第1話 とある夏の日
――時は遡り、12/24より約4ヶ月前。
8/27、日曜日。
「.....暑いな」
茹だるような暑さの中、家を出た俺、
ソールの減ったスニーカー。そろそろ買い替えどきかと、思いながら灼熱のアスファルトを踏みしめる。
(......マジで、あちぃ......)
本当は一歩たりとも休日は家から出たくない派の俺だが、今日は出ざる得ない事情があった。
父が再婚し今日その母となる人が家にくるらしい。父さんは家の掃除をしていて手が離せないので、俺は来客用にお菓子や飲み物などの買い出しを命じられたというわけだ。
そんな予定があるのなら前もって掃除をしとくべきだろうと文句の一つも言ってやりたかったが、父さんはこういうマイペースな性格だから仕方がないし、直る気もしない。つまりは言うだけ無駄だ。
でもまあ血の繋がった家族だし、ここまで育ててくれた大切な親だ。買い物のひとつくらい頼まれよう。
(けど新しい母親かぁ。どんな人なんだろ......まあ、父さんが選んだ人だ。問題はないだろうけど......母さん、か)
『――敬護、ごめんね......』
脳裏に蘇るのは消毒液の匂いと、白いベッドに横たわる母の姿。......そして、その最期の言葉だった。
あれは俺がまだ中学生の頃。病院を訪れる度に痩せ細っていく母さんは入院して一ヶ月くらいで亡くなった。
病魔の手は早く、もっと早く入院して治療を行えば助かる可能性もあったらしいけど、それは難しかった。
なにせあの頃の家には金が無かったから。
だから父さんは勿論、母さんも必死に働いていて多忙な日々が続いたあまり、母さんの異変に気がつくのが遅くなってしまった。
二人は俺に苦労をかけまいとその素振りを見せず、バイトしろとも言わなかった。それどころか絵を描くのが好きなことを知っていた二人は俺に美術部の部活動をさせてくれたり、絵を描くのにPCを買い与えてくれたりした。
俺は二人には凄く感謝してる。だから、二人が俺にしてくれたように新しくできる家族を、今度は俺が精一杯護ってみせる。
あの頃は力ない子供だったけど、今の俺には......って、ん?
コンビニに行く途中、公園に制服を着た女子中学生をみつけた。ここらへんは通学路になっているから珍しくもないが、今日は日曜日、更に言えば変わった風貌をしていたためつい見入ってしまう。
(なんだあれは......どんな状況だってばよ)
彼女の目元は髪で隠れ、後ろ髪が腰まであった。そして、それだけでも目を引くのだが、両方にボストンバッグを交差させぶら下げ、更には両手に旅行鞄のとってを握りしめていた。
まるで幽霊のような雰囲気を纏っているからか、通りがかる人達は彼女をスルーし見ないふりをしていた。あそこまで不気味だと冷たいとかそういう話ではなく、近寄り難いと思われていても仕方がないレベルではある。
ぼーっと突っ立っている中学生。考え事をしているのか、ぶつぶつ独り言を呟いている。
「......なんで、私は......」「......もう帰りたい......」「......ダメ人間すぎる......」「......消えたい、この世界から......」
微かに聞こえてくる独り言。そのワードに少し心配になってきた。というか、帰りたいってことは迷子的なやつか?
『――敬護、あなたの名前はね、「人を敬い護れる人になりますように」ってつけたのよ』
母さんの言葉がまたよみがえる。人を敬い、護れる人に......あの感じだと誰も助けてくれはしないな。
(ちょっと話しかけるの怖いけど、多分、道案内して終わりだろ)
俺は意を決して彼女に話しかけた。
「あの」
その瞬間、ビクン!と彼女は体を震わせた。まるで電気ショックでも浴びたのかってくらいの震え方でびっくりして俺もたじろいでしまった。
「あの、急に話しかけてごめんなさい。なにかお困りですか?」
ギギギ、と錆びついた仕掛け人形のように首だけがこちらを向く。髪の隙間から覗く目はホラー映画のようだった。が、その時にひとつ気がついた。
この子、よく見たら......凄く可愛らしい顔してる。
前髪に隠された奥の整った顔立ち......スッ、とした切れ長の目。きれいに手入れされた眉、見える唇もふっくらしていて魅力的だ。
(......前髪切るだけですげー化けるぞこの子。勿体ないな)
「......あ、え、だ、大丈夫れす......」
あ、やっと返事してくれた。ってか、噛んだな。
しかし「大丈夫です」か......そう言われてしまうと引き下がるしか無いけど、どうみても困ってるように見える。
確かに見知らぬ人についていかないっていうのは良いことだ。けれどこの暑さの中これ以上ここで突っ立っているのはヤバい気がするしな。
もう一度だけ聞いてみるか。
「そ、そうですか?なんかずっと立っていたから、道に迷っているのかと......俺、ここらへんなら案内とかできますよ」
あ、そうだ。学生証......携帯のカバーに挟んであるはず。よし、あった。これで少しは信用してもらえるか?
じりじりと後退していく中学生に俺は学生証を取り出し見せた。
「あの、俺......こういうものです!有馬敬護と言います!怪しくないです!」
焦るあまり自分で怪しくないですとか言っちゃったんだが。怪しすぎるわ、これ。
しかし、彼女は俺の学生証に食いついた。じーっと見入る彼女は小さな声で「......あ、有馬、さん......」と呟いた。
これは......効果ありか?マジで?
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