はじめての訓練2

 ベル先生の指示で一生懸命に翼を動かす。

 パタパタ、パタパタ。

 ……全然飛べる気がしない。


『強い風の中でもまっすぐに翼を広げられるように、たくさん練習するんだよ〜』

『べ、る、せんせいっ! 飛べる気しないです!』

『まだ無理だよ。飛べるくらいの翼の大きさになってないもん』


 そんなぁっ!

 それじゃあ今から練習する意味なくない!?


『意味はあるよ〜。翼を鍛えておかなきゃ、嵐の中じゃ飛べないもん』

『嵐の中でも飛ぶの!?』

『嵐で起きた土砂崩れとか、川の氾濫とか。人の力だけじゃ難しい災害が起きると、私達も行ってお手伝いするんだよ〜』


 え? 災害救助??

 私はアロイスを見てみる。


 ……なるほど?


 私、勘違いしていたのかもしれない。騎士って言う言葉から、外的排除の軍隊みたいなのを想像していたけれど、もしかしたら自衛隊みたいに臨機応変に国を守る人たちなのかもしれない。大地震とか大雨で出動していたテレビの中の自衛隊の人たち。あんな感じで、仮想敵国に対しての軍隊じゃなくて、災害にも対応する自衛機構なのかも。


 それなら私もがんばらなきゃ。誰かを攻撃しないといけない軍隊なんて怖いって思ってたけど、人の命を守るお仕事なら、無責任なこと言ってられないよね!


『むむむっ』

『いい感じ、いい感じ』


 ベルにおだてられながら、パタパタと翼を動かし続ける私。

 アロイスやベランジェが見ている中、ひたすらパタパタ、パタパタ。


『もうちょっと背中の付け根、意識して。翼を動かすんじゃなくて、背中を動かすの』

『こう?』


 難しいよ〜。

 必死にパタパタしてるけど、これ、いつまで続ければ。


『ちょっとジャンプしてみよ』

『ジャンプ?』

『そうだよ〜』


 言われるがまま、ぴょんっとジャンプ。

 すとん、と着地。

 ……何も起きない。


『ちがう、ちがう、こう』


 ベルがのっそりと起き上がって飛び上がる。

 ぶわっと風が起きて、一回翼を打てばその分だけ宙に滞空して。


『こうやって、宙に留まれるようになったら、飛べるようになる合図だから、がんばって』


 今の動作は一種の目安だったらしい。

 そこまでいけるようになるのは時間がかかりそうだなと、ベルを見上げた。

 私の翼は飛べるくらい大きくなってないってベルは言うけれど、ベルぐらい大きくなれば飛べるのかな?

 ベルはアロイスよりも頭四つ分くらいは大きい。

 対する私は、アロイスの腰下くらいのサイズ。

 ……ベルぐらい大きくなるのに、何年かかるんだろう。


 ちょっと遠い目になっていれば、離れた場所にいたアロイスが私の側にやってきた。


「疲れた? 休憩するかい?」

『休んでいい?』

『いいよ〜』


 ベルからお許しも出たので、翼を降ろす。

 あ〜、これは肩こりになりそう! いや筋肉痛? 背筋が筋肉痛になるかもしんない!


「ルイズ、飛べそうかい?」


 ふるふるふる。

 私は首を振る。

 アロイスは笑って、私の頭を撫でてくれる。


「初めてはそんなもんだよ。いっぱい練習しよう」


 アロイスがそうやって励ましてくれるから、へそを曲げてた私のやる気もむくむくと帰ってきた。

 私はもう一回ふんすっ! ってやる気を注入!


「ルイズ、ほら、ばんざーい」


 ん??

 アロイスが笑いながら私に手のひらを向けてくる。

 なになに?

 分かんなくてきょとんとしていれば、アロイスは私の前足を両腕で掴んだ。


「ほら、ばんざーい」


 前足を上に持ちあげられる。

 もしやこれは!


『ばんざーい!』


 ぴょいんっとジャンプ!

 私のジャンプに合わせて、アロイスが私の体を持ち上げてくれる!


『ぬぬぬ!』


 パタパタパタ!

 翼を一生懸命動かす!

 前足で吊り下げられている状態で翼を動かせば、なんだか体のバランスが悪い気がした。

 なんというか、体が重たくて、翼と釣り合っていないというか。


『ベルが言ってたことってこういうこと?』

『え? なにが?』


 私の独り言をベルが拾っちゃった!

 地面に着地した私は、ベルを見上げた。


『体が重くてね、翼がたよりないっていうか……』

『あ、そうそう。そんな感じ。よく分かったね。それが感じなくなったら、飛べるようになるよ』


 やっぱりそういうこと。

 まだ生後半年くらいだし、体ができてないのは当たり前か。

 長くかかりそうな道のりを改めて感じるけど。


「ルイズ? どうしたんだい」


 ベルを見上げたままでいれば、アロイスが首を傾げて声をかけてきた。

 私はアロイスの方に視線を戻すと、パタパタと翼を動かして。


「あろいす、とぶ! ルイズ、がんばりゅ!」


 アロイスが一緒に練習に付き合ってくれるなら、私も頑張れると思うの!

 だから一緒に練習してくれる? と、期待を込めてアロイスを見上げていれば。


「ルイズ最高! がんばろうな!」


 イケメンの破顔はプライスレス。

 私のやる気インジケーターを一気に振り切らせたよ。

 これはもう、頑張るしかない!

 早く大きくなって、早く飛べるようになって。

 そうしたら。


「あろいす、とぶ! ルイズ、とぶ! いっしょ! とぶ! たのしみ! がんばりゅ!」


 アロイスを背中に乗せて、私も空へと飛んでいくんだ。

 そんな未来を想像して、私も笑顔になる。

 楽しいよ。

 アロイスと一緒に空を飛ぶのは、きっと楽しいよ!

 頭を撫でながらもさらに主張する私に、私に笑いながら、アロイスがぐっと視線を私に近づけてくれる。

 こつんと、アロイスのおでこと私のおでこがくっついて。


「もちろん、一緒に飛ぼうな。約束さ」


 囁くように、吐息がかかるような距離で言われれば、さすがの私もノックアウト。

 ……アロイスは自分の顔がいいことを理解したほうがいいと思う。

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