第41話 アスレチック
「これって……アスレチック……?」
「テレビのアレっすね。3ステージクリアしたら賞金が出るスポーツバラエティっす」
「……何で?」
三人が見たのは、そこかしこに池が作られた特設のアスレチックステージだ。一センチほどの突起を指の力だけで渡らなければならない場所や、90°以上の傾斜を駆け上がる場所、パイプの両端をレールに引っ掛け、ぶら下がりながら進む場所などなど、どこか見覚えのあるステージの数々。
ただし、池に溜まっているのがモンゴリアンデスワームでなければ、だが。
「なんでデスワーム……?」
「カレンちゃんって襲われて怖い思いをしたっすよね?」
「待て。予想できたから言わなくて良い」
「そいつの股間にぶら下がった危険な生命体の——」
「言うなって言ってんだろうが!」
『もうすぐ次のチャレンジャーが出走しますので観客の皆様はお静かにお願いします!』
どこからかアナウンスが響いた。遠く、ステージの端っこにスポットライトが当たったところを見ると、あそこがスタート地点なのだろう。
三人が立っている観客席には挑戦者の様子が観察できるモニターまで付いていた。
『さぁ、続いてエントリーナンバー26771、マーカス・レッド選手! 26771回目の挑戦です!』
「クソがぁぁぁぁぁ!」
ブチキレたマーカスが雄叫びとともに突撃する。
傾斜がついた坂をリズミカルに飛び、転がる丸太にしがみついて対岸を目指す。
『おおっと、ここでアクシデント! 丸太がレールから外れてしまったァ!』
マーカスがモンゴリアンデスワームに落ちる。
もがくように両腕を振り回すが、巨大ミミズが殺到しマーカスの身体を食っていく。
「がああああぁぁぁぁぁッ!!」
「どうしてスキルとか使わないんだ……?」
「そもそもまともに攻略しないで、無視してゴールまで行けばいいのに」
「使えないんじゃないっすか?」
ミカエルの言葉に触発された朱里が弓を構える。
「あ、ホントだ。スキル使えない」
「……ってことは何か? スキルなしでアスレチックを超えてゴールまでたどり着かないといけないってことか?」
「もしくはステージの途中に隠された聖職者の欠片を見つけるとかっすかね」
嫌そうな表情で顔を見合わせる。
失敗すれば殺人ミミズに生きたまま食われるのだ。当然ながら気軽にやってみようと思えるようなものではなかった。
『さぁ、続いてエントリーナンバー26772、マーカス・レッド選手! 26772回目の今回はステージ1をクリアできるんでしょうか!?』
「ゴールしたら魂を粉々に砕いて魔界生物の餌にしてやるからなァ!」
再び突撃し始める様子をモニター越しに見ながら、朱里とカナタが顔を見合わせる。核心に入る直前にみた記憶とのギャップも大きく、予想外すぎた。
「なぁ、マーカスってさ。もう2万回以上チャレンジしてるんだろ?」
「アナウンスを信じるならそうね」
中層で出会った時にマーカスが肉体を欲していたのも納得だった。
「……ここにある『救世者の欠片』は諦めないか?」
「賛成。100年経っても取れないんじゃないかしら」
「ま、待つっすよ! 何か裏技とか、現実世界からのアプローチを決めて取られるかもしれないじゃないっすか!」
「でも
「お願いっすよ! ここまで来て諦めるとかないっす! 欠片はひとつ残らず集めないと本当にまずいっす!」
泣き落としに掛かるミカエルに、朱里がぽんと手を叩く。
「ここってカレンちゃんって子の心の中なのよね?」
「そうっす」
「例えば、だけど。――カレンちゃんが耐えられなくなるような酷いことを始めたら、勝手にアスレチックが崩壊したりしないかしら」
朱里は意味ありげな視線をカナタに向けた。
「ほら、男性がトラウマならカナタくんが私に酷いことをするとこを見せつけ——」
「却下だ却下」
「じゃあ現実のカレンちゃんの家に忍び込んでベッドに――」
「もっと却下だ!」
「じゃあ部屋にウデムシとか巨大ムカデをたくさん放り込んで新しいトラウマで上書き――」
「人の心はないのか!?」
カナタの言葉を受けた朱里は笑顔のまま肩をびくりと震わせ、己の身を掻き抱いた。笑みのままながら目には涙を溜めている。
「……も、もう逆らわないです……ぬ、脱ぎますぅ……だから酷いことしないで……!」
「シャレになってないからやめろォ!」
活動休止中とはいえ、超一流の演技にカナタが悲鳴を上げる。
普段ですら自分の立場が悪くなるであろう演技内容に加え、男性にトラウマがあるであろうカレンのこころの中でやることではなかった。
『おおーっと! マーカス選手、ここで脱落です! ではリプレイ画像を見てみましょう!』
「ぐわぁぁっ!」
どうにも煽りっぽく聞こえるアナウンスと、バラエティなら放送禁止待ったなしの食われるマーカスとのギャップに、二人の眉間にしわが寄る。
「なぁ、ミカエル。あれ見て、まだチャレンジしろって言うのか?」
「さすがに無理よ。カナタくんが色んな書類にサインしてくれるなら一回くらいは頑張っても良いけど」
「お、落ちる前に自分が助けるっす! 一度外に出てすぐ戻って来れば実質ノーダメージっすよ!」
「……なるほど。それは確かにイケるかも」
「イケるかしら……?」
そこはかとなく納得のいかないものを感じながらもカナタが肩を回す。
「とりあえずここでこうしててもしょうがないから、チャレンジしてみるか……ミカエル。どんな理由があろうと『助けそこねたっす!』とか言い出したら俺はもう協力しないから」
「や、やだなぁそんなことするわけないじゃないっすか!」
「二度と、金輪際、何があっても、絶対に、協力しないからな?」
「……わ、分かったっす。いつでも助けられるようスタンバイするっす」
「それで、どうやってエントリーするのかしら」
「あー……誰かいないかー! 俺もアスレチックにチャレンジしたいんですけどー!」
言葉にした瞬間、カナタの姿が搔き消えた。
※ウデムシ
!検索・閲覧は自己責任でお願いします!
サソリモドキ、ヒヨケムシと並んで世界三大奇虫とされる虫。主観ですがめちゃめちゃキモいです。
※アスレチック
作者の印象に最も残っているのは第7回大会に出場したタレントでボディビルダーのハニホー・ヘニハー。挑戦結果も含めて色々面白い。気になる人は検索してみてください(いやその映像あるかわかんないけど)。
ボディビルダーでタレントなので(?)彼のwikiページもあります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます