第8話 優しい奴
「あの、あんた......誰なんすか?高校生に見えるけど、なにか用すか?」
短髪の男の子がジッとこちらを見る。その姿は警戒しているのか、身構えているようにも見えた。他の二人も同様、彼の後方に一歩ひいた状態でこちらを見ている。
一人は茶髪の短いポニーテール。(え、中学生って髪染めて良いの?)、もう一人は黒髪で前髪が切り揃えられている。髪は肩までかかる長さで、何となく雰囲気がお嬢様っぽい。
「あ、えっと、俺は有馬敬護、です。この子......姫架の家族なんだけど」
ぴくりとポニーテール少女が反応し、ぼそりと何かを呟いた。しかし、小さな声で何を言ったのかはわからない。......突然現れた俺に苛ついてるのか、ぶつぶつ呟きこちらを見ている。
お嬢様が一つ前に踏み出てこう言った。
「そうですか。それで、私達に何かようですか?今、姫架ちゃんと遊んでて忙しいんですけど」
うーん、遊んでいると言われてしまえばどうにも出来ないぞ。けれど姫架はそうでは無いはずだ。何故なら俺に対して凄まじい眼力で助けを求めているのがわかるからだ。
「そうなんだ......でも、ちょっと用事があってさ。二人で買い出しいかないといけないんだよ。遊びはまた今度にしてくれないかな」
「はあ?ちょっとちょっと、あんたコイツのなんなんすか?」
男の子は手を振り声を荒げた。怖い、怖いよ......殴られそうな勢いだよこれ。
俺が内心ビビり散らかしていると、ポニーテールの女の子が「やめなよ」と彼を制止した。
「あ?なんでだよ舞花!」
どうやら茶髪ポニテの子は舞花という名前らしい。
「気が付きなよ、蓮!あんたは負けたんだ!」
そして男の子は蓮というらしい。って、え......負けた?急にどうした?あの子は何に負けたんだ?話が見えないぞ。
「俺が......負けた、だと。嘘だ」
「成る程そういう事ね」
お嬢様がそう言い頷く。いや、どういう事なの......俺、置いてけぼりなんだが。困惑していると、おずおずと妹が俺の側に寄ってきた。
「いや、どういう事なんだよ愛依」
お嬢様は愛依というのか。いや蓮くんマジそれな。
「あれを見てわからないかしら」
「......」
蓮くんが俺の方をを再び睨みつけるように見た。そして困惑していた表情が歪む。なぜそんな顔をする?蓮。
ぽんと蓮の肩に手をかけた舞花は得意げに説明を始めた。
「もう気がついたわね。二人は夫婦なのよ......佐々木の名前が有馬に変わったのは、結婚したから」
「残念ね、あなたのつけ入る隙はもう微塵も無いわ」
「くっそおおおお!!俺の今までの努力は......何だったんだよおおお!!」
何を言ってるんだコイツラは。ふ、ふうふって夫婦の事?俺と妹が?
ぽかんとしている俺は更に置いていかれ、話が進む。
舞花が人差し指を立てフンと鼻を鳴らす。
「バカね。アンタがハッキリと言わないのが悪いんじゃない。あーあ、つきあって損したぁ。敬護さんみたいなイケメンと蓮じゃ勝負にならないじゃんか」
愛依は腕を組み頷く。
「こうやって子供っぽくからかって気を引こうとしたのが間違い。悔い改めることね、蓮」
「ぐぬぬぬ......」
わなわなと全身を震わせる蓮。これあれか、もしかして蓮は妹......姫架の事が好きでちょっかいかけていた感じか。
「!」
いつの間にか握られていた制服の裾。その指先が細かく震えているのに気がつく。
やっぱり怖かったんだ。いくらこの子らに悪意がなかったとは言え、やられた妹が嫌ならそれはもうイジメでしかない。
俺は妹に耳打ちする。
(......ここは俺に任せてもらえるか?)
すると妹はこくこくと頷く。
「あの、蓮くん」
「え、あ......ハイ。あ、自分、蓮で大丈夫ッス」
「あ、そう。じゃあ蓮」
と、彼に話をしようとすると。
「はい!あたしは舞花です!舞花って呼び捨てしてください!敬護さん!」
謎に目を輝かせる舞花。頬を赤らめパタパタと両腕を上下させている。......鳥か?
「え、あ、うん......わかったよ」
「はい」
しゅっと真っ直ぐに手を挙げる愛依。
「私は愛依よ。私のことは愛衣様と呼んでくれても構わないわ」
「で、蓮はさ」
「!?」
スルーした俺を二度見する愛依。え、これボケだよね?この対応で正解だよね?まあいいや。
「な、なんすか」
「さっきの話は本当なの?」
「......え?」
「姫架の事が好きだからちょっかいをかけていたのは、本当なの?」
「えっとまあ、はい......」
「蓮、ひとつ良いことを教えてあげるよ」
「は、はい」
「あんな事をしていたら姫架から嫌われる」
「!?」
目を丸くする蓮。
「良いか蓮。想像してごらん......もしも君が同じことをされたら。姫架のように鞄を押し付けられて歩かされたら。君はどう感じる?」
「はい!」
手を挙げる蓮。
「はい、蓮」
「めちゃくちゃムカつきます」
「だよね。それで好かれると思うか?」
「思いません!」
「だろ?」
「で、でも」
「ん?」
「こうでもしないと......こいつ全然喋らねえし」
悔しそうな表情の蓮。俺はいつの間にか隣に来ていた舞花に聞く。
「そうなの?」
「うん、姫架ちゃんはねえ、クラスじゃ全然喋らないんだよ。それで先生に叱られた事もあるし」
「叱るのか?喋らないだけで」
「だーって、姫架ちゃん先生が質問しても目を逸らして答えないし、最近は聞こえないふりして無視するんだもん」
愛依がジッと妹をみてぼやいた。
「こう言っては何だけど、叱られて当然かなって」
俺は背後に隠れている妹に顔を向けた。すると、ふいっと顔を逸らされる。依然、彼女の指先が震えているのが伝わってくる。怖いのか。
「わかった。それはごめん。俺からも謝るよ」
「え、いや、敬護さんが謝る事じゃないっすよ」
「でも、蓮は姫架と仲良くしたいと思ってるんだよな?」
「......ま、まあ」
「敬護さんにとられちゃったけどね〜」
にやにやと舞花が言うと、「うるせえ!」と蓮が吠えた。なんだろう、なんかこの二人お似合いじゃない?
「蓮。いくら喋らないからってああいう事は止めたほうがいい。嫌われるだけで好きになんて絶対になってもらえない」
「じゃ、じゃあどうしたら良かったんすか」
「それは簡単だ。優しくすれば良い」
「や、優しく......そんなの恥ずかしいじゃん!」
俺は女子三人に聞く。
「優しい男が好きな人〜」
「「はい!」」「......」
舞花、愛依が肯定の返事と共に手を挙げ、妹は無言だったが手は挙げていた。
「なっ、そ、そうだったのか.......!」
驚愕する蓮。なんかこの子可愛くね?
「ほら、優しい男の方が好かれるんだよ。わかったか、蓮」
「くっ......」
ガクリと両手を地面につきひざまずく蓮。土下座みたいな格好。彼はそのまま消え入りそうな声でこう言った。
「......姫架さん、ごめんなさい......これからは優しくします。許して下さい」
妹はその言葉を聞き、こくこくと頷いた。
それを見た蓮はホッとしたような顔でこう言った。「......ありがとう、有馬師匠......」
「.......!?」
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