第38話 決戦①
「ゴアァァァアァッ!!!」
ゴルドザが威嚇の咆哮をあげる。ゲームのキャラクターにはない、本物のみがもつ凄みがそこにはあった。
だが、距離を詰める二人に臆する素振りはない。
二人とも盾を構えつつ、グレンはゴルドザの左方向から、シアは右方向から、迷いなく突っ込んで行く。
グレンは、横目でシアの位置を確認しながら、アイリスの言葉を思い出す。
(固い鎧に守られているようですが、刃物による裂傷は防げても、打撃による衝撃は身体に伝わるはずです。二人で協力して、なるべく打撃力のある技をゴルドザの足に
集中的に叩き込んでください。出来れば、膝の関節部分が望ましいです。上手く行けば、動きを止められるかもしれない)
狙うは右膝。戦闘前にシアと打ち合わせていた通り、グレンはゴルドザの右足に向けて全力疾走していく。
グレンの方が先に突っ込んでくるとみたのか、ゴルドザが身体ごとグレンの方に向き直り、棍棒を頭上に大きく振りかぶった。
棍棒の間合いに入る直前、グレンが急ブレーキをかける。
タイミングを外されたゴルドザは棍棒を止めることが出来ず、そのままグレンの方へ振り下ろす。その瞬間を狙い、シアが左手に持ったランスを構え、ゴルドザの真横から右膝めがけてまっすぐ突進してきた。
避けられるタイミングでも体勢でもなかったため、シアの突進攻撃は成功するかに見えた。
だが、ゴルドザは振り下ろした棍棒を地面に叩き付けるのではなく、そのままシアの方へと振り払う動きへ変えたのだ。二人の動きを読んでいなければ、出来ない芸当だ。
スピードの乗った超質量の攻撃を、シアは右手で持った大きな盾で受け止める。しかし、その衝撃まで止めることは出来ず、そのまま空中に吹き飛ばされてしまう。
急ブレーキをかけたグレンは、一瞬だけ立ち止まったあと、すぐにまたゴルドザの方へと走り込んでいた。
視界の端に、吹っ飛んでいくシアをとらえつつも、動揺することなくゴルドザに肉薄する。
ゴルドザは、右方向へと振り払った棍棒の勢いをそのまま利用し、再び頭上に棍棒を構える。ちょうど、大きく右腕を一回転させて、元の体勢に戻ったような状態だ。
ふたたび、凶器が準備態勢に入ったのをグレンも認識していたが、ゴルドザの右足付近で足を止め、戦技を放つ態勢に入った。
危険な状況にもかかわらず、隙だらけの身体を晒す。はっきり言って自殺行為だった。
今度こそ肉を叩き潰す感触が味わえると確信したゴルドザの口角が上がる。
思い切り振り下ろすために、ゴルドザの右腕の筋肉が一回り膨らんだその時。
「【
吹き飛ばされながらも、空中で自ら回転し体勢を整えたシアが、左手のランスを突き出しながら戦技を放った。
シアの、戦場には似つかわしくない可愛らしい声に反応し、ランスから何本もの茨が伸び、振り上げていたゴルドザの棍棒に絡みつく。
吹き飛んでいくシアの重みで、絡みついた茨がピンと張る。
棍棒を振り下ろそうとしていたところに、思わぬ負荷が右腕にのしかかってきたが、自らの怪力に自信があったゴルドザは、無視できる重さだと判断。気にせず、足下で隙だらけの身体を晒しているグレン目がけて棍棒を振り下ろそうとした。
「【
その瞬間、シアが追加で戦技を放つ。
少し重くなった程度だったゴルドザの右腕への負荷が急増する。無視できると思った重さは、もはや振り下ろすどころか、右方向へと身体ごと引っ張られるほどになった。
右足で思い切り踏ん張り、体勢を崩されることだけはなんとか避けるゴルドザ。
その体重の乗った右足の膝めがけて、グレンの戦技が放たれた。
「【
炎を纏った剣がゴルドザの右膝に当たると同時に、爆発するような衝撃がゴルドザを襲う。
「ぐっ!? なんて堅さだ!」
確かな手応えを感じたグレンだったが、その分、剣を持つ手に痺れるほどの固い振動が返ってくる。
後ろに大きく飛び退きながら、ゴルドザの膝を覆った鎧を見てみたが、傷一つ付いていなかった。衝撃によるダメージも、ゴルドザの様子からは効いているのか判断がつかない。
「固いとは聞いていたが、これほどとはね……」
遠くの方で、シアが無事に地面に着地するのが見えた。空中で戦技を解除したのか、ランスから伸びた茨は消えていた。
最初の打ち合いとしては、満点の出来だったのだが、ゴルドザの防御力が桁違いだ。
「とはいえ、やることは変わらないか」
ゴルドザの向こう側で、呪文を唱えていたセレナが何かの魔法を発動させるのが見えた。第一段階の儀式が終了したようだ。
悟られるわけにはいかない。グレンはすぐさま、次の行動に移った。
シアと視線で合図を送り合う。
今度は二人まったく同じタイミングで、再びグレンがゴルドザの左、シアが右方向から突っ込んで行く。
走りながら、ゴルドザの様子を観察するグレン。
先ほどの攻撃が効いているのかいないのかはわからないが、その顔から怒りや笑いの表情は消え、真剣な表情でシアとグレンを交互に睨み付けている。
「顔付きが変わったな。さすがにキングにまで、のし上がるだけのことはあるか。油断していてくれた方が、こっちは助かるんだがな」
そう呟きながら、右手の剣に意識を集中する。
今度は二人が同じタイミングで迫ってくると読んだゴルドザは、棍棒を両手で持ち、野球やゴルフのスイングのように構える。横方向になぎ払い、二人同時に殴り飛ばすつもりだ。
今度はフェイントもなく、まっすぐゴルドザの間合いに入って来るグレンとシア。
そんな二人を目がけて、大振りの横薙ぎを繰り出した。
「【
迫り来る棍棒を受け止めるべく、足を止め盾を構えて戦技を放つシア。足下から木の根のようなものが急速に伸びてシアの足や腰の辺りに絡みつき、身体を固定する。
「【
気付かれないように近づいていたアイリスが魔法を唱える。棍棒とシアの間に立ちふさがるように、小さな竜巻が現れた。
ゴルドザの棍棒が竜巻に触れると、強烈な逆風となってその勢いを削いだ。勢いが衰えたところを、シアの盾が受け止める。それでもかなりの衝撃で、シアに絡みついた根をブチブチと引きちぎりながら押し込んだところで止まった。
そこへ、グレンが走り込んで来た。
「【
棍棒はシアが必ず止めると信じ、迷いなく全力で放ったグレンの戦技が、ゴルドザの右膝に炸裂する。先ほどと寸分たがわぬ位置にヒットするが、やはり傷は付かない。
「グォォアァァァ!!」
ゴルドザの咆哮が響く。そこには明らかに苦悶の色がにじみ出ていた。
アイリスの言う通り、二度も同じ位置に戦技を叩き込まれたことで、かなりのダメージにはなっているようだ。
思わぬ苦痛を味わわされたゴルドザが再び怒りの表情を浮かべ、足下の二人を叩き潰そうと再び棍棒を振り上げた。
「《
アイリスが歌のような精霊語の詠唱とともに、懐から数本のナイフを空中に放り投げる。ナイフは空中にふわりと浮かび、刃先をゴルドザの方へと向けた。
「【
アイリスの声を合図に、空中のナイフが一斉にゴルドザに向かって飛翔する。
ナイフに宿った風の精霊によって複雑な軌道を描きながら、ゴルドザの顔面に向かって飛んでいく。
ゴルドザの魔法の装飾品によって、直前で風の精霊がかき消されるが、十分にスピードが乗ったナイフはそのままの勢いで、ゴルドザの顔に殺到する。
振り上げていた棍棒で慌てて顔をガードするゴルドザ。
ナイフは防がれたものの、その間に、グレンとシアは安全な位置にまで引くことが出来た。
「グルゥウオアアァァァァアァァァッ!!」
ゴルドザの苛つきが最高潮に達し、何度も棍棒を地面に叩き付けながら咆哮を上げる。
ゴルドザは、グレンたちを睨み付けつつ、最大限の苦しみを味わわせてやると心に決めた。
その時、グレンたちの遥か後方で、大きな音とともに、いくつもの魔法陣が現れ光り輝き出した。
その魔法陣の中心には、逆巻く風に髪を巻き上げられながらも、目を閉じ一心不乱に呪文を唱えるセレナの姿があった。
儀式が最終段階に入り、古代語魔法の詠唱が始まる。
ゴルドザの脳裏に、若い頃の苦い記憶が瞬時に蘇る。自らの群れを、一瞬で壊滅させられた、あの時の光景が今と重なる。
ゴルドザの身体に、久しく忘れていた『恐怖』が、じわりと染み渡っていく。
(アレハ、カナラズ、ハイジョ、シナケレバナラナイ! イマスグニ!)
だが、その行く手を阻むように、グレンが立ちふさがり声をあげる。
「さぁ、最終ラウンド。いってみようか!」
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