第6話 急展開
それから嬉しそうに娘の事を話し続ける麻衣さん。俺と妹が仲良くやれそうだとホッとしたそうだ。ただ、麻衣さんが語るたびに妹の表情に微かな陰りがみえたような、そんな気がした。
そしてつつがなく顔合わせも兼ねた食事会が終わり、部屋へと戻る。その時、妹が何か言いたそうにしていたので話を聞こうとしたが、彼女はそれに驚き慌てて部屋へと入ってしまった。
(......なかなか難しいな)
まあ、何かあれば向こうから話しかけてくるか。これから一緒に暮らしていくんだ。時間はいくらでもあるし慌てる事は無い。
バタンと自室の扉を閉め、俺はゲーミングチェアに深く座った。そして手首を回し、ペンを握る。
(......さて、やるか)
――2:31
テーブルに置かれた空のマグカップ。それを片手で持ち上げ、コキリと首を鳴らしながら珈琲の粉末をスプーンで入れポッドのお湯を注ぐ。
ふわりと香る豆の匂い。
一口、口に含みぼーっとする。明日学校なのに......また夜ふかししてしまった。
何気なく携帯の電源をつけ待受画面のキララを眺める。俺は無意識に妹の部屋の方を向き、ふと今日一日の事を思い出す。
楽しそうにキララの事を話す妹。暗く俯いて食事をする妹。俺はまだ彼女の事を知らない。けれど、何かを抱えていることはわかる。
長い前髪のせいで表情はあまり読めないけど、彼女と会話をして少しはわかるようになった。
また明日、少しづつ近づいていければいいな。それで悩みがあるなら解決とまではいかないかもしれないけど、力になってあげたい。
俺の妹だから。兄として、しっかり護らなければ。
◇◆◇◆
「――あ」
「――ひゃうっ」
朝起きて部屋を出ると妹と出くわした。びくりと体を震わせ身構える姫架さん。小さな声で呟くように彼女は挨拶をする。
「......お、おは、おはようございます......」
「うん、おはよう。......昨日は、ちゃんと眠れた?」
といいつつ眠気全開の俺。やはり家族となったとはいえ異性がひとつ隣の部屋で寝ているというのは謎の緊張があって眠れない。
もしや妹もそうなのでは?と思い聞いてみた。
「......はい、ありがとうございます、大丈夫です......」
大丈夫だそうだ。意識してたのは俺だけのようです。恥ずかしいわ。でもさ、急に女の子がきてこの子今日から兄妹だから~って住むことになってここまで落ち着いて接せられる俺も凄くないか?
「あのさ、美柳中学だよね?よければ途中まで一緒にいかないか?」
これから長いこと一緒に暮らす相手だ。彼女の事を色々知っておきたい。仲良くしていくには先ず相手を知らなければ。
「――い、いいですっ......!」
「え?」
「わ、私は一人で行くので、大丈夫です」
始めて、突然拒絶された。あまりのハッキリとした拒絶に驚き思考が停止する。その時、固まっている俺に気がついた妹が「ち、ちが、すみません、違うんです」と慌てる。
「......あの、あの、ごめんなさいっ、学校行きます......!」
とたとたと階段を駆け足で降りていく妹。
(......いや、そりゃそーか)
一緒に登校なんて嫌に決まっている。おそらくクラスメイトに恋人関係に思われるのを危惧したんだろう。いや、それか......もう既に彼氏がいて一緒に登校する予定だったとか?
中学3年生だもんな。彼氏がいたとしてもおかしくはないな。
(なんだ、この妙なもやもやとした感じは......?)
ま、俺も学校行くか。そう思い階段を降る。するとふと異変に気がついた。......なんだか妙だな。人の気配がしないような。
リビングや風呂場、トイレを確認するも誰も居ない。おかしいな、と頭を掻きながら洗面所へ。歯を磨きつつ、ぼーっと携帯を眺めていると父さんからメールが入っていることに気がついた。
(あれ、父さん......あんまりメール使いたがらないのに。どうしたんだ?)
『敬護へ。父さんと母さんは今日、新婚旅行へと出かけます。だいたい3ヶ月くらいは戻らないと思うので、兄妹二人で力を合わせ生き抜いてください。生活費は多めに置いていきますが、無駄遣いはしないように』
......は?と、父さん?
握る携帯がわなわなと小刻みに揺れる。じょ、冗談だよな?これ、妹は知ってるのか?
いや、あれだよ?新婚旅行にでも行ってきたらいいよとか昨日の夕食の時に言ったのは俺だけどさ......急すぎないこれ?マイペース過ぎるだろこれは。
ど、どーする?
妹と妙な雰囲気になっちゃったばかりなんだけど?ケンカではないけど、妹に軽く拒否られて傷心しているこの状態で......二人暮らしするのか?
ムリムリムリ!!
寝不足気味な上に超弩級の家族問題が発生してくらくらと頭がショートしそうになっている。
(と、とりあえず電話......父さんに連絡を)
――それから十分後。俺は通学路を肩を落としながら歩いていた。
......はあ。父さんの携帯、何度かけても一回も通じなかった。
ありえねえ......なんだって唐突に新婚旅行に行っちゃうんだよ。もう少し妹が家での暮らしになれてからゆっくり行けば良いのに。麻衣さんは娘の事が心配じゃないのか?つーか麻衣さん父さん止めてくれよ。
......いや、考えても仕方ないか。なるようになる、だ。
出来るだけ、また地雷を踏まないように考えて行動しよう。頑張れ俺。って、あ。
その時俺は一つの事に重大な事実に気がついた。
「妹、家の鍵持ってないじゃん......」
ど、どーしよう。
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