第17話 パトラの旅路

「聖典にはこのように書かれています。

『神が造ったすべての物を見られたところ、それは、はなはだ良よかった。』と…」


 広場に集まった人々の前で、白い修道服をまとい、白いレースであつらえられたベールを被ったパトラが説教をしています。

 彼女は腰に薄い水色のレース帯を締め、足には皮のサンダルを履き、その足元には紺の外套が畳んで置かれています。


「私たちは、『良いモノである』と神に認められました。

 同じように、私たちの身の回りのモノについても、『良いモノである』と神に認められました。」

 手を大きく広げ、おおらかにゆっくりと、パトラは語りかけます。

 人々は立ち止まり、彼女の話に耳を傾けます。


「私たちは、神にならいお互いを『良いモノである』と受け入れるべきではないでしょうか?」

 聴衆の中から拍手が湧きます。


「そして忘れてはなりません。

 これは人の世界に留まるものでは無いということです。」

 拍手は止み、動揺するモノの声が聞こえ始めます。


「魔物含めた、この世界すべてのものに等しく与えられるものなのです。」

 パトラが宣言すると、聴衆は石を投げはじめます。


「とんでもない、女ペテン師だ!」

「聖女とは、こんないかがわしい教えをかた女性モノなのか?」

「この魔女野郎!ここから出ていけ!」

 石を投げてはパトラをののしる聴衆たち。


 石礫いしつぶてを身に受けながらも手を広げた姿勢を維持するパトラ。

「貧しい人も、奴隷の人も、孤児みなしごも、寡婦かふも…そして魔物も、等しく神は『良いモノである』とおっしゃられたのです。」


 背中に雷光輪を伴うパトラ…神々しく白く輝くその姿に人々は驚き、その威光にひざまずく。

 石を投げていた人々は雷撃を受け地に伏してしまいました。


 地に伏した人々の身体にはある入れ墨が見て取れます。

 一本の杖を両側から鳥の羽が覆うイメージをかたどった入れ墨…教会に所属する急進改革派のものでした。


「神の祝福が皆さんとともに。」

 そう締めくくると、足元の外套を携え広場を後にするパトラ。

 パトラの歩く後姿を見つめる聴衆たちは、彼女が見えなくなるまでずっと同じ場所に佇んでいます。


 さて、街を出ようとするパトラの前に、祭儀服を纏い、紫色のストラを提げた四人の男が立ちはだかります。

「裏切り者よ…お前は何処に?

 何を求め、何を得ようというのか?」


 パトラは会釈をすると彼らの脇をすり抜けて行きます。

 振り返ること無く、男たちは再度問いかけます。

「裏切り者よ…お前は何処に?

 何を求め、何を得ようというのか?」


 パトラは立ち止まり、凛と響く声で答えます。

「私は誰を裏切ったのですか?

 私の行くべき道は神が示されます。

 神の望みを求め、神の子羊を集めるのです。」


 男たちはパトラの答えを聞き終えると、静かに街へ歩みを進めていきます。

 パトラもまた歩き出し、街を出て行くのでした。


 ◇ ◇ ◇


「…で、四天を蹴って、『流浪の聖女』を気取ることになったのか?」

 オレは苦笑し

「ええ、そうよ。」

 パトラはすまし顔で答える。


 四天…

 教会の長老格たる四人の枢機卿。

 彼らの中から次期教皇が選ばれる、または、四天の推挙によっても次期教皇が選ばれる。

 それだけの権力と人望を持った存在。


「しかし、四天までがお前に声をかけるとわね…。」

 オレの苦笑が続けば

「まぁ、!だからね。」

 アビーもウィンクするとパトラは笑みを浮かべた。


 久しぶりに我が家にパトラが帰って来ていた。

 オレたちは久しぶりに家族の時間を楽しんだ。


 パトラは、明日ドルイド法国へ出立する。

「気をつけていきなさい、パトラ。」

 アビーはパトラを優しく抱きしめた。

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