第23話 雨のち
――ザァーと土砂降りの雨音。不安そうな表情の妹は、嫌いな雷が鳴ることを恐れているのかもしれない。
どことなく重い空気。言葉少なな妹の口数がより少なく、俺は心配になる。もしかして学校で何かあったのか......?
もくもくと白米を箸で口に運んでいる。何かを考えているのか、いつものようにこちらをチラチラみて様子を伺ったりしない。
どこか真剣な表情に俺も言葉をかけることができなかった。そして夕食を終え、自室に足を運ぶ。
食後の片付けは手伝おうとしたのだが、「......私がやります。お部屋に戻って下さい」と断られてしまった。......妹の様子がおかしい。
俺、なんか嫌なことしちゃったかな?特段なにかした覚えもないが......ううむ。後でそれとなく聞いてみよう......もし苛つかせてしまってるなら、時間をおいたほうが良いだろうから、後でだな。
(あ......でも、VTuberモデル完成してるんだよな。妹、早く欲しいよな......うーむ。どうするかな)
夕食の時に伝えようと思ってたけど、そんな雰囲気じゃなかったし。困ったな。......とりあえずシャワーでも浴びるか。
部屋で着替えを手に取り一階へと降りる。風呂場へと行く途中にキッチンが見えるのだが、そこにはもう妹の姿は無かった。
(......部屋に戻ったか?)
――ガチャリと風呂場の扉を開いた。
(あれ、明かりが......)
「......は、へ......あっ、はわっ!?」
そこには、下着を外しかけている妹がいた。
「......え?」
滑らかな曲線。服の上からは分からなかったが、目を奪う豊満な胸、魅惑的な肉付きの良い太もも。かと言って決して太っているというわけではなく、その身体はまさに滑らかな曲線を描いていた。
リアルで年の近い女性の裸は始めてみたが、これほど美しく均整の取れた身体は無いんじゃないか?というほどに美しい。
描きたい......そう思わされるほどの魅力が彼女の肉体にはあった。
そんな事を考えていると、妹は近場にあったバスタオルで体を隠す。胸元でぎゅっと、身構えるように。
「あ」
我にかえる俺。妹の顔に焦点を合わせると彼女は上目遣いで、うらめしそうにこちらを見ていた。
「......あの、あんまり......みられると、その......は、恥ずかしいのですが......」
「ご、ごめん!!」
一目散に外へ出て扉を閉める。そしてせめてもの言い訳を俺は妹に謝罪と共に述べる。
「ちょっと考え事してて!妹が入ってるなんて知らなかったんだ!!すまない!!」
「......だ、大丈夫ですよ......気にしてません」
「罰なら受ける!!なんでもする!!許してくれ!!......って、え?」
「......大丈夫ですから、落ち着いてください......」
「ほ、ほんとに?」
「......私、お兄さんに嘘なんてつきません......」
ホッ、と胸をなでおろす。優しい妹で助かったぜ。つーか、まて......兄としてだめだろ。今度謝罪代わりになにかしてやらんと。
「あの、お兄さん」
「え?」
「......お風呂入りたかったんですよね?さ、先に入りますか......?」
「だ、大丈夫!......あ、ああ、ごめん!ここに居たら入りにくいよな!今消えるから――」
――ゴッ、と家が震える衝撃。
「きゃあああーーっ!?」
地鳴りがした。巨大な獣がゴロゴロと唸るような音。雷が近くに落ちたようで、視界が闇に覆われた。
「うおお、ビビった......妹、だいじょ」大丈夫か?と言いかけた時、風呂場が勢いよく開いた。ゴン!と俺の後頭部に木製の扉があたる。
「いったぁ!?って、おわっ!?」それと同時に飛び出してきた妹が俺に抱きついてきた。
「い、いいい、妹!?」
「かっ、か、雷、怖いぃ......!!」
不謹慎ながらも、感触的に下着も何も無い状態だと判断される妹。ぶるぶると体を震わせ、ひっく......と半泣きで俺の体を強く抱く。
「大丈夫、大丈夫だぞ......そばに居るから」
「うう、う......お兄さん、すみません、ごめんなさい.....」
――カッ、と外がまた激しく光った。稲光。数秒遅れまた激しい雷の音が鳴る。
「ひぃいいっ!!?」
とんでもなくビビり散らかす妹。ぶるぶると尋常じゃ無く震えている。
(ホントに怖いんだな、雷が......)
俺は彼女の体を抱きしめる。
ぴくん、と反応し強張る妹。俺の服を握りしめる指先がかたかたと震えている。
「大丈夫、大丈夫だから......」
俺の心臓もバクバクと鳴る。彼女の頭を撫でながら、まだお風呂入ってないはずなのに、なんてふと思ったり。温かな体温が移るのを感じて、変な話......少し心地よかった。
人の温もりなんて、普段の生活で感じることは無いから。
「よしよし、大丈夫。大丈夫だぞ」
さらさらとしているきめ細かい黒髪。撫でながら、囁くように大丈夫だと俺は呟く。
「うう......う、う」
「大丈夫だぞ。よしよし」
俺は持ってきていたバスタオルを背に掛けてやる。いつ雷がおさまるかわからない。裸のままじゃ風邪をひいてしまうからな。......つーか、これ以上素肌に触れていたら俺が失神しちゃいそうだし。
「......ありがとう、ございます......」
「うん。......もう少ししたら電気つけにいこう」
暗闇の中でしがみつく妹が、俺はとても愛おしく感じた。
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