第31話 プレゼント
買い物を終わらせ、近場の公園へと移動。俺は歩いている間ずっと考えていた。妹はまだイジメられているのか?と。
しかし、これはもう考えても答えなんて出ない問題なのだとすぐに答えが出たので、この公園で話を聞くことにした。
ここは彼女と出会った公園。
「あの、妹......もしかして、またイジメられてるのか?」
単刀直入に聞く。オブラートに包みながら遠回しに聞いていくと、妹のこの調子なら半年はかかると思ったからだ。
すると妹は一瞬、鋭い目がまんまるになり、きょとんとした表情になった。
ぶんぶんと力強く首を横に振る妹。否定......つまりイジメではないのか。少しホッとした。
じゃあなぜスーパーで静かなる怒りを滾らせていたのか。その疑問の答えを導き出すための重要なキーワードがある事にふと気がつく。
それは舞花だ。彼女の名前を出した時、妹は僅かに動揺した。
「もしかして、舞花となんかあったのか?」
ふたたびピクリと眉毛が動く。やはり舞花関係か。
「......あの......」
お、やっと言葉を発した。
「......何を話していたんですか」
「何を?って、もしかして舞花とか?」
こくこくと頷く妹。
「料理の話だよ。たまたま出くわしてさ、舞花も夕食の食材を買い出しに来てたみたいで、何作るのか〜とかそんだけ......なんかあった?」
「......ほんとに......?」
「本当だよ。なんでそんな事で嘘つくんだ」
口をもにょもにょさせ、妙な表情になる妹。
「どうした?」
「......なんか、よくわかりません」
う、ううむ。困ったな。機嫌が悪い......悲しい?とにかく平常心でないことは確かだ。理由も舞花が関係しているらしいが、詳しくはわからない。
そして彼女も教えたくないのか、それとも本当に自分でもわからないのか、理由はわかりそうにもない。
(まあ、だからといってこのままにしておくわけにはいかないよな......兄として)
「ところで......今日の夕食はさ、ちょっとしたお祝いにしようと思ってるんだ」
「......お祝い?」
「そう。妹の、陽季子モリの初配信祝いだな」
妹の表情が少し和らぐ。
「だからさ、妹の好きな料理教えてよ。俺、作るからさ」
「......そ、そんな、悪いです......」
「悪いことなんて無いよ。妹は頑張ったからそれくらいのご褒美はあってもバチは当たらないさ」
「頑張った......?」
「始めての雑談配信、あんなに上手くトークできるとは思わなかった。というよりふつーは失敗して上手く話を続けられないんだけどな......なのに陽季子モリは上手く回せていた。とてつもなく緊張しただろうに。本当、頑張った」
ぽんぽん、と俺は妹の頭に手を乗せる。
「......ありがとう、ございます.......」
「うん」
重々しかった雰囲気が和らぐ。
「......でも、少し不思議でした」
「不思議?」
「......はい。現実世界で、こんなに......暗くて、地味な私なのに......あの場所では、まるで別人のように......私はキラキラで、可愛らしくいられて」
そう語る妹は真っ直ぐに俺の目を見据えた。
「私が、私でいられた......こんな私でも、生きてて良いんだって、この世界に存在しても良いんだって、思えたんです......」
ぱあっ、と笑顔になる妹。おそらくはリスナーとの触れ合いの中で自身に価値を見出したのか。満たされた自我。
妹はこれまで虐げられてきた。だから、ああして誰かに認められるような事は、今までに無かったのかもしれない。
「うん。良かったな、姫架」
「......はい!」
根本的な解決はしてないが、妹の機嫌はどうやら良くなったみたいだ。良かった。
「あ、そうだ。妹、これ」
「?」
俺はスーパーに来る前に寄った雑貨店で購入した物を渡す。
「......ヘアピン」
それは、白い薔薇があしらわれている、少し大きめのヘアピン。妹の配信中の様子を見ていて、前髪で画面が見えづらいかなと思い買ってみた。
「うん。一応、VTuberデビューのお祝い。配信中とかに使えればと思ってさ。ま、趣味じゃなかったら捨ててくれ」
「い、いえ!捨てません!!嬉しいです......!!」
普段は静かに喋る妹。それが急に大きな声を出されると流石にビビり、体がびくりと震える。
しかし、妹はそんな俺をよそにヘアピンを両手で大事そうに包み込む。
「......本当に、嬉しい......」
ぎゅ、と祈るように握るヘアピンを胸元に持っていく。どことなく愛おしそうな、そんな表情だ。
それから、妹は前髪を束ねた。そしてあげたヘアピンを使い横へ寄せた。七三分けのようになっていて、いつもは隠れていた顔がはっきり見える。
(......か、可愛い......マジで)
今までは前髪の隙間から覗いている顔のパーツで可愛いのではないかと判断していた。が、しかし今はっきり確信した。
姫架は可愛い。それも、とてつもなく。
「......ど、どうですかね......似合いますか」
整えられた眉、切れ長な目、少し厚い唇。そして、口元にあるほくろがとても良い。しかし、これは考えを改めねばなるまい。
さっき妹は可愛いと言ったが、どちらかと言うと美形の美人さんだ。
髪を切って顔を出すだけで果てしなくモテるぞ。この子は。
「めちゃくちゃ似合ってる。マジでプレゼントにヘアピンを選んだあの時の俺を褒めてやりたいよ」
「ぷっ、あはは、なんですかそれ」
本気でそう思った。
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