第24話 雷のち


 停電になってもう十分くらい経ったんじゃないか。窓から普段は見えるはずの街灯が見えず、まだ暗い。


(......まだ復旧しないのか。このままだとマジで妹が風邪をひいてしまう。それと俺の心臓が限界を迎えそうだ)


「妹、ちょっと懐中電灯もってくるから」


「......は、はい」


 ぎゅっ、と俺の腰辺りの布を握りしめる妹。俺が歩きだすと妹も同じく歩き出した。


(あ、一緒に行くんだ......)


 雨音が激しく雷の頻度こそ落ち着いたが、風の音も大きくなってきた。きっとまだ怖いんだろう。


 俺も小さい頃、雷が鳴ると怖くて母さんの側にくっついて歩いてたな。そういう時、いつも気を紛らわせてくれようと母さんは俺の好きな物の話をしてくれたりしてた......。


「妹はさ」


「......は、はい?」


「VTuberになったら何がしたい?」


「.......」


 黙る妹。唐突過ぎたか?っと、ここの引き出しに懐中電灯が......あった。


「......わ、私は......歌をうたってみたいです」


「歌、か」


 意外だった。妹の性格上、歌をうたうのは恥ずかしくて苦手なんじゃないかなと思っていたから。


「は、はい......」


「それはキララが歌が得意だから?」


「......それも、ありますが......」


 俺は懐中電灯をつけた。よし、電池もあったな。ちゃんとついた。明かりを見てホッとしたような表情を浮かべた妹。


「それもありますが、って。他にも理由があるのか?」


 俺がそう言うと彼女は上目遣いでこちらを見る。懐中電灯の明かりで暖かな色味に妹が彩られ、その表情が柔らかく見えた。


「......昔、お母さんが褒めてくれたんです......」


 その言葉に、ふと俺の記憶が蘇る。始めて描いた絵。それを母さんが褒めてくれた時のあの笑顔。その嬉しかった気持ちと高揚感。


(......なるほど)


「そっか。歌、妹にとって......宝物なんだな」


「......はい」


「それじゃあVTuberになってお母さんにも妹の歌を聴いてもらうか」


「......そ、それは......難しいかもしれません」


「そう?」


「はい」


 歌を褒められたのは昔。小学生とかかな。今はもう歌を聴かせるのが恥ずかしいとかそういう事かな。


 まあ、なんにせよ方向性が決まっているのはちょっと安心。VTuberにはなりたいけど、したいことが無いとかだったら辛かった。


 歌ならshort作りやすいし、良いな。それにまだ妹の歌を聴いたことがないから上手いのかはわからないけど、声質的に人気はでそうだ。......つーか人気出させる。俺のSNSの絵師アカウントで宣伝しまくれば結構な人が集まるだろう。


(それはチャンネルが成長してきてタイミングをみての話だけど......)


 あ、てか今なら伝えられそう。


「楽曲は俺が用意するよ。だから歌いたい曲、あとで教えてくれ」


「は、はい!ありがとうございます!」


「そして妹に朗報だ」


「?」


「VTuberモデルが完成した。もういつでも配信ができるぞ」


「......!!」


 無言の妹だが、鼻息がフンスフンス言ってるので嬉しくて興奮していることがわかった。


「後で送るよ」


「あ、ああ、ありがとうございます!」


「......あ、でも、停電がなおってからだけどな」


「あー......まだ復旧しないんですかね......」


「うむ。長いな......とりあえず服着たら?そのままだと風邪ひくぞ」


「はい」


「それじゃあ風呂場へ戻ります」


「はーい」


 良かった。夕食の妙な雰囲気が無くなってる。



 ◆◇◆◇



「き、着替え終わりました......」


「うん」


 と、その時。フッ、と明かりが戻る。


「お、電気......」


「......!」


「妹、着替えたばかりだけど風呂入るか?」


「......い、一緒にですか?」


「なぜ!?い、いや、妹ひとりでだよ......」


 どうして一緒に入りたがるんだよ。おかしいだろ。


「じゃ、じゃあ入りません.....」


「あ、もしかして。雷が怖いのか?」


「......」


 恥ずかしそうに妹はこくこくと頷く。


「だったらここで待ってるよ。だから入ってきな」


 風呂場前に居るから心配ないと伝える。しかし、依然妹の顔は暗い。それほど怖いのか......雷が。


「きょ、今日は......やめときます。明日、シャワーを浴びます」


「そっか。了解」


「あの、あの、すみません......ひとつお願いがあります」


「?」


 もじもじと指を合わせ、ちらちらこちらを見てくる。どうした......トイレ?もしかして言うの恥ずかしいのか?


「良いよ、行こう」


「え、え?......あ、ありがとうございます......」


「?」


 なんか妙な違和感が......気のせいだろうけど。いや気のせいだよな?


 とりあえずトイレつれてくか。


「えっと、行こうか」


「はい!......あの、枕だけとってきて良いですか」


「トイレに!?」


「と、トイレに!?」


 トイレに枕なんて始めて聞いたんだが!?抱きしめながら用を足すのか......?


 唖然とした表情になりつつも妹の顔を見れば、妹も唖然とした表情になっていた。


(!?、え、なにこの反応)


 もしかして、トイレに枕はいまや常識で......俺が知らないだけなのか?ああ、ボッチだしな、俺。流行なんて知らないよ。


「お、お兄さん、何か勘違いしてませんかっ、私......トイレ行きたいわけじゃありませんよ」


「え、あ......そうなの?」


「......や、やっぱり!......私は、その......お兄さんの部屋で寝させて欲しくて......」


 あ、そういう事......は!?


「お、俺の部屋で!?」



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