成長期編
成長期です!1
言葉を覚えて、空を飛ぶ練習をして、先輩竜たちと交流するような忙しい毎日はあっという間に過ぎていく。
私が生まれ変わって二年。
体はアロイスよりも大きくなって、一人で空を飛べるようになった私は、だいぶこの世界や竜騎士のことも分かってきた。
この世界の竜はとても珍しい生き物らしい。
私の住むアングィス王国の西にある『竜の渓谷』と呼ばれる嶮しい山岳地帯にしか棲息していないようで、王国が厳重に管理しているんだって。
それとアロイスの日課。
朝早くから私のお世話をしてくれて、その後はお昼まで基礎鍛錬。午後からは日替わりで、基礎演習、飛行訓練、竜のお世話、非番のローテーションだ。
だから二日に一回はアロイスとほぼ一日一緒の日がある。
そういう日はめいっぱいアロイスとおしゃべりして、沢山身体を動かすんだ。
しかもアロイスは非番の日にも会いに来てくれるから、私は嬉しい。最近は文字も覚えたから、アロイスが巷で噂の物語本を差し入れたりしてくれる。
いたれりつくせりな竜生活。
適度な運動に、適度なコミュニケーション。一人でのんびりと過ごせる時間。
ここ、理想郷じゃない??
私、駄目人間ならぬ、駄目竜になりそう!
こんな順風満帆で良いのかっていうくらい、平和で楽しい時間を、今日も一日満喫する。
今日はアロイスの非番の日。お昼をちょっと過ぎた時間に、物語本を持ってきてくれたから、二人で訓練場の隅っこで一緒に日向ぼっこをしながら読書をするんだ。
訓練場の中央では竜の訓練をしている地竜騎士たちがいる。
彼らの邪魔にならないように隅っこに陣取った私は、地面の上にのっそりと寝そべる。アロイスが私の胴に背中を預けてくれるのを見て、尻尾でアロイスを囲って翼で日除けを作れば、私たちの読書スタイルの出来上がり。
「はい、ルイズの本」
「ありがとー」
「これ、面白い? シリーズ結構長いけど、全然飽きないね」
「面白いよ! 魔法使いと仕立て屋さんがね、両片思いなのがいいの!」
「ああ……やっぱり恋愛ものか。ルイズはそういうの好きだよね」
「女の子は皆好きだよ」
「そっかぁ」
アロイスに笑われながら、私は差し出された本を爪で傷つけないように受け取る。
私の手には少し小さい物語本。
身体が成長するにつれて、本の文字が小さく読みづらくなっていく私。
だけどそんなの、私にとって障害にはならず。
さて。ここで一つ、魔法をご覧に入れましょう。
『精霊さん、お願いね』
思念波を使って、世界へと語りかける。
するとあら不思議。
いいよ、という肯定の雰囲気が世界から伝わってきて、私の視界がレンズを嵌めたように本の文字が程よい大きさで見えるようになる!
これ、遠視の魔法なんだって。
遠くのものを見る魔法。
私はこれを読書をするために、自力で身につけてしまった。
最初のきっかけは絵本。
アロイスが私と同じローズドラゴンを題材にした絵本を持ってきたことがきっかけだった。
絵本の中で、ローズドラゴンは精霊に語りかけて魔法を使う。
それじゃあ私も使えるのかな? なんて試しに思念波でどこにいるかもわからない精霊さんにお願いしてみたら、できちゃった。
もちろん、できること、できないことがある。
何も無いところからお菓子は出てこないし、ちゃんとイメージができなければ精霊さんにお願いしても伝わらなくて、魔法が不発に終わることもある。
何が、どうなって、こうなるのかっていうのを、精霊さんにお願いしないといけないみたい。
でも慣れれば、この通り。
地面に投げ出された私の前足の上で、本のページがひとりでに捲られていく。爪で本を傷つけずに読めるし、とても便利なんだよね!
る、る、る、と私の声が小さく響く。
思念波は私の声に乗る。アロイスの読書の邪魔にならないように、小さく喉を震わせる。
穏やかな昼下がり。
地竜騎士と地竜が訓練に精を出す賑やかな声も聞こえてくる。
人の声、竜の声。
それらをBGMに静かに本を読む。
まるで、前世のとき、学校のお昼休みを中庭で過ごしていたような穏やかさ。
懐かしさに鼻がツンとしたのを誤魔化すように、私は本に没頭した。
「あ、アロイス」
「ん?」
「これ、なんて読むの?」
「えーと……どこから読めばいい?」
「七行目から」
知らない単語が出てきたら、アロイスに声をかけて読んでもらう。繰り返し、自分でも読んで、声に出して、単語を覚えて、意味を教えてもらう。
「なになに……『茜色に染まる帰路に立つシャーロはうつむいた』」
「アカネイロって何色?」
「夕陽の色だよ」
「夕方?」
「そう」
「キロは? あ、待って、やっぱり考える……。夕方に立つ……どこに立ってるの??」
「ギブアップかい?」
「もうちょっと!」
うんうんうなりながら、前後の文章を読んで想像するけど……うううん、夕方にすること、夕方にすること……?
せっかく仕立てたドレスに難癖をつけられて落ち込んだ主人公のシーン。お客様のところから、ドレスだけ奪われて追い出された主人公は落ち込んでいて、落ち込んでいた主人公がやることといえば。
「おうちに帰る?」
「正解。さすがルイズ」
「やったぁ、あたった!」
アロイスがえらい、えらいと笑顔で頭を撫でてくれる。くるくると喉が鳴ってしまうくらい、嬉しい。
いくつになっても、体が大きくなっても、アロイスのなでなでは嬉しいんです!
なでなでに満足した私はまた読書を続ける。日差しがちょっぴり傾いたから、アロイスが私の翼の影から出ないように位置を調整しておこう。
それから黙々と読書すること小一時間。
また知らない言葉が出てきて、アロイスにヘルプを求めたんだけど、アロイスからの返事はなくて。
「アロイス?」
「……すぅー」
おや?
そろりとアロイスの方を窺って見る。
アロイスの手から本は落ちていて、いつもきらきら輝いているアメジストの瞳の上にまぶたが落ちて隠れてしまっている。
アロイス、寝ちゃってる。
そっかぁ、いつも忙しそうにしてるもんねぇ。疲れてたのかもしれない。
私は目を細めると、本を閉じて、のそっと寝そべる。
アロイスの寝顔をじっくりと見つめながら、私も大きくあくびをした。
私もお昼寝しようかなぁ。
たまにはこういう日もいいかもね。
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