第12話 やっちゃいました
「うぉぉ! すげぇ! 本当に魔法が使えた!」
「これ不思議。初めてスキルを使うのに、ずっと昔から何度も使ってたような気分になる」
「えーっ、俺ぜんぜん使えないんですけどー。なんだよ、もう、つまんねぇ。アンナちゃん、これバグってんじゃねーの」
「くらえ! 奥義『舞蒼氷乱斬』! ……って、さすがにハイレベルな技は使えねぇか。あはははは」
2、30人近くいた召喚者たちは、6組ほどのチームに別れたあと、それぞれ訓練用のブースに移動していった。
ブースと言っても、バッティングセンターやゴルフの打ちっぱなしのような構造をしており、各ブースが金網のようなもので区切られているだけなので、組み分けされた他の者たちの様子は容易に見ることが出来た。
スピーカーからエレノアのテスト開始の合図が流れると、あちこちから歓声や派手な打撃音や爆発音が聞こえてきた。
それぞれのブースに数名の作業員がいて、召喚者たちが魔法や戦技を使用するたびに、計器をいじったり書類にいろいろと書き込んだりしていた。
「すごいね、本当に魔法や戦技がゲームみたいに使えるんだ」
周りの様子をうかがっていたユウが興奮気味に言った。
「正直、ずっと半信半疑だったけど……こうなると認めざるを得ないですね。ここが異世界なんだ、って」
アイリスも驚きを隠せない様子でそう呟く。
「じゃあ、お兄ちゃん。一番手、お願いね」
「ええっ、俺から?」
「もう、そんなこと言って。知ってるよ、さっきから早くスキル使ってみたくてうずうずしてるの。こういうの、お兄ちゃんが一番得意なんだし。なんたって、うちの斬り込み隊長なんだから」
「なんだよ、いつもは勝手に突っ込むなって怒るくせに」
と悪態をついてはみたものの、満更でもないグレン。実際、スキルを使ってみたくてしょうがなかったのだが、年下のシアに見透かされてたのが気恥ずかしかっただけなのだ。
「えーっと、ここから遠距離技を使うようにしたらいいんですか?」
グレンは近くの職員にそう尋ねながら、白いテープのようなもので四角く区切られた場所まで移動する。
「ええ、基本的にはそうですけど、遠距離技を習得してない人や、近距離技の方が得意というのであれば、向こうの人形の側に移動してもらってもかまいません。貴方が一番使いやすい技、慣れている技を使用してくれれば結構です」
「慣れてる技……か。例えば一撃じゃなくて、いくつかの技を連続で使用するコンビネーション技とかでもいいんですか?」
「ええ、その方が慣れているというのであればもちろん。この試験は皆さんの適性を計るのが主な目的なので、まずは難しく考えずに魔法や戦闘スキルの使用感を確かめてください」
「使用感……ね」
そう言われ、改めて目の前の人形に意識を向ける。少し前に歩いていき、人形までの距離を約10mほどに調整する。
「まぁ、とりあえずやってみるか」
言葉と共に、剣を抜き盾を構える。上段に剣を構え、全身に宿る闘気を刀身へと集中させ、それを炎へ変換していくイメージを思い描く。
(いつもはボタンを押すだけで、実際に剣を使うことなんて初めてのはずなのに、まるで何万回と繰り返してきたみたいに、自然と身体が動く……)
不思議な感覚ではあったが違和感などは感じない。今はむしろ、コントローラーより、剣を握っていることの方が自然に感じるほどであった。
(っと、いけない。余計なことを考えずに、今は集中集中……)
グレンがやろうとしていること。それは、ゲーム内で戦闘開始時によく使う連携技だった。
最初に遠距離から炎の弾を相手に放ち、着弾のタイミングに合わせて突進技を使い、その同時攻撃で相手の体勢を崩したところに、威力の大きな近距離技を叩き込む三連続コンボ技だ。
