第19話 ごはん
剣の柄を握ったままの状態で、剣自身が飛び回ったせいで振り回され、腕やら肩やらが痛い。めっちゃ痛い。
≪私が動いた方が早いと判断しました≫
悪気もなくしれっと答える聖剣だった。そりゃあ貴族令嬢なんだから剣の修行なんてしてこなかったけど……。そんな私がへっぴり腰で剣を振り回すよりは早く終わるでしょうけど……。
まぁともかく。ゴーレムは倒せたし、ゴーレムを生み出した水晶は(うまいことゴーレムに踏みつぶされなかったので)回収。
さて、これからどうしよう? 剣を片手に頭を悩ませる私だった。
聖剣アズベインと判明したからには、元の場所に置いて行くわけにもいかないわよね。とりあえず王宮に申請しないと。遺失物届でいいのかしら?
となると、王都まで持って行くことになるのだけど。
「……
≪断固拒否します。私のマスターなのですから、堂々と私を腰に差してください≫
剣にも意志があるみたいなので一応確認したら、断固拒否されてしまった。腰に剣を佩く貴族令嬢って……。
ま、どうせ腫れ物扱いなんだから別にいいか。
たぶん山賊が使っていた革製のベルトを見つけたので、それを使って腰に固定。黒い喪服に華美な装飾の剣。似合っているような、いないような。
聖剣については一応決着したので、次は当初の目的である子供の保護と、ご飯を食べさせることだ。
ゴーレムのせいで洞窟が滅茶苦茶になってしまったけれど、食材は無事だったので外に出て、魔法で火起こし。これまた洞窟内にあった鍋などを使ってシチューを作る。牛乳はないけれど、そこはまぁ前世知識を信じてフィーリングでいい感じに。
「…………」
「…………」
二人の子供のうち、男の子は尻尾を振りながらシチューを凝視している。けれど、もう一方の女の子が警戒して、男の子を押しとどめている状態だ。
そりゃあまぁいきなり現れた人間から食べ物をもらって警戒するのも分かるけど……う~ん、これはまさしく『待て』の状態だ。子犬に『待て』をしている状態だ。
「ほーら大丈夫よ。毒なんて入ってないから!」
疑いを晴らすため、子供たちの皿に盛ったシチューをスプーンで一掬い。そのまま食べてみせることで安全だと証明する。
と、なぜか男の子の方が涙目になり、そのまま泣き出してしまった。
「え? ちょっと、どうしたのよ?」
問い糾すけれど相手は年端もいかない子供。さらには(お互いが未熟ながらも使える)大陸共通語は片言でしか通じない。どうしたものかとオロオロしていると、
≪補助スキル発動:
聖剣アズベインがそんなことを言いだして、
「お姉ちゃんが! ボクの、ボクのシチューを食べちゃった!」
男の子の言葉が突然鮮明に理解できるようになった私だった。あー、お預けされている目の前でパクッといっちゃったからね。子供なら泣いちゃっても仕方ないか。
「ご、ごめんね! ほら! お姉ちゃんの分のシチューもあげるから!」
私が自分の分のお皿を男の子に差し出すと、男の子は泣き止んでくれた。そのままの流れでシチューを食べようとして……。動きを止めた。
「……はい、セナ」
何かに気づいたように女の子へスプーンを差し出す男の子だった。
「…………」
何か言いたそうにしながらも、大人しく『あーん』される女の子。あー、なんだか微笑ましいわね。仲のいい姉弟(兄妹?)って素敵だわー。いやどっちが年上かは知らないし、そもそも本当に血縁なのかも知らないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます