第13話 影響力
ゴオーっと風呂場の方からドライヤーの音が聞こえる。おそらくは、というかまあ間違いなく妹が髪を乾かしているのだろう。
あの髪の長さだ。乾かすのに時間がかかるだろう。
そんな音が聞こえる中、俺はせっせと準備をしていた。それは妹とのゲームの準備。やるゲームは勿論、夕食の時に決めたモンファン。
正確にはモンスターファンタジー4。ちなみに妹もPCでやってるらしく、互いの部屋で通話してプレイする事になった。
俺は部屋の冷蔵庫から一本、ペットボトルの珈琲を出して開ける。基本ソロプレイの俺は通話をしながらゲームをするのは始めての事でちょっと緊張している。
(そのせいかやけに喉が乾くな......)
「お、お兄さん......」
「のわっ!?おお、妹か.....!って、あれ?もう髪乾かせたのか?」
半開きにしていた部屋のドアの隙間から妹が顔を覗かせていた。前髪の隙間から覗く目が愛らしい。
「は、はい。超特急で乾かしました......!」
「そっか......そんな急がなくても大丈夫だよ」
「い、いえ、せっかく遊んでいただけるのに......時間、無駄に使わせてしまうのは申し訳ないです」
「いやいや、無駄なんかじゃないよ。でもまあ、睡眠時間を削るのは不味いから、早速やるか!」
「......はいっ!」
妹が自室へと帰っていった。たとたと、とリズミカルな足音。
(さて、ヘッドホンつけて......)
通話アプリの妹のアイコンをタップ。すると呼び出し音が鳴り出す。2、3度のコール音のあとに妹のアイコンが明るく点灯した。
『お兄さん!』
「おお、聞こえるか?」
『聞こえます!こんばんは!』
む?雰囲気が......明るい?
「こんばんは......って、今さっき会っただろ」
『こっちではまだですよっ』
「あ、そうか」
通話だと変わるな、この子。顔を合わせてないと緊張しないからか?綺麗な声だとは思っていたけど、緊張が解けてリラックスしている時の声は更に魅力的で美しい。
『お兄さん、集会所に来てください!私、作ったので』
「お、マジで?ありがとう」
『いえいえ!へへ......褒められた、よし。ふふ』
は?え、まって。可愛いいんだが?なんだこの子。
実は一緒に遊ぼうと誘ったのには親睦を深める事以外にも理由がある。それはVTuberとしてどういうジャンルで戦えば成功するのか。それを見極めるためというのもあった。
(力が抜けて素の声が出ている......これは)
俺は自分の中に期待が膨らむのを感じた。
「よし、集会所きたぞ」
集会所とはオンラインプレイをするためにプレイヤーが集うエリアで、この場所でチームを組みモンスターを狩りに行く。
『ありがとうございます!』
「よし、それじゃあ【狩人手帳】を交換しようか」
『はい、了解ですっ』
え、ほんとに姫架?同一人物?
ゲーム内のメニュー画面にある【狩人手帳】を押し、送信を選択。送ることに成功したあとすぐに妹の【狩人手帳】が送られてきた。
【狩人手帳】はいわばプレイヤーのプロフィール。ゲームのプレイ記録を見ることができたり、自己紹介を書いたりすることもできる。
(妹はどんな事を書いてるんだろう)
開いてみる。すると驚くべき事が書かれていた。自己紹介の欄に「引き籠もりになりたい系狩人」
「妹、引き籠もりになりたいのか......」
『え?』
あ、思ったことつい口に出ちゃった。
『あ!あーっ!?違います!あわわわ......ちょっとまって、変える』
「なんで?良いじゃん引き籠もり系狩人。ふふ」
ちょっと面白いな。狩人引き籠もってたら生活できないだろ。
『いや笑ってるじゃないですか!良くないじゃん!』
「いやいや、違う違う。くく」
『何が違うと!?』
ツッコミのキレが良い。そうか、この感じ......キララに似てるんだ。
「まあまあ、落ち着いて」
『......というか、お兄さんの自己紹介の方がおかしいですけどね。なんですか「孤高のボッチ」って。それただのボッチじゃないですか。無駄にカッコつけないでください』
「おおわぁ!?」
やべえ、俺もよくわからん自己紹介文のままだった!!
『ふふっ、驚き方』
くすくす、と妹の笑い声が聞こえてくる。あ、ああ.....ああああ!!かわえええ!!!
「ん、んん、えーと。今のはドローで」
『ドロー!?なんの戦い!?』
「ふふっ、とりあえず何か狩りに行こうか」
『はい!お兄さんは何が狩りたいとかありますか?』
「んー、そうだな。久しぶりだから難易度軽めのモンスターに行きたいな。リトルドラゴンとかどうかね?」
リトルドラゴン。モンファンの中でも比較的小さなドラゴンモンスター。攻撃パターンが読みやすく、よく初心者の練習に使われる。
『わかりました!ではでは、依頼を受注しますね』
「ありがとう。お願いします」
ほんとにキララに似ている。けど、姫架の声質がキララよりも暗い雰囲気。
しかし、それは決して悪いことではない。暗く、落ち着いた雰囲気は、ゆったりとした居心地のいい空気を作る。
(......話し方の癖やタイミング、呼吸は同じ......なのに違う)
キララのトークは元気いっぱいで明るく楽しい雰囲気なのに対し、似せようとはしているが姫架は落ち着く安心感のある雰囲気だ。
心地良い声はASMRで耳掻きをさせたらかなりの人気になるんじゃなかろうか。
『お兄さん?受注しましたよ?』
「あ、すまん。......受注、よし。行こうか」
『はい!』
――二人のクエストがスタートした。
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