第26話 騎士団の日々

 早朝のミーティングを済ませ、闘技場へ集合する新米騎士達、その中にジュリアも入っている。


「これから、乱取り稽古を行う!

 名前を呼ばれた者は、呼ばれた順に闘技場の右陣へ整列!

 名前を呼ばなかった者は、闘技場の左陣に向かい、副隊長の指示に従って整列!」

 騎士団長の指示が飛び、緊張が走る新米騎士達。

 舌の根も乾かぬうちに、騎士団長は名前を読み上げ始め、名前を呼ばれた新米騎士は闘技場右陣に走っていった。


「…以上!」

 一通り名前を読み終えた騎士団長の言葉を受け、残りの者は闘技場左陣へ全員走り出す。

 ジュリアは名前を呼ばれなかったため、他の者と一緒に左陣へ走っていく。


「先鋒ジュリア!

 続いて…」

 ジュリアが左陣に到着すると、早速乱取り稽古の順番が告げられていく。

 全員の点呼確認が終わったことを手信号で合図する副隊長。


「よし!それでは、先鋒より順次乱取りを始める!

 先鋒は前へ!」

 騎士団長の命に従い、ジュリアは闘技場に上がる、対する新米騎士はジュリアよりも遥かに長身で体格にも恵まれている。

 ジュリアはショートソードにラウンドシールド、相手はグレートソード!刃は潰してあるとは言え、まともに攻撃を喰らえばタダでは済まない。


「始めぇっ!」

 エモノの是非など考えず、騎士団長の合図で二人は激突…しない。

 突き出すように繰り出されるグレートソードをラウンドシールドでいなすジュリア。


 相手もこの動作は把握済みのようで、力任せに横薙ぎへと繋いでくる。

 横薙ぎの力をラウンドシールドで受け流しながら、自身の身体を回転させサラリと受け流すジュリア。


 横薙ぎが抜けてしまった相手は体制を立て直せず、上体は流れ、足元はもつれ、フラフラになる。

 そんな相手の溝落に、ショートソードの柄を当てるジュリア。


「グゲッ!」

 一声吠えると、相手はそのまま倒れ込み、地面に突伏するところを、ジュリアがそっと支える。


「それまでぇっ!」

 騎士団長の静止がかかると、闘技場がどよめく。

 何事もなかったかのように、相手を仰向けに寝かせ、ゆっくりと立ち上がり自身の持ち場へ戻るジュリア。


 この後も、手に汗握る攻防が繰り広げられるのだが、誰もその結果に関心を示さない。

 ジュリアの手際の良さに感嘆し、誰もがジュリアの所作について話し合うばかりだった。


◇ ◇ ◇

「聞きましたよぉ。

 何でも、大男を豪快に投げ飛ばしたとか…。

 凄いですね、私と同じ女の子なのに!」

 夕食時、給仕をしていたメイドの一人がジュリアに話しかける。

「たまたまです。

 それに、私は大男を投げ飛ばせるほど力持ちではありません。」

 ジュリアは素っ気なく応える。

「えぇ~~!そうなんですかぁ~~!」

 わざとらしく狼狽するメイドさん。

 ジュリアは軽く溜息をついてから応えた。

「あれは、相手の力を利用しただけのことです。

 貴女でも習得できますよ?」

「そ…そうなんですかぁ?」

 興奮気味のメイドさん。

「ええ、簡単な護身術なら教えますよ。」

「「「ホ、ホ、ホントォーーー!」」」

 会話をしていたメイドも含め、相席していた騎士までが立ち上がりジュリアへ視線を送る。

 気のせいか、騎士団長までこちらを見ているような…。


「念の為、上長にお伺いを立てますから、待っていてくださいね。」

「「「はいっ!」」」

 メイドさんは勿論、騎士まで食いついてくる。

 騎士団長の方へジュリアが視線を送れば、サムアップで応える騎士団長。


 書類申請という時間稼ぎを期待したジュリアではあったものの、翌日から『ジュリアの護身術道場』が開幕するのだった。

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