第47話 一緒に居て欲しい 【有馬姫架 視点】


 風に運ばれた雪が、あっという間に季節を連れてくる。


 ――12/24。


 お兄さんに意識をしてもらう。はっきりと、ちゃんと。


 だから、私は普通の日では駄目だと思った。そして自分を追い込むため......逃げられない状況を作る。


「さすがクリスマス。人が多いな......大丈夫か?」


 お兄さんが私を気遣う。人混みが苦手なのを知っているからだ。


「だ、大丈夫です」


 ひとつひとつ踏みしめる。煉瓦で作られた歩道は、落ち葉で彩られている。


 街路樹もイルミネーションで飾られ、暗くなれば光を放つ。洋服のお店にはサンタの置物が置かれ、温かそうなコートを着させてもらっている。


 たまに愛衣ちゃんと食べるシュークリーム屋さんは、窓ガラスに雪にみたてた綿が貼り付けられいる。そこにシュークリームが描かれていて、クリームが飛び出してる風に見えた。


 他にも、様々な物がクリスマス一色に彩られていて、街は特別な日を演出していた。

 定番の曲と、冬の匂い。ベージュのコートを着た隣のお兄さん。


 何もかもが特別に思え、これからの事を思えば胸が苦しくなる。


 ......私は、今日、好きと言う。


 想像するたびに頭の中は雪のように真っ白になるけど、でも、ちゃんと私を意識してもらわないと。


(......帰り道にある大きな街路樹のツリー。なるべく告白みたいな雰囲気で、好きって言う)


 イメトレはした。するたびに気絶しそうになったり発狂しそうになった。あと吐きそうにも......吐き気はもう最近ずっとしてるけど。


「......あ、ここ......」

「ん」


 私が予約したレストラン。これまでたくさんしてくれた事へのお礼。気持ちをカタチにということで、今日は私がVTuberで稼いだお金でお兄さんを食事に誘った。


「ここ?まじで?」

「......だ、ダメでしたかっ!?」

「あ、いや。大丈夫だけど......結構値が張る店だよな、ここ」


 感謝の気持ち。お兄さんにはホントに色々としてもらってる。確かに少しお高いお店ではあるけれど、これまで私に使ってもらった金額を思えば、全然大したことはない。


 ......っていうか、来たことあるんだ。


「このお店、知ってるんですか?」

「ん......ああ、前に一度だけ。幼なじみ......加星と来たことがあるんだ。あの時も確か、VTuber成功のお祝いだったかな」


 ......ドクン、と心臓が鳴る。そうだ、そう言えば......加星さんのこと幼なじみってずっと言っているけど、恋人の可能性もあるんだ。


「そ、そうなんですね」

「うん。まあ、ここでケンカして疎遠になったんだけどな......って、なに聞かせてんだろ。すまん」


 疎遠に......え、じゃあ恋人じゃない?それか、恋人だったけど、お別れしたとか?


「い、いえ......大丈夫です。は、入りましょう!」

「うん。はいろっか」


 お兄さんにとっては嫌な記憶。でも、それを聞いてどこかホッとしてしまっている私がいる。

 ケンカの理由はわからないけど、でも疎遠になったという言葉に私の心が救われていた。


 人の不幸で救われるとか、私って最低かもしれない。


(でも、それでも......)


 私は、お兄さんが好きだ。誰にも奪われたくない。


 今、もしかして加星さんが恋人なのかもと思った瞬間、この日までタイミングをみていた事を後悔した。


 だから、なんとか......今日。私に目を向けてもらう。恋愛対象として、私を見てもらう。



 ◇◆◇◆



 店内への扉を開くと、カランとベルが鳴りカウンターの店員さんが私達に気がつく。

 まるでバーテンダーのような姿の女性が頭を下げ、微笑んだ。


「いらっしゃいませ」


「......あ、あの、予約してた......あ、有馬姫架、です」


「有馬様ですね。本日はご来店ありがとうございます。こちらにお席をよういしておりますので、どうぞ」

「は、はいっ!」


 先をゆく店員さんに着いていく。ちなみにお店の予約を取るのに3日使った。予約でいっぱいとかじゃなくて、緊張で電話できなかったり、電話しても喋れず無言になったりして.......結局、愛衣ちゃんにフォローしてもらってなんとか予約を取れた。


 それと、このお店を勧めてくれたのは愛衣ちゃん。実は事前に蓮くんと舞花ちゃんと愛衣ちゃんで来て食事をした事がある。


 いつも仲良くしてくれてありがとうと、皆のお金を払おうとした私を愛衣ちゃんが制止して「それはダメ。嬉しいけど、ここは私が払うわ......」そう言って皆の代金を払ってくれた。


 私は、もっとVTuberでたくさん稼いで、こんどは私が皆にごちそうするんだ。と、そう思った。


「こちらです」


 一つの丸いテーブル。白のクロスが掛けられ、椅子が向かい合わせに置かれている。


「お決まりになりましたら、お声掛けください」


 そう言って店員さんはカウンターへと戻っていった。


「......え、遠慮しないでくださいね」


 そう言うと、お兄さんはにこりと微笑んだ。


 だ、だめだな......やっぱり、お兄さんカッコいい。あまり目が合わせられない。もとからだけど。


 でも、私がお兄さんを好きだと自覚したときから、気持ちが募るたびにまともに顔が見られなくなっていった。

 想像するだけで顔が熱くなる。これはもう恋煩い末期だ......。


 これでもし、もしも恋人となれたら、いつもずっと一緒に遊んだりデートしたり、することになるんだよね。

 だ、だめだ、吐きそう。ヤバい。そうなったら心臓が保たない気がする。


(......でも)


 私はお兄さんの顔を見る。彼はメニューをパラパラとめくり、料理を選んでいた。優しい眼差し。


 私は、彼が......敬護さんが欲しい。


 ずっと、ずっと......一緒に居て欲しい。




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