第45話 後悔と



 ――ぼふっ、とベッドに体を預ける。


 思い浮かぶさっきの情景。妹との会話。


 風邪でもひいたんじゃなかろうか。妹の潤む瞳、赤い顔が脳裏に蘇る。

 最近寒かったからな。あれならコートとかも買って......いやまてまて。さっき言われたばかりだろ。


「お金使わせてしまった......、か」


 マジでホントにダメな奴だな。妹がそれをプレッシャーに思わないわけないって普通はわかるだろ。

 多分、おかえししなきゃとか思ってるんだろうな。それを考えると酷いことをしてる気がしてきた......悩ませてるよな、俺。


 会話はしてくれてるけど、最近、挙動不審度が高まってきてるし。


 別に見返りを求めて渡してるわけじゃない。俺は兄として、妹が大切で心配なだけだ。

 母が娘を思うのと同じ感覚。親は子供に見返りを求めて物を渡したりしないだろ?そういう感じ。


「......っていうのを伝えればいいのか」


 いやまて、こっちは家族だと思って接しているけど、妹がまだ俺のことをそういう感じに思えていない可能性......あるな。だってまだ妹と出会って大体二ヶ月くらいだろ。


 ......俺、なれなれしくしすぎたかも?だから、引いてるのか?俺のこのプレゼントの数々に。


(なんというか......やっぱり、人との距離感おかしいのかな、俺)


 加星ともそれで疎遠になった気がするし。ちゃんと聞いたことはないが、多分そうだ。一つ心当たりがある。......あまり思い出したくないけど。


 てか、ちょっと今日寒いな。俺はベッドから起き上がり、トイレへと向かう。


 確か、あの時も加星の様子がおかしくなったんだよな。それまで仲良かったのに、避けられ目を合わせてくれなくなった。

 めちゃくちゃ寂しかったな、あれは。


 妹もいずれそうなるのか?......もし、これがその前兆なら、本気で怖いな。


 ――ガチャ、ゴンッ!「あだっ!?」「え?」


 扉に何かがあたり、向こう側で声がした。確認するまでもなく誰かに扉をぶち当てたのだと瞬時に理解する。


「だ、大丈夫か!?」

「〜〜〜ッッ!!」


 向こう側で姫架がおでこをおさえしゃがみ込んでいた。俺は急いで扉の隙間から出て、妹の元へ。


「......す、すみません、ちょっと.......ノックしようとして」


 タイミング悪すぎだろ、俺。


「そっか、悪かったな急に開けて。おでこぶつけたのか?」


 俺は妹の前髪を手でよけ、おでこを見る。ちょっと赤くなってるか?


「......は、あっ、あの!」

「!、どうした!?病院いくか!?」

「行きませんが!......は、恥ずかしいので、その......」


 あ、しまった!またなれなれしく......ホントに学習しない奴だな俺は。


「ご、ごめん」


 ぱっ、とおさえていた前髪をはなす。


「い、いえ......お気になさらず、ず」


 大丈夫っていうんだから、大丈夫なのか?心配だ。でも、こういうところがダメなのかもな。余計な心配ってやつをやくから俺は嫌われていくんだろう。


 ......つーか、妹、俺になんか用があったんじゃないか?ノックしようとしてって言ってたよな。


「......えっと、妹は俺に何か用があったのか?」


 聞くと妹はこくこくと頷く。廊下じゃ少し寒い。風邪をひかせてしまうと悪いし、部屋に入ってもらおう。


「とりあえず、俺の部屋に入って。寒いだろ、ここ」


 ガチャリと開きどーぞと入るよう促す。すると妹は「......あ、ありがとう、ございます......」と小さく言い中へと入った。


「ごめん、俺、ちょっとトイレ行こうとしてて......少し待ってて」

「は、はい」


 ――部屋を後にし、トイレで用を足す。危なかった......ホッとしながらも妹の用事がなんなのか俺は考える。

 妹が俺に用事.......おそらくはVTuber関係のことだろうな。いままでのことを考えるとたいていそれ関係だから。


(......VTuber)


 って、あ!?その瞬間、俺は思い出した。PCで切り抜きの編集作業をしていたことを。


 や、やべえ!?


 トイレを済ませると俺は駆けた。自室へと。バッ、と扉を開きPCを確認する。すると、作業途中の画面が映されていた。

 妹は俺のベッドに座り「......あ、おかえりなさい」と言いこちらを見た。


 PCに気がついてるのか、これは......わからん!が、早く画面を隠さねば。


「た、ただいま!寒くないか?」


 そう言って俺はPCへと何食わぬ顔でそろり近づく。しかし、その時不運の事故が起きる。

 顔は妹へと向けつつ移動していたので、足元になにがあるのかろくに確認してなかった。だから、コンセントから伸びる線を避けることが出来ず――


「うおあっ!?」

「ん......へっ!?」


 バランスを崩し、ベッドへダイブ。妹に覆いかぶさるように倒れ込んでしまった。

 手が重なり、顔が間近にある。妹の前髪がベッドシーツに広がり、顔があらわになっている。


(.......うわぁ、やっぱり美人さんだよな妹。すげえ整った顔立ちしてる)


 じゃねえ!!と、一人心の中でノリツッコミをして「ご、ごめん!」と妹からどける。

 彼女はそれに驚いたんだろう。目を見開き、ぽけーっと呆けている。


 ......これは、やっちまったわ。



 ◇◆◇◆



 び、びっくりした。突然......お兄さんが覆いかぶさって来て、顔が.......か、か、顔がぁ!あんなに近くにっ!!


 し、しし、心臓、大丈夫かな!?い、生き物って大体決まってるんでしょ!?一生での鼓動の回数......わ、わ、私、これもう死ぬんじゃ......!?


 パニックに陥りながらも、手に残っている感触を思い出す。


 柔らかくも、少しかたい。男の人の手。


 それを思うと、また一段と心音が高鳴るのを感じる。


(〜〜〜ッッ!!)


 駄目だ、駄目だよ。胸がおかしい。ぎゅうぎゅう、って、苦しい。

 お兄さんの匂いで変になる。.......これ、もしかして、病気なのかな。


「.......あ、あ、......おに、お兄さん」

「は、はい!」


「ちょ、ちょっと、すみません......帰ります」


「......はい」


 力が上手く入らない体。ふらふらの足どりで自室へと帰り、ベッドで気絶した。



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