第46話 診断 【有馬姫架 視点】
「ふーん、そんでそんで?他にはどんな症状があったん?」
「......え、えっと......顔が熱くなったり、たまにぽーっとなったり......」
学校終わり。舞花ちゃんと二人きりでの帰り道、私は最近の事を相談した。三人や四人でだと全く喋れないけど、一対一だと、最近は比較的にどもりながらではあるけど、喋れるようになっていた。
ちなみに蓮くんは居残りで、愛衣ちゃんはバスケ部のスケットらしい。
「......そ、そんなこと......ま、舞花ちゃんは、あるかな」
「あるよ」
あるらしい!なら、この症状がなんなのか知っているのでは?
「そりゃ好きなんでしょ」
「.......す、好き......?」
好き、か。思っていた答えとは違う事に少し落ち込む。だって、好きなのは当たり前だし、だとしたら対処法もない。
「ど、どうしたら、いいのかな」
「うむ。姫架は妹だからねー、ちょっと難しいかも......って、あ。でも血は繋がってないのか」
......どういうこと?血が繋がってたらダメなの?
「とりあえず一回、敬護さんに好きって言ってごらん」
「......す、好き?なんで」
「その反応で脈を見るんだよ」
え、なんか怖い......舞花ちゃんの言ってることが理解できないのもあるけど、お兄さんに好きって言う事がなぜか怖い。
「......い、言えない、かも......なんか、怖い」
「あー、そかそか。そりゃそーか。好きな人だもんね」
「で、でも、おかしいよね」
「ん?」
「......だって、お母さんやお父さんには、多分好きって普通に言える......なのに、お兄さんには怖くて言えない......」
そう言いながら舞花ちゃんを見ると、ぽかんと目をまんまるにしていた。え......怖い。なにその顔。
「あ、そっか。姫架はまずそこからなんだ。なるほどね」
「.......?」
「姫架のその好きは、家族を好きって言うのとは違うんよ」
「違う?」
「そそ。姫架の敬護さんに対する好きは、異性として......男の人として、だね。ずばり、それは恋だよ!」
異性として、男の人として。お兄さんの顔を思い浮かべると胸が暖かくなるし、切なくなる。加星さんと楽しそうに会話をしているのを見れば悲しくなるし、辛くなる。
これが、恋?
「......恋......」
「そーそー、恋!誰かに取られたくないとか思ったりしない?」
「!」
お、思う。
「誰か他の女の人と会話してるだけで、心がぎゅーってなるんでしょ?」
「な、なる!」
「だよねだよね!」
「ど、どーしたらいいの、これ」
「簡単だよ!」
簡単らしい!
「お兄さんを恋人にして自分のものにすれば良い!」
簡単じゃない!
「......え、そ、そんなこと......」
「できるできる!だからそのために一回好きって言ってみてほしいんだよね〜。敬護さんがどれくらい姫架のこと意識してるか確認したいからさ」
「で、でも、それって......それによって、お兄さんが私のことどう思ってるかわかるんじゃ」
「そだよ?」
そだよ、って可愛く首傾げてるけど......ふつーに怖いんですけど。
「でも大丈夫だよ。もし、敬護さんが姫架の事をただの妹としてしか見てなかったとしても、なんとかできる。ってーか、大事なのはまず姫架が敬護さんに異性として意識してもらうことなんだからさ。そこ確認しないとでしょー」
「た、確かに......」
ま、まあ、無理なんですがね。お兄さんに好きっていって顔を曇らせてしまうのを想像するだけで吐きそう。
「あ、姫架。今、絶対無理だとか思ったでしょ?」
「はうっ」
「今すぐにじゃなくても、いつか確かめればいいって思ってるんじゃない?」
な、なんで......あれ、私もしかしてサトラレ?
「でも、駄目だよ。それは怖くても早くしないと」
「な、なんで」
「いい?姫架。想像してごらん......敬護さんにもし、仲の良い女友達ができたとしよう」
仲の良い......女友達。幼なじみの加星さんとか。
「だんだんと仲良くなって、姫架の家にも来るようになる。そして、敬護さんはその人とお付き合いすることに......いくら敬護さんが姫架のことを大切にしているといっても、あくまで妹だからね。やっぱり恋人には勝てない」
あ、ああ......あ。
「どんどん親密になりやがて結婚。姫架からは離れていっちゃうよね。ほら、結婚となれば二人で家庭をつくっていかなきゃだし......そこに姫架の居場所は無いよね。ふつーに考えて」
「......こ、子供ポジで」
「ねーよ!」
ビシッ、とツッコミを入れる舞花ちゃん。
「ほら、どう?敬護さんはカッコいいから、将来こうなる確率は高いよ。怖くない?」
「怖い」
めちゃくちゃ怖い。でも、確かにそうだ。私は妹なんだ......ずっと一緒にいてくれるとは言ってくれたけど、自分の家族ができれば私は、おそらく二の次に。
それに冗談で言ったけど、仮に子供ポジになれたとしてもお兄さんが他の誰かと恋人になるのは見ていたくないし、多分かなり辛い。
「はい、ここで問題。敬護さんに好きっていう怖さ、敬護さんを誰かに奪われてしまう怖さ。どっちのか怖い?」
「奪われる、のが怖い」
「はい、正解」
ぱちぱちと拍手する舞花ちゃん。
「では、姫架には任務を言い渡しまーす!とはいえ、いうて結構怖い事だと思うのでね......期限は今年中!敬護さんに好きって言ってみてね」
「こ、今年中......」
「なんなら一回告白するでも良いよ。そっちのが手っ取り早いし。どの道、姫架は異性として意識してもらわなきゃなんだからさ」
「い、異性として......」
「そう。そこからがスタートだよ。姫架は他とは違ってまず妹なんだからさ〜あ」
「......そ、そっか......」
妹だから好きって言っても意識されるわけじゃない。おそらくはふつーに妹として好きと返される。だから、最終的には意識してもらうための何かが必要なんだ。
「ま、怖くなったら思いだしなよ。他の誰かに敬護さんがとられる未来を......そしたら、動けると思うよ?」
「う、うん......ありがとう」
「頑張れ、姫架っ」
そう言って舞花ちゃんは応援してくれた。
......ふわふわと、白い雪が風に乗って眼前を運ばれていく。
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