第30話 武器

☆あけましておめでとうございます。

☆今日からまた更新していこうと思います。応援よろしくお願いします!

☆もう一個のほうもがんばります……新作も書きたいよぉ……ひんひんっ



 迷宮ダンジョン内に打撃音が響く。カナタがモンスターと戦っているのだ。

 時折、風を斬るような音に続いて乾いた音が響くのは朱里の援護射撃によるものだが、今はその勢いも散発的だ。


 中層に入るまでにスキルなしでの戦いに慣れたい、というのがカナタの希望だった。


 そんなわけで二足歩行の豚――オークに対して打撃を叩き込み続けているが、でっぷりと脂肪を蓄えた肌はどうにも打撃の効きが悪かった。

 すでにオークはめちゃくちゃに殴られ、目も開かないほどに顔は腫れあがっていた。


 それでも倒せないのはカナタの攻撃力が低すぎるせいか、それともオークの耐久が高いせいか。


 ぽっこりした腹を足場にして前に跳んだカナタの膝がオークの顔面に叩き込まれる。悲鳴とともに倒れるオークを飛び越えて着地。

 このままではらちが明かないと判断したカナタは顔を押さえてもがくオークに旋棍を叩き込む。


 打撃としてのそれではなく、中に封じられていた終末魔法が発動し、オークの身体が崩れていく。


 経験値を回収すると大きく息を吐き、それから額の汗をぬぐった。


 スキルがあれば一撃で頭部を爆散させられていたのに、今は時間も労力もとんでもなく必要な相手になっていた。


「……武器、新調するかな」

「武器っすか」

「ああ。旋棍トンファーも悪くないんだけど、スキルが使えない以上は武僧モンク系にこだわる意味もないからな」


 言いながらタブレットを受け取り、武器の一覧を眺める。多少のアシストをしていた程度で暇を持て余していた朱里が斜め横から覗き込む。


「次はどんなの使うの?」

「オーソドックスなのは刀剣の類なんだけど、実際に使いこなせるか微妙なんだよなぁ」

刃筋はすじ立てないとダメだもんねー。でも実際に戦ってるのに刃の向きをきにするのって大変よね」

「詳しいな?」

「舞台仕事の時、演出さんに散々駄目出しされたから」


 演技であってもそうならば、実践ではどれほど難しいのか。

 小さく呻いたカナタは選択肢から刀剣を外す。


「刃筋とか気にしなくて済むので、攻撃力高めなのが良いな」

「これとかは?」

「なんでこんなマニアックなものを……」


 朱里が指し示したのは鎖分銅くさりふんどうだ。長い鎖の先にトゲ付きの分銅が据えられたそれは、遠心力をつけて振り回し、相手に直撃させれば結構なダメージを叩きだせるだろう。


「これ、刀剣より難しくないか……?」

「でもカナタくんには鎖が似合うと思うの。首輪とかと一緒に――」

「欲望に忠実すぎるだろ。俺は絶対つけないぞ」

「とか言いながら男の子って実はけっこう好きなんじゃないっすか? ほら、目隠しとか手錠とかと一緒に」

「お前本当に天使だよな……? 買ってきたらお前につけて転がしてやる」

「エッ!? ま、待ってカナタくん……そんな、ええ……通販かなぁ」

「待って何で朱里が反応してるの」

「だってカナタくんに飼ってもらえるなんて……私の妄想よりハードなことするなんて供給過多すぎるよぉ」

「冤罪すぎる」


 頬を赤らめて身もだえする朱里。どうやらカナタ手ずから首輪や目隠しを装着してもらうところを想像しているらしい。


「あ、あの……がんばる……から……やさしく、して……ね?」

「痕が残らないようにするっす! 朱里ちゃんの肌に傷をつけたら国家的損失っすからね!?」

「えっと……カナタくんになら……つけてもらっても……良いよ?」


 カナタは二人を無視して武器選びを続ける。

 どういう反応をしても地雷を踏んでしまいそうだった。


「機構系もありだなー」

「き、機械!? 嫌! カナタくんが良いよう!」

「いや、ちょっと妄想の世界から戻ってきてもらって良いですか?」


 カナタが閲覧しているのは機構系――ギミックが仕込まれた武器種だ。大雑把に見れば今使っている旋棍も同じようなものだが、さすがにこれは終末魔法が入ったイベントアイテムなので除外する。


「機構系って何かメリットあるっすか?」

「ダメージ算出が装備者依存にならないんだよ」


 普通ならば武器ごとに設定された攻撃力と、装備者自身の攻撃力によってダメージは変動する。

 しかし機構系は装備者の攻撃力に関係なくある程度決まったダメージを出してくれる武器だ。


「高レベルになるとほとんど使わなくなるんだけど、レベル制限のあるイベントとかダンジョンに持ち込んだり、ツリーを極め終わって別の基礎職に就いた時とかに重宝するんだ」

「でも現状だとカナタさん、攻撃力が低いわけじゃないっすよね?」

「そうなんだけどさ……」


 むしろ問題はスキルが使えないことで、数値化するのであれば膂力は人並み以上だ。

 ロスミスであれば、装備することがデメリットになる状態である。

 ロスミスであれば、だが。


「機構系ってギミックがついてるからな。迷宮ダンジョン内で使うならゲームとは違うだろうし、トドメの一撃に使えるものとか、素の攻撃力がバグってるものないかな、って」


 刀剣類の刃筋とは逆に、ロスミスじゃないからこそ使えるものを探していた。


「たとえばコレとか?」

「重そう……ってそうか。素の筋力は高いから問題ないのか」


 朱里が選んだのはいわゆるチェーンソーだ。

 と言ってもロスミスの世界観に合わせたデザインのため、現実のもののようなエンジンはついておらず、鎖の部分もアダマンチウムとミスリルを混ぜた合金だったりとしっかりファンタジーしている。

 シルエットは刀剣に近く、ハンドガード付きの柄に指を引っ掛ける形のトリガーが備え付けられていた。これがスロットルになり、絞ると鎖が回転する構造だ。


 柄尻に入れる燃料槽でんちを動力にするので全体的に太く厚い印象ではあるが、今のカナタならば問題なく振り回せる範疇だろう。


「とりあえず使ってみるか」


 さっそく振り回してみる。


「……なんつーか、殺人鬼っぽさがエグいな」

「ホッケーマスクも要るっすか?」

「それカレンダー調べて金曜日と13日がぶつかってないと活動できないタイプのフレンズだから」

「予備武器をこれにすれば別の日にも活動できるっすよ!」

「エルム街限定っぽいけどね」


 カナタを置いてけぼりにした二人が勝手に予備武器を選ぶ。

 出てきたのは意匠を凝らされた慈悲の短剣スティレットだ。長さは30センチほどで刃はほとんどついていない。

 尖った尖端で鎧の隙間を刺突してトドメを刺すための道具である。


「ロマン装備っすねぇ」

「男子ってそういうの好きだもんね。男の子って感じでかっこいい」


 チェーンソーを進めたりスティレットをポチったはずの朱里とミカエルに好き勝手言われ、カナタの口がへの字に歪んだ。





Tips

本話でミカエルと朱里が話題にしているのはジェイソンが出てくる映画「13日の金曜日」と、フレディが出てくる映画「エルム街の悪夢」。実際はフレディは爪系の武器だし、ジェイソンもチェーンソーは使ってない。

ちなみにチェーンソーを使ってるのは「悪魔のいけにえ」のレザーフェイスです。原題がThe Texas Chain Saw Massacreなのもあってがっつりチェーンソー出てきます。

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