第27話 エピローグ

 パドラバの島に現れたのは、北の国グリーネの魔法使い達だった。今回のことについて話を聞きたい、と言われると、三人の魔法使い達は素直に従う。

 すぐに各国の魔法使いのおさに連絡が入り、彼らもまた事情を聞くためにグリーネへ向かうだろう。

 関わったフォーリア達も、事情聴取のために魔法使いの長やお偉い面々達の前へ連れて行かれた。

 自分達は悪いことを一切していないものの、神妙な顔つきであれこれ尋ねられるのは緊張する。

 夜遅くまで拘束され、終わった頃には身体中の骨が溶けたんじゃないか、と思うくらいぐったりとなった。まともに歩くのも、立つことすらもいやになる。

 ムウにかけられた術を解いた時と同じくらい、へとへとだ。

「……あれ? 暖かいわ」

 話を聞かれていた時はわからなかったが、建物の外へ出ると暖かい。

 グリーネでは薄手でもコートがなくてはつらかったのに、今はなくても平気だ。春半ばのような暖かさ。

「リリュースの力が戻ったから、気候も戻りつつあるんだな。グリーネの夏って、こんな程度の気温なのか?」

「いや、もう少し暑いよ。これからゆっくり戻るんだろうね」

「ってことは、ディージュへ戻ったらしっかり晴れるか、雨が降るってことね」

 西の国では、太陽が顔を出さず、雨も降らなかった。これからははっきりした天気になるだろう。

「じゃあ、ゼンドリンでは晴れるわね。よかったぁ。やっとパンにカビが生えなくなるわ。洗濯物も乾くし」

 あのじっとりした空気は、当分ごめんだ。からっとした天気が懐かしい。お気に入りパン屋の、さくっとしたクッキーを早く食べたくなる。

「タッフードはどうなるんだ?」

「一命は取り留めたけど、当分は安静だって聞いたよ。元気になっても、そのまま牢獄行きだろうけれどね」

 あの三人の魔法使いの処分は、まだ決まっていない。だが、もう魔法使いとして活躍することはないだろう。

 国によって采配は変わるだろうが、魔法使いの力を剥奪はくだつされることはほぼ間違いない。彼らは力を求め、逆に全てを失ったのだ。

 この日は時間も遅いので、セルロレック以外の三人は宿へ入った。

 今夜の宿代は、活躍したご褒美という訳ではないが、グリーネから出るという。一泊分でもありがたい。

 ベッドへ入ると、全員があっという間に眠り込む。竜の夢を見たような気がしたが、誰もちゃんとは覚えていなかった。それでも、気持ちのいい夢だった気がする。

 朝になり、セルロレックがフォーリア達の泊まる宿まで来た。三人は自分達の国へ戻るべく、魔獣を呼び出す。

 家に帰ったらゆっくりしたいところだが、きっと帰ったら帰ったで話を聞くために呼び出されるだろう。当分、のんびりできそうにない。

「またパドラバの島へ行ったら、リリュースに会えるかなぁ」

「あの霧がどうなってるか、だよな。リリュースの力が戻っても、行こうと思えば通り抜けられるのか、以前から言われてたように通れなくなってるのか」

 本来、パドラバの島の周囲には霧が立ちこめ、入ろうとしても元の場所に戻ってしまう……と言われていた。

 誰がそんなことを言い出したのだろう。本当にダメなのか、この前みたいに入れるのか、ちょっと試してみたい気もする。

「通れなくなってたとしても、リリュースを呼べば入れてもらえるんじゃないかなぁ」

「私達だから入れてって? そうね、まさか追い返しはしないでしょうし」

 竜を助けるために動いたのだし、あれだけ関わって無視されるということはない……と思いたい。

 だが、余程のことがない限り、竜という大きすぎる存在には会わない方がいいような気もする。

 そして、余程のことなど、滅多に起きないだろう。

「あ、そう言えばこの礼はいずれ、なんて言ってたよね。お礼なんていいのに。あたし達、お礼がほしくて動いた訳じゃないんだもん」

 元はと言えば、人間がしでかしたこと。それを人間の自分達が何とかしようとしただけ。

 全ては竜のためでもあるが、自分達のためでもある。本来なら、同胞がしでかしたことを何度詫びても、まだ足りないくらいだ。

「けどさ、もし何かやるって言われたらどうする? 竜からの贈り物だぜ。一生に一度しかないなら、断るのってもったいないぞ」

「じゃあ、竜の力が欲しいって言ってみるかい?」

 セルロレックが恐い冗談を言う。

「やぁだ、そんなの。でも、迷うわね。もらうとすれば何がいいのか。それとも最初から辞退するべきなのか。ん~」

 サーニャは真剣な顔で悩んでいる。

「あたしは、ありがとうのキスで十分よ」

 その言葉に、三人は「フォーリアらしい」と思った。

「あと、リリュースとちょっとだけお話できたら嬉しいな」

「お、それ、いいかもな。じゃあ,やっぱりあの霧の中を突っ込んで行くか」

「今度は歩く距離を少し短くしてもらえたら、もっといいわね」

 サーニャの意見に、三人もうなずく。

「さて、戻るか」

 レラートが火の狼にまたがる。フォーリアとサーニャもそれぞれの魔獣に乗った。

「次に会う時は、お互い一流魔法使いかな」

 セルロレックの言葉に、三人が笑みを浮かべる。

「そうねー。トップクラスの魔法使いの席が一つずつ空いたことだし、それぞれそこに座るってことで、いいんじゃない?」

「だけど、そういう席って座りにくそうよね。脚が三本しかなくって、油断するとすぐに転んじゃうとか。あたしなんて、すぐに転びそう」

「確かに、緊張は強いられそうだよな。ま、一流になる前に、また会おうぜ」

 レラートの言葉に三人が大きくうなずき、魔獣達の脚がそれぞれ地面を離れる。

 昨日より暖かみを増した日なたの中で、セルロレックは彼らの後ろ姿を見送った。

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パドラバの竜と封印の鍵 碧衣 奈美 @aoinami

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