第27話 魂


 ――4日後。土曜日。防音室は無事に設置された。地下室が空いている事に気がつき、そこへ設置した。地下室自体が静かで防音室買うまでも無かったんじゃね?と思ってしまったけど、俺は口にしなかった。


「......で、できましたね!」


「うん、できたな」


 そんなこんなでついに妹の配信部屋が完成したのだった。ちなみに地下室といっても4畳くらいの小さな部屋で、物置的な場所だ。


「さて、それじゃあテストでVTuberになってみようか」


「......い、いきなりですか!?」


「え、それじゃあ夜にする?」


「......いえ、やります......」


「どっち!?」


「こ、心の準備が......で、でも頑張らないと、前に進めないですよね」


 緊張が伝わってくる。


「まあ、配信するわけじゃないからさ。気楽にね」


「は、はい」


 俺はセットしていく。PCを立ち上げソフトを起動させる。ヘッドホンを繋ぎ、椅子に妹を座らせた。対面する彼女の分身、VTuber。


 黒を基調とした、烏モチーフのVTuber。ルビーの様に輝く紅い瞳、觜のデザインのティアラと、レースで作られた黒のヴェールが姫架らしさを醸し出す。


 胸元に下がる桃色のリボンと、オフショルダーのドレス。所々に烏の羽根を思わせる模様が切り抜かれ描かれている。


 俺のデザインしたVTuber、陽季子モリがそこにいた。彼女はにこりと微笑み、姫架を待っている。


「ほら、喋ってみて」


『......こ、こんにちは』


 妹がそう言うと、同時に画面に映る陽季子モリが口を動かし同じ言葉を発する。――今、陽季子モリに魂が宿った。


『す、すごい!喋った!!』


 妹が顔を上下左右に動かし、陽季子モリの動きを確かめる。嬉しそうに微笑んでいる姫架と陽季子モリ。


「そりゃ喋るよ、はは」


『えへへ、かんどーです!』


 パチクリと目が動く。細かな姫架のアクションを正確に陽季子モリのその表情が反映していく。まさに命が宿っているような動きと存在感。


『わあー、可愛い!!これが私なんですね!!めちゃくちゃ嬉しい......嬉しくて吐きそう!!』


「いや吐くな!?」


『あははは、冗談ですよ〜!』


 さっきまでの緊張と不安は何処へやらだな。嬉しそうで安心した。


 その時、ふとデジャヴを感じた。この光景......どこかで。


(あ、そうか)


 そういやキララも最初こんな感じだったな。あいつはむしろ機嫌が悪くて、「VTuberなんて絶対にやらない」とまで息巻いていた。それが今や大手VTuberグループのトップクラスのタレントになるんだから、人生わからないもんだな。


『お兄さん!みてみて、ウインク!パチパチ、あはは』


「いや、あははて」


 チャンスはどこにでも転がってて、一歩踏み出すかどうか。誰かが言っていたけどほんとにそうだと思う。


 キララも俺もそうしてここまできた。そして、妹もこれから大きな一歩を踏み出す。


(頑張ろうぜ、妹......陽季子モリ)


 てか今更ながらヒキコモリのネーミングセンスすげえな。


 それから妹が配信の練習をしたいと言ったので、配信部屋を後にする。あとで飲み物か何か持ってきてやんないとな。


(そして昼食を作らねば......妹は多分配信部屋にずっと籠るだろうから、おにぎりとか作るかな。梅あったっけか。妹は梅が好きなんだよな)


 あ、そうだ。妹のVTuber用のSNS......うーむ。フォロワーが27人か。この中には俺がいるから実質26人のフォロワー。


 この全てが配信時に来てくれるとは限らない。


 俺の絵師アカウントで人を集めた方が良いか?......いや、でももし人が集まりすぎて、妹が緊張しちゃって失敗しないとも限らないし。


(あまり下手なことはしないほうが良いか?)


 まあ見守る事も大事だというし、ママ的に言うならあまり過保護にならないほうが良いかもな。


 ここまでで結構な過保護っぷりを発揮してしまっているような気もするが。


 とりあえず飯作ろう。



 ◆◇



 ――コンコン。地下室もとい配信部屋の扉をノックした。反応が無い。......ん?あれ、もしかしてあの子、防音室に入ってるからノックの音聞こえないの?


 扉を開き隙間から呼びかけてみる。「妹〜、入るぞ」ちらりと中を見れば妹は防音室で一生懸命何かを喋っている。


 ......自己紹介の練習か?と一瞬思ったが、リズムをとっているような動きから、歌の練習だと言うことを察することができた。


(頑張ってるな)


 俺は防音室の扉をノックした。すると妹はビクンとしてこちらを驚きの眼差しで見てきた。え、そんなお化けみたような顔する?若干ショックなんだけど、お兄さん。


「お、お兄さん、どうしたんですか」


 出てきた妹。額が少し汗ばんでいて防音室内から熱気を感じた。......これは暑さ対策が必要だな。


「どうしたもこうしたも、妹、防音室こもってからもう2時間くらい経ってるぞ。休憩したらどうだ?」


 俺は持ってきたおにぎりとたくあん、おかずのミートボールに卵焼きを見せた。ちなみにミートボールは冷凍食品。てか最近の冷凍食品美味しくね?


「......え、あれ、もう2時間......!?」


「気づいてなかったのか。すげえ集中力だこと」


 まあ、俺も人のこと言えねえけど。夜に仕事でイラスト描き始めて気がついたら次の日の昼間だったなんてこと何回かあるからな。


「とりあえず飯食べな」


「......あ、ありがとう、ございます。すみません」


「すまないことなんてないぞ。召し上がれ」


「!、梅おにぎりだーーっ!!」


 幸せそうな妹の顔を眺めながら俺もおにぎりを頬張った。



―――――――――――――――――――――――



お読みいただきありがとうございます!


もしお気に召しましたら、作品のフォローや★★★での評価をして応援いただけると嬉しいです!


作品作りのモチベーションになりますので、ぜひよろしくお願いします!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る