第24話 就職活動

 ジュリアの卒業が近づいてきた。

 同級生は、冒険者ギルドを筆頭に、商業ギルド、農業ギルド、鍛冶ギルドなどなど、果ては隣町のギルドを訪ねて馬車を仕立てる面々もいる中

「ジャクリーン殿を近衛騎士団員として招聘する。

 これは、皇帝陛下直々の下知である。」

 全校朝礼の席上で、校長と並び、近衛騎士団長より下知状を受け取るジュリア。

 その一部始終を見て歓声に沸く生徒と教職員…一部地域住民も紛れ込んでいる。


 ◇ ◇ ◇

「はぁ~、ギース…皇帝のもとに送りださなければならないのか。」

 ジュリアから下知状を受け取り、学校での出来事を聞かされ深い溜め息をつくレイ。

「いいじゃないですか?

 就職先が決まったのですから。」

 ヤレヤレといった顔でレイを嗜めるアビー。

「ジュリア、しっかり働きなさい。

 皇帝のためではなく、皇国の臣民のために働きなさい。」

「おいおい、それじゃ近衛師団じゃ…。」

 レイがアビーを遮ろうとするが…。

「皇帝の後ろには、皇国の臣民が居るの、解かるわよね?」

 アビーがウィンクを送れば、ジュリアは大きく頷く。

「だから、言動には十分に注意を払いなさいね。」

 そう激励して、ジュリアの肩に両手を置くアビー。

「ええ、解ったわ、お母さま。」

 アビーの手に手を重ね、アビーに身を委ねるジュリアだった。


 さて、ジュリアが寝静まり、ここはレイとアビーの寝室。

「まさか、例の御前試合が影響するとは…。」

 天井を見上げる上半身裸のレイ。

「そうね…でも、良かったじゃないですか。

 ジュリアは正当に評価されているのですから。」

 レイの隣にはネグリジェ姿のアビー

「でもなぁ、皇国のために尽くすというのは…。」

「大丈夫よ、あの娘は賢いわ。

 それに、いずれは嫁ぐのだから、近衛騎士団なんて箔が付いていいんじゃないの?」

「楽観的だなぁ、アビー。」

「あら、近衛騎士だからって、王侯貴族と結婚するわけではないでしょ?」

「まぁ、それもそうだな。」

 レイがゆっくりと目を瞑る。

「それはそうと…。」

 アビーがゆっくりとレイの上に身体を寄せてくる。

「私達の子供が欲しいんだけど!」

 そんなアビーを抱き寄せ、接吻するレイ。

「そうだね。」

 そして、アツい二人の夜が始まるのだった。


(もぉ~、お父さんもお母さんもっ!

 年頃の娘が居るんだからね!)

 布団を被り、さっさと眠りに集中するジュリアだった。


 翌朝

「レイ殿はご在宅か?」

 二人の近衛騎士がレイの自宅の玄関を叩いている。

「は~い。」

 アビーがお客様を出迎えると、彼女を見ると深々と頭を下げる近衛騎士。

「この度、皇帝の命により、貴殿のご息女を近衛騎士団員として招聘することになりました。

 彼女はまだ未成年であるため、ご両親の理解と協力を得るために、罷り越した次第です。」

「主人は仕事で出かけておりますが、私が承りましょう。

 どうぞこちらに。」

 そう言って、二人の近衛騎士を応接室へ案内するアビーだった。


「ジュリア殿の所作の美しさは、お母さま譲りなのですね。」

 お茶を差し出すアビーの所作に感心しきりの近衛騎士団長。

 お世辞を聞き流し、席に座るとアビーも話を始める。

「それで、ジュリア…ジャクリーンは何故、近衛騎士団へ推薦されたのですか?

 腕前などは、男性の冒険者に劣りますし、なにぶん田舎娘です、宮廷の礼節などに通じているわけでも有りません。」

「お答えします。」

 憮然とした顔のアビーに誠実な眼差しで応える近衛騎士団長。

「おっしゃる通り、力や技術に於いては御息女より優秀なものは沢山居るでしょう。

 しかし、皇后や皇女を守るとなると、男性では自ずと限界が生じますし、宦官もアテにはなりません。

 そのような状況の中で、天覧試合に参加されていた御息女に対して、陛下がいたくお気に召され、皇后様との協議の上で、招聘となった次第です。」

「なるほどねぇ。」

 心当たりがあるのか、アビーは何かを思案しつつ近衛騎士団長の話に相槌を打っていた。

「一度、娘や主人と話す時間を頂けるかしら?」

「勿論です。

 一月後に改めてお伺いしますので、その時までにはご返事を頂ければ幸いです。」

 アビーを前に席を立ち、深々と頭を下げる二人の近衛騎士だった。

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