二人目の娘

第18話 ジャクリーン

 さて、長女パトラをドルイド法国へ送り出した翌日、精霊女王アイリスが幼女を連れて我が家にやって来た。

 例のごとくアイリスはオレに相談を持ちかけてきた。


「レイ、この娘の未来を貴方に託します。」

 アイリスの隣に立つ赤毛の幼女、切れ長の目元に研ぎ澄まされたブラウンの瞳が輝いている。

 オレは幼女の鑑定をする。


「剣士…まつりごと…諸侯…」

 幼女の目から涙が落ち始め、オレは慌ててアイリスに視線を向ける。


「この娘の父親は男爵だったの。

 …でも、近隣国との小競り合いに巻き込まれ、父親は崩御。

 母親も子供たちを残して殉死。

 …この娘の兄弟たちは、流行病で亡くなってしまって…。」

 アイリスは言葉に詰まり、幼女は涙を流している…歯を食いしばり、泣くまいと必死に堪えながら。


 アビーも台所から出てくると、何も言わずに涙に暮れる幼女を抱き上げた。

「アイリス、この子の名前は?」

「ジャクリーンよ。」

 アビーは優しい眼差しでジャクリーンに視線を送る。


 しかし、ジャクリーンは困惑気味だった。

 その所作を見てアイリスに目を向けるアビー。

「そう、この娘のかたきは魔物よ…。」


 そして、アビーのそばに来ると、優しくジャクリーンの頭を撫でるアイリス。

「ジュリア、彼女は貴女と敵対する悪い魔物ではないわ。

 私が保証します。」

 ジュリアはアイリスの言葉に頷くと、アビーの方に向き直り、黙ってハグしてきた。

 アビーはジュリアを愛おしむように、さらに柔らかく彼女を抱き、その背中を擦っている。


「…で、この娘をどのように育てたいんだ?」

 アイリスは振り返る。

彼女ジュリアの心のままに。」

「お姫様候補は…年齢的には難しいかな?」

「ええ、おそらくは…。」

「わかった。」

 オレの言葉に、アイリスは頷くだけだった。


 いつの間にかアビーの腕の中で眠ってしまったジュリア。

「この娘は、私が責任を持って一人前の貴族にしてみせますわ!」

 アビーはアイリスに視線を送り宣言する。

「ええ、大いに期待しているわ。」

 アイリスは微笑んだ。


「それじゃ、オレは手を引く方向で…」

 オレがそう話すとアビーが睨んでくる。

「貴方は、ジュリアの剣術指南役よ!

 せめて騎士レベルの剣技を教え込むのよ!」

「…ぁぃ…。」

 オレの奥さんは子供が絡むと急に強くなるのでした。

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