第21話 聖剣(美少女)


 子供たちがシチューを食べ終わったので、これからどうするかの確認だ。幸いにして自動翻訳ヴァーセットが使えるので少し難しい質問や相談もすることができる。


 先ほどは片言でのやり取りだったので、改めて質問しなおす。


「お家がどこにあるか分かる?」


「……わかんない」


「う~ん、それもそうよねぇ……」


 旅行に来たのならともかく、誘拐されたのだ。ここがどこなのかすら分からないだろうし、子供なら尚更でしょう。


「たぶん獣人の自治区出身だと思うから、王都まで行ってお家を探してもらおうと思うんだけど……。一緒に王都まで来てくれる?」


「……はい」


「わかりました!」


 女の子は渋々、男の子は元気いっぱいに同意してくれた。


 あまりのんびりしていては日が暮れてしまうので、宿泊場所となる街を目指しましょうか。


「……その前に、お姉様。やはりその聖剣は悪目立ちするかと」


 少し言いづらそうにするミアだった。


「あー、やっぱり喪服に剣は似合わないわよね? 街では悪目立ちしちゃうかしら?」


「いえ、聖剣アズベイン自体が。見る人が見れば『聖剣』であると分かってしまうかと」


「……本当に?」


「はい。聖剣アズベインは王家が姿絵を公開して探していますし。取り扱う可能性がある鍛冶職人や武器商人の間には特に重点的な聞き込みが行われていますから、それらの職業の方々であれば確実に分かってしまうでしょう」


「う~ん……」


 私は何も悪いことはしてないけれど、王家がなくした聖剣だからなぁ。なくしてから400年ほど経った今でも捜索を続けている聖剣を持っていると知られれば絶対面倒くさいことになるし、『盗んだのか!?』と騒がれても厄介だ。


「……ねぇ? やっぱり空間収納ストレージに入れちゃダメ?」


≪断固拒否します≫


「でも、あなたって結構有名みたいなのよ。それにやっぱり喪服で帯剣というのも悪目立ちするし……」


≪……では、何とかしますので、私に魔力を注いでください。多めに≫


「? 魔力を注げばいいの?」


 よく分からなかったけど、言われたとおり多めに魔力を注いでみる。総魔力の半分くらいでいいかしらね?


 と、なぜかミアが呆れたような目で見てくる。


「……よく話も聞かないうちに流されて……。そういうところが元王太子あのバカを増長させたのでは?」


 なんで妹分からお説教されているのかしら私?


 年下からの扱いに私が首をかしげていると――視界が『ぐらん』とぶれた。


 あ、これヤバい。

 魔力の使いすぎで魔力欠乏症になったときと似た感じ……というか、まさしくそれだ。総魔力の半分くらいをアズに注ぎ込もうとしたのに、一気に持って行かれた・・・・・・・感覚があったし。


 貧血ならぬ、貧魔力。痛む頭を押さえつけ、深呼吸をし、文句の一つでも言ってやろうと私が顔を上げると。聖剣アズベインが光を発し、目を開けていられないほどの眩しさが辺りを包み込んだ。


 それとほぼ同時、私の腰から重さが消える。まるで聖剣が消え失せたように。


 しばらくして、閃光が収まってくる。


 やはり私の腰から聖剣が消え失せていて――



 ――メイド服を着た美少女が、目の前に立っていた。



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