第14話 狩り
――ドコオッ!!
『いやあああーーーっ!?』
リトルドラゴンの吹き出した小さな火球。パタパタと小さな羽を二回羽ばたかせる予備動作の後、その攻撃は放たれる。
そしてモロにその火球を顔面で受けてしまった妹の叫びがまさに今俺のイヤホンを通り脳を揺らしているところだった。
「あ、あれ?妹経験者では?」
『経験者ですが!』
「なら何故避けられないんだ......」
『経験者が上手いとは限らない!限らな、かぎ......助けてえええ!!』
助けを求めつつ、半分キレ気味でテンパっている妹。姫架の武器は大剣で、その名の通り自身の体が程の大きさがある剣を扱う。
大きい武器なので攻撃力はあるのだが、その分攻撃時の振りが遅くモンスターに当てるのが少々難しい。
(敵の動き......攻撃パターンを読めれば割りと当てられると思うけど)
『うおおお、お、お?わああああ!!』
斬りかかろうと追いかけていく妹。しかし、急にリトルドラゴンが振り返り妹に対して突進を開始した。さっきとは正反対、立場逆になる。追いかけられ奇声に近い叫びを上げる。
(甲高くてリスナーの鼓膜を破壊しそう。けれど不快な音じゃない......これは姫架の声質によるものだ)
そんなこんなVTuberとしての武器を見定めている間に妹とリトルドラゴンは小さな岩山の周りをくるくるまわり、追いかけっ子のような状態になっていた。
『なんで助けてくれないんですかああああ!!?その弓矢で戦ってくださいよおおお!!!』
「いや、面白いなと思って。ふっ」
『鬼かッ!!?』
ちなみに俺はその岩山の上であぐらをかいている。いーいツッコミじゃないの、妹。ていうかこういういじられキャラ的なVTuber路線でいったほうが良いかもな。愛されやすいし、なにより実際みていて思う......めちゃくちゃ面白い。これはウケる気がする。
ただ、いじられキャラのVTuberはそういうメリットもあるが危険なデメリットもある。そのうちのひとつがリスナーとの距離が近くなりすぎるということ。
歯止めが効かないリスナーはいじりの止め時を知らない。それ故にタレントが病んでしまう危険性がある。
『お兄さん!!タゲはずれない!!ぐぬぬぬ、登って行って擦り付けてやる!!!』
(......なんか通話だと言いたいこと言えるみたいだし、大丈夫そうな気もする)
「って、マジで登ってきた!?」
『はっはっは』
「逃げよっ」
そう思いあぐらから立ち上がろうとした時。俺に接近してきた妹は武器を振りかぶっていた。
「え!?」
『逃がしません!』
ゴス!!っと俺の頭に大剣を直撃させ仰け反りモーションを発生させる。俺のキャラクターが動けない隙にスイッチするようにリトルドラゴンを置いていった。
「擦り付けただと!!?」
『お返しです!ちゃんとお兄さんも働いて下さい!!』
「くそ!働きたくねえ!一生引きこもっていたい!!」
『引き籠もり系狩人!?』
――ガキィン!!!
リトルドラゴンの噛みつきを転がり回避する。鋭い牙と爪。リトルと冠しているが、ドラゴンはドラゴン。モーションこそ初心者向きだが攻撃力は高い。まあ、だからこそ練習台にされてるんだろうが。
ガキィン!ガキィン!!ガキィンンン!!!
3連続の噛みつき攻撃を俺は躱し切る。尻尾を二回振っていたのがその攻撃が来る時の合図。だから俺は3連続噛みつきがくるのを予測できた。だいたいのモンスターはこういう攻撃前の予兆がある。
『おおおお!?凄い!!カッコいい!!』
「いや攻撃して!?」
『さっきのお返しです。へへ』
「くそ、何も言えねえ!」
傍観決め込む妹。完全に応援係みたいになってる。またリトルドラゴンを擦り付けに行ってもいいけど、嫌われそうだから止めとこ。
「さっさと片付けるか。よっ!」
リトルドラゴンの尻尾薙ぎ払い攻撃がくる。俺はそれを紙一重で避け、バックステップを更に行う。すると距離をつめようとモンスターが突進を開始した。――そこに矢を撃ち込む。
ガンッッ!!
鈍い音と共にリトルドラゴンの大きく揺れた。俺の矢がクリティカルヒットし、奴はスタン状態になる。頭から星が出てくるくると頭を揺らし動けなくなるリトルドラゴンが少し可愛い。
『えええええ!?なんぞそれ!?すごい!!』
「こうして相手の攻撃を利用してやるとダメージが倍増する。更にヒットした部位によっては追加効果が発生する......こうしたスタン状態、気絶したりとかね」
『そうなんですか......知らなかったです。お兄さん凄い。伊達に「孤高のボッチ」してないですね』
「何をどう理解されたのかわからないけど、馬鹿にしてやがる事はわかった」
『エスパーか!』
いや、やっぱり馬鹿にしてやがったのかよ!......まあそれはいい。
「ほら、妹。リトルドラゴン仕留めるぞ」
俺は3連射をリトルドラゴンの顔面にヒットさせダウンをとる。すると妹が近寄ってきて大剣を振り上げた。
『働きます、よっと!』
――ドコオッ!!
こうしてリトルドラゴン討伐は終了した。
......ゲームが終わったら、VTuber誘ってみるか。
俺は密かに用意していた、妹用のVTuberイラストを開きながめた。
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