第20話 目指せスローライフ
二人が黙々とシチューを食べ始めたので、私は改めて聖剣アズベインと向き合った。
「……言葉が通じるようになったのは聖剣さんのおかげ?」
≪聖剣さん、などと他人行儀な。ぜひ『アズ』とお呼びください≫
初対面であだ名呼びを求めてくる剣とか初めてだわ。いや喋る剣自体が初めてだけど。いやいや喋る無機物以下略。
「……アズのおかげなのかしら?」
≪そうなりますね。私の所有するスキルは、マスターとなる人間と共用できますので≫
何それメッチャ便利。わざわざ言語教育を受けなくてもいいってことか。くっ、王妃教育をさせられていたときに出会っていればなぁ。無駄に何言語も覚える必要もなかったのになぁ。いやでもそれだと常に帯剣する王妃が爆誕したのか。いやいやどうせ婚約破棄されるんだから王妃にはならないのか……。
「マスターっていうのは所有者ってことよね? 何でまた私が? 私は別に『剣聖』でもないんだけど?」
剣聖とは国王の護衛を任せられるほどの実力者に与えられる称号であり、つまりはこの国トップレベルの剣士であるという証明であるらしい。
ちなみに現在唯一『剣聖』と認められているのはアイルセル公爵家嫡男――ミアのお兄さんだ。
しかし聖剣の持ち主であるのに『剣聖』であるかどうかは関係ないらしく、
≪王家に連なる血筋であり、『勇者』に相応しい資質を有していたため、魔力の固有波紋が登録されました≫
うちの国の公爵家は元々王弟が臣籍降下したものだし、何度も王女を嫁に迎えているので血筋が連なっているのは当然だけど……なんで勇者? 私なんてミジンコ並みの度胸しかない小市民なんだけど?
≪王家に連なる血筋の御方が『小市民』とは、何かの冗談ですか?≫
冷静に突っ込みされてしまった。聖剣に。というかさらっと心を読まれた?
≪聖剣とマスターは口にせずとも意思疎通ができますので≫
しれっと答えるアズだった。なんかこう、神経図太いわね?
「……聖剣が何でこんな場所に置いてあったの? まさか山賊に盗まれたとか?」
≪所有者が私を手放したため、資格あるマスターを求めてランダムで転移していました。一定期間が経過した後、また別の場所に転移してマスターを待つよう制作者から命令されています≫
つまり、この洞窟にいたのは偶然らしい。まぁ山賊に奪われた聖剣なんて笑い話にもならないからね。その意味では良かったのかしら?
「もうこの国には魔王なんていないけど、それでもいいの?」
≪魔王がいないなら、のんびりまったりスローライフを送るまでです≫
なんか、仕事に疲れた現代人みたいなことを言いだした。聖剣も人生というか剣生に疲れることがあるのかしらね? いや自分で動けない上の強制ランダム転移なんだから疲れもするか。ちょっと同情してしまう私であった。
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