第4話 弱虫
――姫架さんは身構えつつ、ジッとこちらを見てくる。
(......目が前髪に隠れて見えないけど、強い視線を感じる)
「妹、とりあえず荷物おろせば?」
「......あ、は、はい......」
ボストンバッグ2つと旅行鞄2つを部屋に置く妹。
「おいで」と俺が部屋に手で招くと「は、はい」と、てってって、とこちらに駆け寄ってきた。
「はわあ、凄いです......!」
彼女は部屋に入ると感嘆とした声を上げた。
俺の部屋はキララのグッズが置いてある以外は至って普通。一般の高校生の部屋となんら遜色は無いと思う。
PCと母の部屋から移動させた液タブ。その机の空いているスペースには貰い物のキララフィギュアやコースター、グラスにペンが入っている。
壁には先程、妹が気にしていた非売品ポスターが3枚貼ってあり、どれも貰い物。......貰い物しかねーなこの部屋。なんならPCすらこの間まで貰い物だったし。
ちなみに普段ではなくベッド派でシングルベッドが窓際に置いてある。
「お、おた、お宝の、山っ!!」
バタバタと手を振り回す妹。めちゃくちゃ興奮してるな、おい。
「とりあえず、VTuberをやるかどうかは置いといて......妹はどういうキャラクターが好きなんだ?」
中央に置いてあるテーブル。そこにあったキララのメモ帳を1枚とり、俺はメモをとりはじめる。
えーと、好きなキャラクター傾向は、っと。あとはどんなイメージでやりたいか......は、まだ早いな。
「や、やっぱり、キララちゃんみたいな感じですか、ね。可愛らしいケモミミが好きなんです」
「ふんふん、ケモミミが好き......成る程」
書きつつ俺は座布団に座るようジェスチャーで促す。おずおずと彼女はきょどりながらもちゃんと座ってくれた。
「それで、それで!キララちゃんの白い毛並みも好きで!あとモフモフの尻尾とか、それと」
「白い毛並み、モフモフの尻尾......と」
一生懸命喋る妹。好きなことならこんなにも楽しげに会話ができるのか。楽しそうな彼女を見ているとこちらも楽しくなってくるな。
「よし、わかった(どれだけキララが好きなのかは)とりあえずキララトークはまた別の機会にするとして......」
はっ、とする妹。
「!!、あ、あ、すみません......私、調子にのってべらべらと......私の話になんて興味ないですよね、すみませんすみません......ほんとに、申し訳ない」
まるでしゅんと風船が急激に萎んでいくよう。急激に元気が無くなる妹。
あ、やべえ!これ、話の切り方間違えたくさい!!
「あ、まって!わかったスマン!よ、よーし、それじゃあ妹ちょっとまって」
「?」
俺は腰をあげ、机の正反対にあるクローゼット兼押し入れを開く。俺はあまり服の種類を持っていない。それ故、デッドスペースとなる場所に送られてくる物を詰め込む習性を持つ。......まあ、物を詰め込むから服を買わない線も微レ存。
(......えーと、これがいいかな)
一つの細長い筒状の物を手に取る。妹、こればっかりに視線がいってたし、俺の部屋にあるグッズの中でも特にこれが欲しいんだろう。と、いうわけで、はい。
「これあげるよ。引っ越し祝い?みたいな?」
「......え、?」
手渡された筒をぽかんと見つめる妹。やがてその可能性に行き当たったようでシュルリとそれを開き見た。
「......ッッ!!?」
そう、これは彼女が見入っていたキララの非売品ポスター。おおっと、出どころを聞くなよ?クククッ。とまあ、ご覧の通りモノで釣ろうとそういう感じです。
ぷるぷると肩を震わせ、まさに声にならない声といった感じで一言も発さない妹。これは効果有りだろ?
「くっ、う......ひっく」
「は!?」
ぽろぽろと頬を伝う雫。おまえ嘘だろ!?初対面からここまででもう二回も泣かせてんじゃん!!
「ご、ごめん!?どうした!?気に入らなかったか!?」
慌てふためく俺。その言葉に彼女は首を横へ振ることで答える。
「ち、違うんです......こんなに、優しくしてもらったことなくて......嬉しくて、ごめんなさい」
「あ、ああ......そうか」
「......め、めんどくさいやつで、ごめんなさい......うぐぅ、がんばります......止まれ、止まれっ」
ごしごしと涙を止めようと袖で必死に拭う妹。なんか病んでる彼女的な台詞に思える発言だな......いや彼女がいた事ないから知らんけども。
「大丈夫だよ、妹。めんどくさくなんてない」
ほんとに優しくされた事がないのか?......これが演技だとも思えない。だから自分に自信がない?
昔の自分にそっくりだな。内向的で大人しく、人が怖い。今も本質的には変わってないが......けど、母さんが亡くなり無力感を感じ、自分の弱さを受け止め俺は強くなった。
妹ひとり護れるくらいには。
触れるやわらかく艶のある髪。俺は彼女の頭を撫でながら、「大丈夫だよ」と優しく、想いが伝わるように声をかけた。
「誰も優しくしてくれないなら、俺が優しくするから。だから安心して......」
顔をあげる妹は、口をぽかんと開けこちらをじーっと見ている。ちょっと間の抜けた顔だが、元が可愛いからマスコットみたいな可愛らしさがあるな。
......って、あああ!?
バッ、と手を引く。
「ご、ごめん!!つい、手が......」
ふるふると首を振る妹。
「......ん、嫌じゃ、ないです......だ、大丈夫」
き、キモがられてない?そう心配する俺の思いをよそに、気がつけば彼女の涙は消え、微笑む妹がいた。
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