがどういうものかもわからないまま焼きたくはありますまい」


 エヴレム・カンとの戦争を前にして、失うにはあまりにも惜しいものだ。

 グール腫に近寄るのは冒険的にすぎる。

 さりとて霊薬を失うわけにもいかない。


“ウクタミシュ・ベイの頭を損得勘定で悩ませてやる”


 もちろん、ウクタミシュへの嫌がらせはかれの目的ではない。

 シキリーヤ人たちを救うことも目的ではない。

 かれの目的は、自分と部下の身の安全だ。

 シキリーヤ軍とミスル軍を均衡させ、両者の橋渡しをしながらぎりぎりのはざまで生き延びることだ。


「そこで陛下、ミスル軍との交渉はわれわれにおまかせを。強硬に出るなら霊薬を処分して死ぬぞとミスル軍を脅します。……いっておきますが、あなたがたが霊薬の知識を無理やり奪おうとしても無駄ですよ、この城が陥落するまで拷問に耐える程度の訓練はしてあります」


 もっとも弱い勢力の生き延び方。

 後ろ盾をかならず作る。

 後ろ盾によって敵を牽制させ、同時に敵によって後ろ盾を牽制させる。


 ひとつまちがえば双方から命を狙われる綱渡り。

 フィオレンツァがかれに教えた現実世界のチェスゲームシャトランジの指し方。


「さあ陛下、やるべきことはわかるでしょう。

 まずシキリーヤ軍はミスル軍の肝を冷やすためにグール腫を突きつけます。

 つぎに、問答無用で焼き払われないために霊薬の存在を示します」


「それによって、王奴の強襲はなくなると? かれらが立ち退くというのだな?」


“それはねえな”


 そこまで甘い夢は見られない。

 しばし迷ってもミスル軍は、けっきょくは犠牲を覚悟して王宮を強襲し、直接霊薬を奪おうとするだろう。

 ことにジューグンダール・ベイは強硬策をかたくなに主張するだろう。シキリーヤ人たちは頑強に抵抗するが、やはり皆殺しにされるだろう。


 だが、強襲でグール腫に感染すれば、王奴に出る被害はすさまじいものとなる。

 ウクタミシュとの取引材料は出そろった。


“このあたりでシキリーヤ人が和平の話を持ち出せば、ウクタミシュ・ベイはまちがいなく耳を傾けるはずだ”


 スッカルは進言する。


「陛下、あらためてミスル軍に交渉を望んでください。助命とひきかえに聖都を明けわたすこと、グール腫を癒やしたあかつきには同盟を結んでエヴレム・カンと戦うこと。まずはこのふたつを申し出ましょう。

 司令官のひとりウクタミシュ・ベイは理性的な男です。シキリーヤ軍四千を味方にして無用な犠牲を回避できるなら、かれはかならず応じるはずです。

 ミスル軍は遠征目的を達成し、あなたがたは無用な死を避けて霊薬を手に入れられます。

 段取りはすべて、おれたち豹隊にまかせてください。ミスル軍との交渉窓口の地位を、おれたちは引き続き要求します。おれたちに部隊規模の護衛をつけてください」


“簡単に手出しできないだけの武力がこっちにあれば、おれたちの身の安全についてもウクタミシュとじっくり取り引きできる”


「ふうむ……」


 シキリーヤ王はうなる。

 かれは何度もうなずく。感心を面にあらわにして。

 それから肩越しにふりむき、目を閉じて座るアリーチェに声をかけた。


「いやまったく、あなたのいったとおりの展開になりました、大賢者さま」


“ん?”


 アリーチェのまぶたがうっすらと開いていく。

 茫洋としたまなざしが広間をさぐり、硬直したスッカルへと焦点をむすぶ。

 じわりと溜まる喜びの涙。

 薄くれないの唇に、かすかで艷麗な微笑が宿る。


「お久しぶりです、スッカル様――わが背の君よ、わが夫よ」


「……フィオ?」


 どういうことだ、どういうことだ、これはいったいどういうことだ。スッカルは動揺を抑えてくわっと眼を開き、少女を見る。

 そこにいるのはまちがいなくアリーチェだ。

 だが同時に、しゃべっている中身はフィオレンツァだ。それがわかる。


「おいスッカルやばい。ライムーンが手近な兵から槍をひったくった」


 すぐ後ろで、あまり聞きたくない報告をジッリーがした。

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