1-7 血濡れのバージンロード

 エレベータの扉が開くと、俺と紗綾ちゃんは二人同時に飛び出した。

 屋上の休憩スペース兼エレベーターホールから外に出ると、小さいながらも緑豊かな庭園と、純白のバージンロードが出迎える。

 整然と並ぶ長椅子の奥、十字架前で佇むメスガキシスターと、ウェディングドレスをまとったメスガキ花嫁がこちらに振り返った。

 そしてメスガキ花嫁に足蹴にされ、上半身裸で土下座してるのは……真司だ!


「真司!」


 俺の叫び声と同時に、紗綾ちゃんがメスガキ花嫁に飛び蹴りをかます。


「なにごと!? どゆこと!?☆」


 驚き逃げる花嫁を、追い駆け回す紗綾ちゃん。俺は真司に駆け寄って、身体中の拘束具を外していく。

 口枷に各種クリップ、手錠にアイマスク……こんな変態拘束具でも、イケメンが付けると何故かサマになる。マジで助けたくなくなる。

 そんな事思いつつあらかた外し終えると、ようやく真司は助けが来たと理解したようだ。


「和志……和志なのか? ありがとう、ありがとう!」

「メス堕ち前で良かったよ。礼はいいから逃げるぞ。立てるか?」


 真司に肩を貸し立たせてやってると――、


「あなた、何者です? どうやってここまで来たんですか?」


 背中に高い声が浴びせられる。振り返ると嘲笑を浮かべるメスガキシスターが、俺達の前に立ち塞がっていた。

 大きくスリットの入ったシスター服に、ドクロのクロスペンダント。片耳にインカムを付けている。メスガキ花嫁も付けてたから、あれでガンキチーム内の連絡を取り合ってるのかもしれない……今応援を呼ばれたら、マズイ!


「たまたま屋上来てみたら、知り合いがピンチで助けたってだけです。もうすぐ警察も来ます。今の内にここから逃げた方がいいんじゃないですか?」

「たまたまで、ここに来られるわけないでしょう? 子飼いのメスガキまで連れてきて……あなた、離解者ね」

「そういうアンタこそ、どこの誰ですか? 噂じゃお偉いメスガキらしいけど、罵倒療法幇助も立派な犯罪ですよ?」


 ハッタリをかましてみるも、シスターの表情に焦りの色はない。

 両手を胸の前で組みひざまずくと、敬虔なクリスチャンみたいにお祈りポーズを取り始める。


「私は迷えるメスガキを導く、愛の修道士。憐れな男とメスガキに、誓いの覚醒をもたらすメスガキシスター♡」


 シスターは、遠くで戦う紗綾ちゃん達に目を向けた。小さく溜息を零し俺に向き直る。


「あのメスガキ、以前ウチにいた紗綾ですね。という事は、あなたは久保和志くん♡ お会いできて光栄だわ」

「……どうして俺達の事を知ってるんだ?」

「さあ? なぜかしら。またね、離解屋ワカラセヤさん♡」


 メスガキシスターは大きく後ろにジャンプした。高層ビル群を飛び跳ねて、あっという間に見えなくなってしまう。

 通報ブラフが利いたのか、あるいは正体バレのリスクを嫌ったか……謎だらけのメスガキだが、応援を呼ばれるよりは逃げてもらえる方がありがたい。


「恵! 紗綾ちゃんに加勢してくれ!」


 物陰で様子を窺っていた恵に声をかけると、待ってましたとばかりにメスガキ花嫁に向かっていく。

 俺は真司と一緒に安全な場所まで退避すると、スマホを取り出し電話をかけた。コール数回で福浦さんが出てくれる。


『もしもし、和志か? どうした?』

「福浦さん、今すぐ渋谷のMESUガンキ屋上に来てくれ。男を拉致ったメスガキと交戦中だ!」

『なっ!? お前そういうのは、やり合う前に連絡しろよ!』


 屋上までの行き方を説明し電話を切ると、紗綾ちゃん達を見守っていた真司が、震えた声を出す。


「おい、和志……ヤバいぞ」

「え?」


 そんなまさか……信じられない。

 振り向いた純白のガーデン・ウェディングは、血濡れのバージンロードと化していた。

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