はじめての成竜2
まずここ、私が生まれたこの国はアングィス王国と言うらしい。王様がいて、国を守護する騎士団が二つあるんだって。
一つは王国騎士団。
もう一つは竜騎士団。
そして私が生まれ、育ててもらっているこの場所こそ、竜騎士団の本部で、成長したら騎士団のお役目を果たさないといけないんだそう。
何よりも私が一番びっくりしたのは、動物園の飼育員か何かかなぁと思っていたアロイスも、竜騎士団のメンバーだってこと。今はまだ私が生まれたばかりで、本隊配属ではなく訓練生扱いらしいけれど、私が成長したら、いずれは本隊配属になって、国を守るために頑張るんだって。
つまり私も、いずれは竜騎士の竜として、世のため人のために働かなくてはならないらしい。
人でなくなっても、強制終身雇用の労働者になるとは……それも騎士だなんて名前からして危ない感じのお仕事。私なんかに務まるのか、今から不安になっちゃうよ。
「ルイズ? どうした? さっきまで元気にベルとしゃべってたじゃないか」
「あろいしゅ……」
子供の時間ってあっという間だなと黄昏れていただけです。
話に花を咲かせていたアロイスが、ちょっとだけしょんもりしちゃった私の変化にすぐ気づいた。
ぴぃぴぃ鳴くのをやめてずぅんと黙りこんだ私に、アロイスは何を思ったのか、私の頭をなでてくれる。
「初めての外ではしゃぎすぎて疲れたのかい? もう帰る?」
「待て待て、まだベルとしか挨拶できてないだろう。他の竜とも顔合わせしていけ」
「んー、でもルイズの様子がおかしいし……」
「ルイズの性格なのか、ローズドラゴンの生態なのかはわからねぇけど、仔竜のわりには大人しいな。ベルなんか、お披露目のときは俺をおいてすっ飛んで駆け回りにいってたぞ」
また男三人が頭上で何かを言い出してる。
私の名前がちょこちょこ出てるから気になるんだけど、全部の意味は理解できない。
ちんぷんかんぷんでいれば、ベルが私の方にぐっと顔を近づけた。
『人間の言葉、だいぶ覚えた?』
『全然。まだ勉強中。自分とベルの名前くらいしか聞き取れないの。あと、もっと簡単な単語』
『そっか。それでもすごい。やっぱりあなたはすごいね。私たちと色が違うから、そういう種族なのかな?』
『種族?』
『そうだよ。ここにいる“翼のあるもの”は、二種類でね。まずは私と同じ
ベルの言葉にびっくりする。
私はどうやら珍しい種族みたい。
現に見渡す限り、私と同じような白桃色の竜なんてどこにもいないし。
ぐるぐるせわしなく空を飛び交う竜たちを見上げていれば、ベルは他にも色々教えてくれる。
『ここにいる以外にも“地を征くもの”がいるけど、おいおいまた顔合わせすると思うよ』
ベル曰く“地を征くもの”は、翼を持たない、空を飛べない竜なんだって。
人間たちは“翼のあるもの”を飛竜、“地を征くもの”を地竜って呼んで、区別してるらしい。
すごいなぁ、知らないことがいっぱいだ。
「ルイズ、そろそろ行こう。他の竜にも挨拶しような」
ベルによる竜談義を真剣に受講していると、アロイスから名前を呼ばれた。行こう? あ、移動するんだね?
ベルとは一旦お別れするらしい。主人だっていうベランジェと一緒に、また空へと戻っていった。
アロイスと隊長さんはベランジェとベルが空に戻っていくと、空から降りて休憩している別の竜のもとへ行く。
そこからもう、あいさつ回りに忙しかった。
ここにいる飛竜は、全部で二十七体。
国規模の軍隊だって聞いていたからもっと沢山いるのかと思ったけれど、そんなに多くなかった。騎士の体力の問題で引退していく竜もいるらしいし、何より竜を育てることがまず難しいらしい。だから、現役活動しているのはこの二十七体なんだって、竜の一匹から聞いた。
そうやって雑談を交えつつ、たくさんの竜の名前を覚えて、行く先々で思念波を既に習得している天才児童みたいな扱いをされながらも、なんとかあいさつ回りを終了。
今日一日で、頭をフル回転させた私は、終わる頃にはぐったり。
「よく頑張ったよ」って、夕ご飯に甘い果物をつけてくれたアロイスのご褒美がなかったら、ストライキしたかったくらいだよ。
人の名前を覚えるのだって大変なんだから!
もうちょっとくらい、余裕あるスケジュールにしてほしかったよ。
それでも、色んなことを知れたのは良かった。
ここはアングィス王国で、アロイスは竜騎士であること。
私はアロイスの相棒の竜で、種族はおそらく火竜らしいこと。
鱗の色が違うだけで、私の見た目は他の火竜とほとんど同じ。私はちょっと背中を見て翼の形や尻尾の先を見てみる。ベルや他の火竜に比べて丸みがあるけど、確かに翼竜に比べたら、火竜に似ていると思う。
私のような竜を、亜種と言うらしい。
これは隊長さんの竜であるシザーから聞いたんだ。
一番年長のシザーいわく、たまに竜の卵の中に毛色の違うものが混ざるらしい。
突然変異のそれは、広い目で見れば火竜らしいんだけど、人間は別の竜として名づけているとか。シザーさんいわく、ここにいる竜騎士たちは、私のことをローズドラゴンって呼んでるんだって。亜種の中でもとりわけ希少な個体なんだとか。
そして当然、亜種は見た目だけじゃなくて、能力面でも他の個体と違うことが多いらしくて。
私が自然と思念波を覚えたり、人語を操れるほどに知能が高いのは、そういった事情だろうと教えてくれた。
つらつらとお昼に聞いたあれそれを、頭の中で整理をしながら、寝藁に寝そべる。
生まれ変わったら、竜の希少種でした。
どこかのラノベにありそうなタイトルテロップみたいなものが頭に浮かんで、ついつい笑ってしまう。
ご機嫌に尻尾を揺らせば、ご飯の片付けをしてくれていたアロイスが私に気づく。
「ご機嫌だな、うちのお嬢さんは。今日は楽しかったかい?」
「たのち!」
「良かった、良かった。明日は僕、基礎演習だから午前しかこれないけど、また外に出られるよ。楽しみにしておきな」
相変わらず半分も意味は理解できなかったけど、でもなんとなく楽しそうなのは伝わって、私はご機嫌に尻尾を揺らして、翼をパタパタさせる。
アロイスも楽しそうに笑って、私の頭を撫でてくれた。
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