1-3 内気なメスガキ
能天気なショップBGMが響くガンキ一階。普通の客を装う俺と紗綾ちゃんは、商品を探すフリして周囲の様子を見回した。
雑多な商品が所狭しと並ぶ店内は、平日昼間だけあって客の姿はほとんど見かけない。代わりに数人、メスガキ店員の鋭い眼光が棚の隙間から覗くだけだ。俺の背中に冷たい汗が伝う。
「ちっ☆」
隣の紗綾ちゃんが舌打ちとガンを同時に飛ばすと、メスガキ店員達はすごすごと自分の仕事に戻っていく。
もし紗綾ちゃんが一緒じゃなかったら……真面目顔がカピバラな俺でも、メスガキに拉致られてたかもしれない。
とにかく、真司の居場所を探るには店員から情報を聞き出すしかない。ここはひとつ、肉食系ギラギラ☆メスガキではなく、大人しめナヨナヨ♡メスガキに声をかけたい。
そんなレアメスガキいるんかいと店内を見回していると、レジに立つ一人の女児が目に留まった。
年は紗綾ちゃんとほぼ同じ、十歳くらいの黒髪ロング。俯き加減で、頬の横から落ちる黒髪を、そっと耳にかける仕草が愛らしい。ぽわっとした雰囲気で、とろんとした垂れ目を下に落とし……レジ下に隠したスマホに夢中らしい。
「あの、ちょっと聞いてもいいかな?」
ぽわとろ娘はビクッと身体を震わせると、慌てて顔を上げた。
サボっててすみませんすみませんと謝らんばかりに、ぶんぶん振られる左手には、可愛くデコったスマホが握られている。
ガンキ店員なんだから、この子もメスガキで間違いないだろうけど……それすら疑いたくなるウブな反応。メスガキと言っても色んな性格の子がいるのは確かだが、内気なメスガキなんて新鮮すぎる。
「実は俺の友達の真司って奴が、メスガキと一緒に店に入ったまま戻ってこないんだ。どこにいるか、教えてもらえないかな?」
「えと」、「あの」と、短い単語は出てくるが、すぐにつかえて繋がらない。
モジモジするぽわとろ娘を前に、小さな茶髪の頭からカチンと音が聞こえた。
「そっかそっかー☆ 店員なのにお客様の質問に、まともに答える事もできないんだー♡ すっごい失礼♡」
紗綾ちゃんの煽りを受けて、ぽわとろ娘は意を決したようにスマホを口元に当てると、小さな声で囁き始めた。
「は? 何言ってるか全然聞こえないんですけど☆」
更に煽る紗綾ちゃん。ぽわとろ娘はスマホを突き出し、再生ボタンをタップした。
『い、いらっしゃいませ☆MESUガンキにようこそ! クソザコナメクジ☆おにーさん♡』
スマホのスピーカーから、大音量でメスガキボイスが再生された。
俺と紗綾ちゃんが呆気に取られている間に、追撃のぼそぼそ声が録音・再生される。
『変態ロリコン☆おにーさんと言葉を交わすのもキモイから、スマホ経由でなら喋ってあげます♡』
やはりぽわとろ娘は内気なだけで、正真正銘メスガキだった。
「あんたねえ……セリフと表情が全然合ってないじゃない! どうしてずっと顔真っ赤なのよ!」
『ちゃんと会話できてるんだから文句言わないで☆ ヨワヨワ♡メスガキと、ザコザコ☆おにーさんと話してあげるだけ、感謝してほしいくらい!』
確かに頬を染めて恥ずかしがってるが、スマホを使い始めてからぽわとろ娘との会話はスムーズになった。
逆に言えば、この特殊すぎるコミュニケーションに彼女は精通してるわけで。
「キャハハ☆ 恵はそういう子なんだよ。人と話す時小さな声しか出せない、超絶コミュ障なの!」
「しゃーなし♡ あたしらが話し相手になってやんよ☆ たーだーし! ワカラセくんだけな♡」
いかにもギャルっぽい見た目のメスガキ店員二人が、こちらに近付いてくる。
紗綾ちゃんが臨戦態勢を取るも――、俺達の前からレジ台が消え、メスガキ二人組に激突した。
驚いて正面に向き直ると……恵と呼ばれたぽわとろは、レジの踏み台に乗ったまま、真っ赤な顔でスマホを突き出す。
『誰がしゃしゃり出ていいって言ったんですか? 腹黒ビッチ☆メスガキさん♡』
「ひっ……ひいいぃい!」
「すっ、すみませんんん!」
レジ台から這い出た二人組は、慌ててバックヤードへ逃げていく。
恵は踏み台から飛び降りると、呆然と立ち尽くす俺達の前で、ネックストラップを取り出し首にかけた。トップのホルダーにスマホをしまうと、聞き取れない声で何かを呟く。
一瞬の間を置いて、スマホからメスガキ音声が再生される。
『お友達の居場所を知りたかったら、わたしを
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