ゲーム内ではタイミングがシビアで失敗した時の隙が大きいのだが、決まった時の爽快感が好きでグレンは好んで使用していた。
「【
剣に集中させていた闘気が最高潮に達した瞬間、上段から右下へと一気に剣を振り下ろしながら遠距離技を発動させる。鳥を象った炎の塊が振り下ろした剣の勢いのまま、人形めがけて一直線に飛んでいく。
「【
剣を振り下ろした体勢のまま、すぐさま次の技を発動させる。グレンの全身を炎のオーラが包み、そのまま先に放った炎の鳥に追いつく勢いで突進してゆく。
タイミングはバッチリ。このまま、突き出すように構えた盾ごと目標にタックルし、あとは最後の近接技の発動タイミングさえ気をつければ大ダメージは確実だ。
突進しながら最後の技のために右手の剣に闘気を流し込みつつ、タックルの衝撃に備える。
『ズドォンッ!』
遠距離技の炎の鳥が訓練用人形に着弾するのとほぼ同時に、グレンのタックルが炸裂した。
「よしっ! いけぇ!! 【
グレンが三連撃目を発動させようとした、その瞬間――
『ビシィッ!』
「なっ!?」
グレンの攻撃に耐えかねたかのように、訓練用の人形に大きくヒビが入るのが見えた。
瞬間的に、これはマズいと思いはしたものの、元々ほぼ同時に発動するようタイミングを合わせていたものが今更止められるはずもなく、
『バキィ!!』
炎をまとったグレンの剣が訓練用人形に叩き付けられるとともに、派手な音を立てながら真っ二つに折れてしまった。
「ああっ!? そ、そんなまさか……くっ、訓練用人形がっ!!」
目の前のことが信じられないかのように目を見開き、言葉を失う作業員。
(や、やばい……これ、絶対高いやつだ)
この手の人形には計測用の様々なセンサーが取り付けられていて、見た目に反してものすごく高価なものだというのを、グレンはテレビか何かで見たことがあった。それはおそらく、この異世界でも変わらないだろう。
「えっ、い、いや……すみません、壊すつもりはなかったんですけど……や、やっぱりコンビネーション技とか使うのは、さすがにまずかったですかね? は、ははははは……」
なんとかその場を取り繕おうとするものの、乾いた笑いをあげることしか出来ないグレン。異様な音を聞きつけ、ざわざわと人が周りから覗き込んで来る。
その時、バターンという勢いよくドアを開ける音が訓練ブースに響き渡る。見ると、険しい表情を貼り付けたエレノアが2階のモニタールームから階段を駆け下り、グレンの方へと早足で向かってきた。
(うわぁ……あれはどう見ても怒ってるよなぁ……)
とにかく必死に謝ろうと心に決めた時、エレノアがグレンの目の前で立ち止まるやいなや、肩をがっと掴み真剣な眼差しを向けて話しかけてくる。
「君! 今のは——」
「あーっ! まっ、待ってください! さすがにその魔法はダメですー!!」
エレノアが言葉を発した瞬間、それに被せるように、少し離れたところで試験を続けていた作業員の悲鳴が響き渡った。
目の前でフラッシュが焚かれたかの様な閃光――。
鼓膜が破れるかと思うほどの大音響――。
地震かと思うほどの振動――。
その瞬間に起こったことを正確に把握できた者は、その現場にはいなかっただろう。それらの衝撃で、ほとんどの者は目を逸らしたり、その場に倒れ込んだりしていたからだ。
もうもうと立ちこめる砂埃が過ぎ去ったあと、ようやくその場にいた者たちが状況を確認出来るようになってきた。
その場にいる皆が目にしたのは、実験場の壁にぽっかりと空いた大穴。
そして大穴に向けて杖を構え、ステレオタイプな魔女の帽子を被り、キョトンとした表情を浮かべている一人の少女。
その少女が、何事かを小さく呟いたようだが、聞き取れる者は誰もいなかった。
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