第2話 智也の仕事場

 スーツを着て会社に向かう智也。

「あ、智也君!」

 会社に向かう途中で教育担当の先輩が声をかけてくる。

「おはようございます。藤原先輩」

 藤原 美香子。長い黒髪と知的な雰囲気を漂わせる眼鏡が特徴。スーツを着こなし、品格をもっている。外見からは厳しい先輩に見えるが本当は後輩想いのとてもやさしい先輩。智也は初めは緊張と怖そうであまりうまく話せていなかったが仕事をする中でうちとけ今では飲みにも誘われるくらい仲がよくなった。

「今日も資料作成あるからよろしく」

「うぃす」

 今の業務は美香子の手伝いである。主に企画説明の資料作成を行っている。与えられたデータをもとに資料を作成。そしてそれをもとにプレゼン用の企画書の作成だ。


「はぁ」

 会社につくとファイルが山住になっていた。

「さ、頑張った」

 資料をまとめるための膨大なデータである。資料作成をするとはいっても基本は膨大なデータをまとめていく作業が多いのである。


 一つ一つ資料を確認してはパソコンにデータを入力していく。

「先輩ここなんですけど」

 数字が抜け落ちていた部分を見つけた。わからないことはすぐさま美香子に聞く。

「えーとそこのデータは。たしかこの資料」

「ほんと大変ですねアナログって」

 まだデジタルのデータと紙でまとめられた資料で比べると紙のほうが多い。智也は資料を作成するとともに紙のデータをデジタルにいれる仕事もすることとなる。

「資料が増える一方だからね。ほらこれ」

「あざす」

 さらにファイルが増えてしまった。

 

 資料をまとめているとあっという間に昼食の時間となる。

「今日は私も外だから一緒に行く?」

「いいっすね。どこ行きます?」

「ふじも行くでしょ?」

 藤木大樹。美しさと無邪気な笑顔が特徴の、サラサラの黒髪をもつ。智也の先輩で美香子の同期である。

「おごりか?」

「なわけないだろ。行くなら早く準備しろ」

「ったくつれねーな」

 しぶしぶ準備を進める大樹。


 三人は近くの喫茶店に入った。

「安い。うまいは最高すぎる」

 真面目な顔で話す大樹。大樹はパチンコと競馬などのギャンブル癖がある。そのため、高いところには行くことはない。

「はぁ。ほんと馬鹿だわ」

 ため息とともにごみを見たような目で大樹を見る。

「だから。後輩の前でその顔やめろって」

 智也はこの光景にはもう慣れている。

「智也って彼女とかいねーの?」

「いませんけど」

 返答に疑問をもち首をかしげる大樹。

「なのになんでそんな彼女臭すんだよ」

「なんですかそれ」

 よくわからない発言に笑みをみせる。

「俺にはわかんだよ。女がいる人間とそうでない人間が。お前は確実にいるほうの人間だ。とはいえ、嘘はついてねーのが不思議なんだよな」

「智也君はあんたと違ってちゃんと付き合う予定の女性がいんのよ。今は勉強に集中するために付き合ってないだけ」

「まじかよー。せっかく合コンに誘ってやろうと思ったんによ」

「ほんとあんたは馬鹿ね。私が教育担当になって正解だった」

 さらに美香子はあきれた。

「とか言って。前日とかスゲー緊張してたくせに。怖がれないとか。それで初日距離感じて」

「智也君今日はこいつのおごりらしいからデザートとか食べたければ頼んでいいわよ」

 大樹の失言が美香子を怒らされる。笑顔ではあるが怒っている。

「まじですか。ごちそうになります」

「え、俺そんなこと」

「もちろんおごるわよね。先輩だもんね」

「あ、はい」

 大樹は折れる以外の選択肢がなかった。

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