第4話 決意

「お初にお目にかかります。魔導士シャルル・ディマリアと申します」


 闇色の長いローブに、目元に届くほどの純白の髪。

 ルビーのように赤い目をした、妖気漂う優男。

 皇帝が連れてきた魔導士は、余裕を感じさせる穏やかなほほ笑みでこちらを見る。

 だが背景を知る俺には、その笑みが危険なものにしか感じない。


「皇帝陛下。よそ者を城内に滞在させることには反対です」


 気が付けば、自然と口からそんな言葉がもれ出していた。

 すると、意外そうな顔をした魔導士は――。


「さすがは帝国の剣。ガレリアを守る良き将軍なのですね」


 顔色一つ変えずに、余裕の返しをしてみせた。


「ならば少しずつでも、信用して頂けるよう励みましょう」

「ああ、そうしてくれ。この魔導士殿はほんとうに優秀でな。必ずやレオンも気に入るだろう!」


 そう言って皇帝は諸悪の根源である、魔導士を引きつれ去っていく。

 ……あの目、何度か本編の演出で見た。

 皇帝は魔導士の【魔眼】にもう、魅入られ始めているみたいだ。


「こうしている場合じゃない!」


 俺は大急ぎで私室へ向かう。

 造りの良い、両開きの木製ドア。

 鍵をしっかり締めて、フローリングの部屋に置かれたデスクに向かう。

 造りの良いイスに座り、備え付けのメモを取り出しペンを持つ。

 一度、現状についてまとめよう。


「まずここは、ティアーズ・オブ・ファンタジアの世界で間違いない」


 そして今はまだ、ゲーム本編の開始前。

 帝国が悪の大国としてその名をはせる以前の、平和だった頃に当たる。


「本編での帝国は、非道な暴走国家として突き進む。そしてその指揮を取っていたのは……あの魔導士だ」


 その頃の皇帝は魔眼による魅了が進み、完全な操り人形。

 魔導士の言うがままに、悪しき覇道を突き進んでいく。


「……でも」


 そんな帝国ですら最後には、踏み台にされてしまうんだ。

 魔導士の目的である、魔神復活の生贄として。


「そして――――帝国は亡びる」


 いや待て……!

 それだけじゃないぞ!

 そうだよ、その時もう一つ大きなイベントがあるじゃないか!


「……レオン将軍も、すなわち俺も死ぬ……っ!」


 ゲーム本編では、プレイヤーが操る主人公が帝国に到着した後、わずかだけど将軍と共闘する時間がある。

 レオン将軍はその際、帝国で正気を保っている唯一の大物として登場するんだ。

 そして皇帝の正気を取り戻すために奔走し、魔導士を止めるために最後まで戦い抜く。

 しかし失敗。

 一枚も二枚も上手だった魔導士に、殺される。

 共闘時にはいくつか選択肢が出るものの、その後の入手アイテムが変わるだけで、帝国の崩壊も将軍の死も変わらないんだ。


「な、なんてところに転生してんだよ……っ!」


 これから悪に染まり、滅びる帝国。

 その中で、最終的に死ぬ運命にある将軍に転生ってヤバすぎだろ……っ!

 転生するだけでもとんでもないのに、その行く末の恐ろしさに俺は頭を抱える。


「……このまま、運命を受け入れなきゃいけないのか?」


 不意に言葉にして、思う。

 帝国は滅び、将軍は死ぬ。

 それが運命だけど、前世だってまあまあ酷い終わり方だったのに、今回は殺されて終わるなんてさすがに酷すぎる。


「それに……」


 俺は知っている。

 これから城内が、街が、荒れ果てた死の街になることを。

 将軍である俺が逃げ出したら、帝国は本編の歴史よりも早く魔導士の手に落ちるだろう。


「さすがに、遅かれ早かれ滅ぶんだから仕方ないよねっ……とはいかねえよ……っ!」


 向けられた期待の視線、憧れの視線、温かい言葉。


「ああもうっ! また俺は性懲りもなくお人好しを発動させるのか?」


 前世でも、それで死んだようなものだろ。


「……でも。今の俺には将軍の剣技がある」


 そうなんだよ。

『帝国の剣』と呼ばれるレオン将軍は、まごうことなき本編最強キャラだ。

 もちろんその持ち技は、全て把握してる。

 それだけじゃない。

 もう一つ、ゲーム本編の状況とは大きく違う点がある。


「俺は魔導士が諸悪の根源だと知っているし、設定資料や小説、DLCから多くの情報を持っている。もちろん帝国がどう堕ちていくかだって頭に入ってる」


 皇帝一家の今後も、兵士たちの未来も、街の住民たちの行く末も。

 魔導士がどういう形で帝国を支配していくか、本編の状況を思い出して動けば未然に防げるのではないか。

 こっちは雑魚モンスターのドロップまでハッキリ思い出せるほどには、ティアーズ・オブ・ファンタジアをやり尽くしているんだから。

 そう、俺はこの世界の事を誰より知っているんだ。


「できるはずだ。帝国の破滅を阻止し、来たる死を阻止することだって!」


 死にたくない。

 でも、この国の人たちを見捨てて逃げることもできない。

 15周遊んだ、いや、遊ばせてもらったティアーズ・オブ・ファンタジア。

 このゲーム世界で唯一、その滅んでいく姿を目の当たりにさせられたガレリア帝国。


「……やってやる。将軍の剣技と俺の知識で、シナリオを変えてやる!」


 目指すは帝国の滅亡を阻止すること。

 そして、2度目の死の回避だ。


「俺はガレリア帝国を救い、将軍として生き残り、ティアーズ・オブ・ファンタジアを完全攻略してみせる!」






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